鉄骨だらけの倉庫の中では、薄暗い灯りに照らされて10人の男達がたむろしていた。建材に鉄を使う当たりかなりの大企業の倉庫らしい。

 2対8。顔が見える距離ではないが多い方が組織の奴等だろう。全員黒のスーツを着ている。異国の(おそらくは)マイア人の方は、そこいらで売っているカジュアル服に豪勢なアクセサリーをジャラジャラとつけた、ひどくアンバランスな服装だ。

 何とかして入り口の警備を欺き忍び込み、こうして二階に伏せるようにして下を覗いているのだが、顔が見える距離ではない。ぼそぼそと会話もしてはいるが……

「群島共用語ですね」

「ああ、大陸語を使わないあたりパワーバランスがよくわ…か……」

 隣でメイがこちらと似た風に寝そべっていた。

「ええと、異国の方が先日の失敗を知ってそれを責めているようですね」

「メイ、君がなぜここに……! いやそれよりも! あいつらの言葉がわかるのか?」

「ええ、外国語の授業はスタンプカードで5枚ですから」

 ……スタンプカードがいかなるシステムなのかがよく分からないが、えっへん、とひどく自慢げに(うつ伏せで無理やり)胸を張るあたり、おそらくはすごい事なのだろう。

「それは心強いな……」

 腰の剣帯より、短すぎる剣を引き出す。

 指から肘までしか刃渡りがない鍔無しの剣。グリップは刃と一体型のもので握りにグリップシールが巻いてあるだけで、赤みを帯びた直刃がなんとも質素である。刃の幅、太さは共に物差し程度。切れ味はそれなり。

 とても戦闘に向くような剣ではない。

 だが同時に自分にとっては最高の武器でもある。

「で、どうしてここにいるんだ?」

 少し、咎めるように訊ねる。

「アフターケアです」

 こともなげに言うメイに、信じられないものを見る目で少し声を荒らげて、

「まさか本当にあの約束を守るつもりなのか?」

「守るもなにも、契約ですから。あ、交換が始まるみたいですよ」

 こちらの驚きをよそに、悠々とたむろする男達を眺めるメイ。

 説得をしようにも今は無理だ。質問を変える。

「伝令は?」

「してきましたよ。あと13分で皆さんやって来ると思います」

 馬も持っていないのに、なんで彼女はそれを先回りして来れるのだろう……謎が増えていく。

 13分か、あきらめきれない微妙な時間だ。

 仕方ない。

「メイ、約束を果たしたいのなら13分後にまた来い。今から仕掛けるからこの場を離れろ」

 ぼそぼそと、そう告げるとメイは

「はい、お気をつけて」と頷いた。素直でよろしい。

 窓から屋根伝いに去っていくのを確認してから、立ち上がって剣を突き出す。

 おりしも、麻薬と金の受け渡しが済んだ瞬間であった。

「<発動(ブート)>」

 赤い刀身の全体が純白の輝きを生み出して白き閃光を放つ。一瞬で、体育館ほどもある倉庫の全てが瞬時に照らされる。何事かとこちらを見上げる男達の顔まで。

パパパパ――と、関数を調整して連続したフラッシュ。さて、これを見て誤解するかどうかだ。

「誰だ!」

 黒服の誰何の声に、

「うわ!」と、尻餅をついて情けない声を上げたのは自分だ。四つんばいのまま窓へと近づく動作、

「まずいぞ! 撮られた!!」

「捕まえ……いや殺してでもネガを取り返せ!」

(よし、勘違いしたな)

 カメラで写真を取られたと勘違いした男達がいきり立って襲い掛かってくる。階段を上り追ってくる黒服は二名。外に出て回り込もうとする黒服が三名。その間に、その場の頭らしき人物と二名の取り巻きがマイア人二人を連れてその場を去ろうとしている。

 それを確認してから窓を抜けた。


BackstageDrifters.