人が殺された。
ろくでもない名家富豪の家長だったので誰もが手を上げて喜んだが、一族の当事者たちにすれば(実のところ身内にも評判悪かったので喜んでいたのだが) それどころではない事態でもあった。
と言うのも、容疑者は明らかに一族内の人間でしかも相続人のなかにいることがわかったからだ。
一族としては犯人かもしれない相続人に相続をおこなうわけにもいかない。家族会議の結果、遺産相続は犯人の逮捕待ちとなってしまった。
ところがこの容疑者兼相続候補というのが3人の妻に2人の愛人、13人の子供に4人の隠し子と、実に22人もいた。多妻制は廃止されているので正式には4人の愛人となるがそれは置いておく。家の家訓と言うのは理不尽なものだ。
隠し子がもとから数に入っていたり、隠し子のくせに実は一家の全員どころか地元でも周知の事実だったりするのもこの際どうでもよい。
問題はどいつもこいつもアリバイがなく動機も十分あったということだ。
22人全員に殺されてもおかしくない家長と言うのもそれはそれで面白いが、たまったものじゃなかったのは警察である。
木を隠すには森とは言うが、容疑者を隠すなら容疑者の中。状況証拠も大半は全員に適用されてしまいどう考えても証拠不十分になる可能性のほうが高い。
名家の一族相手にまさか冤罪沙汰を起こすわけにもいかず、警察も手をこまねくしかなかった。
業を煮やしたのは一族のほうだ。
ふがいないと恫喝の一声をあげたのはかつて大陸中に名声を轟かせた老貴人、エスハウンド・クローナだった。彼は殺された家長アスラム・クロナクルの実父である。
エスハウンドは独自の《つて》を利用してとんでもないものを呼び寄せた。
いわく、「犯人が解らんのなら、目撃者に聞けばいい」
それが居ないから困ってるんだろうがというツッコミは、その権力を恐れてかどこからも入らなかった。ついにボケが来たと陰口はたたかれたが。
BackstageDrifters.