ゴパァ――!
あばかれた棺おけの蓋が内側から勢いよく開いた。
「う、うわぁぁあ!!」
20人ほどが驚いた。
そのうちの5人ほどが我先に逃げ出そうとした。
さらにそのうちの1人が派手に転びさらに逃げた4人のうちの1人の足をつかんだせいでそいつも転んだ。
まったく関係のないところで殴り合いが始まったが、メイは無視して棺おけを睨んだ。
すでに蓋は開ききっていた。
そこからにゅっと手が出た。男の手だ。
「ふわぁぁ」 棺おけの中身があくびをしながら起きあがる。
太ったおっさんの死体だった。目をしょぼしょぼさせてこきこきと首を鳴らす。
あまりといえばあまりのできごとに人々はあっけに取られた。
間の悪い沈黙が起きる。
「アスラム様」
そんなことはまったく気にせず、メイは死体に呼びかけた。
「ああ?」のっそりと死体。まるで朝起きたてでろくに思考が働いていないときのような感じだ。
「おはようございます」
メイの持つ杖とメイの周囲は、ぼんやりとした蒼い光をたたえている。
「うい」 気持ち程度に手を振り、「おはよう」まるで子供である。
死体は死後三日程度で肌こそ血の気の失せた色をしているが、特に目立った腐乱や破損はなかった。でっぷりと太っているせいか寧ろみずみずしい。
もごもごと口を動かしている。口がねばついているのだろう。
「起きたてで申し訳ないのですが二、三質問があります」
「おう」どんとこいと今度は酔っ払いのような態度で手をあげた。
「“昨日”の就寝前のことですが、どちらに行かれたか覚えておられますか?」
「ん」首をかくんと落としうつむく。
へんな間が続く。頷いたようにみせかけて活動をまた停止したのかもしれない。
「ああ、行った」 唐突に死体が答えた。「倉庫だ」一応考えてはいたらしい。
「それは何番の何の倉庫ですか?」 ため息をついてたずねる。
「ワイン倉だから」止まった。微妙な間のあとまた動く。「二番だ」本当に紛らわしい。
よく見ればメイの額からはじんわりと汗がにじんできている。時間がたつにつれ体力を消耗しているようだ。
「なぜそこに行かれたのですか?」 噛みふくめるようにゆっくりとした言い方だった。
「…呼び出された」
「どなたに?」
「誰? だれだったっけ、ええと」
今までで一番長い間。静寂が呼気の音すらもなくすらも続く。そして、
「そうだあれは確か……」
ぼそり、と死体はその名前をつぶやいた。
BackstageDrifters.