頭部から落ちたものの、幸い頭は打たなかった。
 だが、地面についた背中を支点に足が大きく振り回され、激しく地面に打ち付けられる。
 足から頭部へと全身を突き抜けるような衝撃が走った。
苦悶にあえぐも、気力を振り絞って這い起きる。
 何かに引っ張られ、シャアラはドブ臭い地面に顔を擦り付けた。
 振り向くと、知らぬ間に足首を掴まれていた。先ほどの男だ。
 その事実と、掴まれている感覚がないことにぞっとする。
「はな、せよ」
「やぁだ」 ガキか。
「離すんじゃねえぞ、ゴード」
 トーナーと、あともう一人細身の男が扉をくぐる。
 こいつだけ名前知らないな、そう言えば。
 まあ、いいけど。ナターシャとかそう言う名前だったらいいな。
「ナズ、起こしてやれ」 おしい。いや、惜しくないけど。
 ナズと呼ばれた狩人(どうもトーナーがリーダーで残り二人は取り巻きらしい) が起こしたのゴードの方だった。ゴードも倒れていたのだ。
「謝る気になったか?」
「金を払う気になったかの間違いだろ」
「急くなよ。そうだな、しいて言うならどっちもだ」
「しいて言ってやる。どっちもお断りだ」
 男たちは、顔を見合わせ、薄笑いを浮かべて肩をすくめた。
 シャアラは、口を止めない。
「せいぜいそうやって群れて、自分らが正しいと錯覚してればいい」
 反吐を出すかのように吐き捨てる。
「けどな、ウチは何度だって言ってやるぞ。
 お前らは間違っている、聞いてるよな、自称善人?
 お前らは間違っているし、人間のクズだ!
狩人などとほざいて、正義も味噌もない、ただ群れて獣を殺すだけの殺し屋だ!」
 男たちの顔から笑みが消える。
「どれだけ社会のルールに従っていようと、たとえ大手を振って街を歩こうと、その事実は覆らないし撤回もしない!」
「撤回なんてしなくていい...」
「はん、そうやって開き直ったような台詞を吐く時点で、後ろ暗いってことじゃないか! そうやって醜く反論して、せいぜいたびたびウチを思い出しやすくするんだな!! お前らはその都度、間違った人間だと自覚し続けるんだ!!
 たとえここでウチがのたれ死のうと、いやのたれ死ねばもっとだ!!!」
 言ってて泣けてくる。今のシャアラにはこんなことしかできない。いぎたなく呪い罵って、せめてこいつらの飲む酒の味をマズくしてやるぐらいしか。
「...気が変わった」
 狩人がにじり寄る。その目は、身の毛もよだつほどに冷え切っていた。
 変われ、何度でも何回転でも変われ。もうしるか。
 今の自分ができるのは、上半身を動かすことだけ。足はまだまだ回復しない。
「慰謝料はいらねえよ。適当におっんで、あの世で化け熊に殺される村の人間を待ってるんだな」
 その一言で、シャアラの頭は一気に冷えた。


BackstageDrifters.