夜気を蹴り、タツマは渾身の力で走っていた。遠くで野良犬の遠吠えがしている。
(くそったれ、時間が無い!)
足も抜けよとばかりに、夜の街を駆け抜ける。
――今より一時間後、とある企業倉庫で興奮系麻薬の裏取引が行われる。
巨大麻薬原産国マイア直々の取引。他国民を抑えるのは難しいが現場を押さえたならそれは別、これを一網打尽にすれば麻薬最大手であるマイアからの流入がしばらく収まるはずだ。
この取引はユアタが知っている最後の情報だった。もちろん、細々とした取引情報も入手はしたのだが、現行犯で逮捕できる機会はこれを置いて存在はしない。
(なんで俺がこんな事してるんだ……)
毒づきながらも駆ける足を止めはしない。全力で走って何とか間に合う距離なのだ。
本来なら麻薬対策課と暴力団対策課に情報をリークすればおしまいのはずだった。しかし、今は時間が無い。
事情を了承している我が上司へメイに頼んで連絡をしてもらっているのだが……間に合うかどうかは運次第だ。
何とか先に証拠だけでも押さえなければならない。おそらく全員が武装をしているであろう取引現場に飛び込むと言うのだ。流石にぞっとする。
行くな! と本能が叫んでいる気がしたが無視してやる。
腰の鞘を握り締める。走るのに邪魔にならない程に短い剣が、揺れることなくそこにあった。
BackstageDrifters.