剣型ライト――刀身から刃を向けた方向に調節可能な光を発するこの剣は、科特の知人の発明品で試作品でもある。
研究自体は随分前にお蔵入りになったもので、知人に言わせれば「そんな昔の駄作捨ててまえ」なのだそうだが、タツマはこの珍品が非常に気に入っていた。
軽いし丈夫(ハイカーボンステンレス製)だし、何より便利。無用の長物を持つよりよっぽどいい。それに、ライトには暗闇を照らす以上の使い道がある。
眩き閃光が刀身を輝かせる。
「うを!?」
闇夜に、不意打ちの目くらましを受け、その目くらましそのものにこめかみを強打されて昏倒する黒服。みね打ちだから、まあ安心だろう。
二階にやってきた男二人は、窓の外で待ち構えていたら油断しまくりでやってきた。不意打ちで一人を倒し、その事態に混乱している男も先ほどの通りである。
窓の外の傾斜するトタン屋根を慎重に走りながら小さい倉庫の屋根に飛び移る。ここからなら地面に飛び降りられる。
と、下から追掛けてきた三人がその小屋を囲んだ。それぞれの手には三連式のミニボウガン、それがこちらに向こうとしている。計九発。まともに受けたら間違いなく瀕死。
目を硬く閉じ手で覆い、剣を掲げる。
純白の光が、手を瞼を貫いて網膜を灼いてくる。つまりそれほどに眩しい光が剣から一瞬にして放たれた。
『ぐぅ!!』
暗闇で照準を合わそうと目を凝らしていた男達は一たまりもなかった。三人とも白熱する灯りを直視して、目を押さえてのた打ち回っている。失明を注意して一瞬しか放たなかったが、威力は十分だった。数分は回復を望めないだろう。
飛び降り、念のために三人ともこめかみを手で殴って――この方が剣より確実なのだ――気絶させる。無抵抗のものを痛めつけるのは気が乗らなかったが、仕方がない。
入り口であわただしく門をスライドしようとする音。外に馬車がつけてあるのだ。
剣光を投射すると五人の黒服と外国人の集団がわらわらと隙間から逃げ出していた。
即座に追掛けると、声が聞こえてくる。
「な、なんだこれは!! どうしたお前ら!」
あらかじめ見張りと馬車番の計3人は無力化して縛ってある。これで敵の足を遅らせる。
微かに開いていた門扉を抜けると、すぐさま取り巻きの黒服二人が反応した。
所持を禁止されているはずの剣を抜き放ち、迫る。
(閃光はもう使えない……)
バッテリー限界が近い。知人は連続百時間を謳い文句にしていたが、威力をMAXにして何度も使うとさすがに持たないのだ。あとは、ライト程度の灯りを二三分程度のみだ。
それでも、一瞬の目くらまし程度なら。
コンマゼロ、片方の男の目にフォーカスを絞った光を照射する。懐中電灯ほどだが相手は瞳孔を散開させて一瞬怯む。
蹴り、無造作すぎるが威力は抜群の蹴り。地面を転がってあわよくば気絶してくれ程度にぞんサイに胸板を――ここを蹴るのが一番吹っ飛びやすい――蹴っ飛ばす。
縦回転にバウンドする黒服を見てもう一方の黒服が目をひん剥いたが、すぐに気を取り直してこちらに斬りかかる。
剣で弾く、というよりは受け流して、小回りの効く刀身で手首を打ち据える。指が折れ、剣を落としたのを確認してから返す刀で顎を仕留める。
ごか――と、骨を響かせる手ごたえと共に、黒服はあえなく昏倒した。
さてと、蹴った方の黒服を見ると、どうやらとどめの必要もなく既に気絶しているようだった。
急いで馬車へと向き直る。手綱も轡も切り捨てている。実質馬車は動く事は無いのだが、残った三人は必死に馬を蹴り上げて逃げようとしている。馬は嫌そうに身体を揺らしながら動いたが、馬車との連結も外してあるので馬車と馬とのつっかえ棒に身体を当ててしまい馬車が大きく揺れた。慌てる男達と馬。バタバタとして、結局その場に止まる。
「逃げても無駄だ!」
叫ぶ、いまだ健在な事をアピールすると、男達はしばらくの沈思の後に馬車を降りた。
「貴様……誰だ」
最後の黒服――マキシム・イエロースタンダードが剣とナイフを手にこちらを睨め付ける。
「記者ではないな。八課……いや、知らない顔だ」
「教える義理はないね」名前が知れ渡った後のしかえしが怖いから。
こうして改めて見ると実に若い。三十代前半ぐらいだろう。そんな年齢でこんな重要な取引を任せたれる辺り、かなりのやり手とうかがえる。
マキシムは、ちらりとこちらの赤みがかった剣を見て、
「なるほど、免許持ちか」
「いや、俺はそういうのが苦手でね。あんたはそうなのか?」
そういう間にも男の体から青い光が漏れてきている。疑いようは無かった。
「これでインテリでね。なるほど……ただの道具使いか。それでその腕前とは――」
「ったく、免許まで取ってこんなことしてるなんて――」
『もったいない』
声が重なり、地面を蹴る音が二つ闇夜に鳴った。
BackstageDrifters.