「お前が、お前がそれを言うのか!」
「何度も言わすな。金さえあれば助けてやるって言ってるのに、お前は金など払わないと抜かしてナンクセいちゃもんをつけた。
商売してるだけじゃねえか。何が悪い。むしろ被害者はこっちだってんだ」
違う! そう叫びたい。だけど、
「お前がごねたから化け熊を倒すチャンスは永久に失われたんだ。あ〜あ。場合によっちゃあ、たいした追加金でもなかったはずなのにな」
「そうそう、俺らにも義理ってもんがあるしな」
「もしかしたらタダだったかもしれないなあ」
くそ、くそっ。そんなのもう解っているんだよ。自分のせいで、村の危機がこれからも脅かされてしまうんだ。金だって、村長に掛け合えば何とかなったかもしれない。
目が霞んでくる。狩人たちのにやけた面が滲んでぼやける。
ダメだ、くじけるな。最後まで反撃するんだ。
こいつらがクソ野郎だと言うことには代わりが無いじゃないか。
いやそうなのか?
こいつらは商売人の道義とやらを通しているだけじゃないのか。
物語でよくある、立場が違うだけでどちらが悪いわけでもないとかそう言うのじゃないのか?
だとしたら自分は、自分のやっている事は...ただの愚行だ。
そう思ったとたん打ちひしがれる。
「くそぉ...くそっぉおお!」
それ以上の声が出ない。狩人に向かうはずだった怒りが、全て自分に帰ってくる。身も、心も、もうままならない。抗う心が根こそぎ萎えてしまった。
薄汚れた敷石の地面に涙がこぼれる。この涙さえ偽善に思えた。
足音が近づいてくる。もうなにもできなかったが、せめて拳を握った。
「捨て台詞も不発だったな。つか、もういいわ。飽きた。
適当に弄られて路頭をさ迷っとけや」
何の感情も見出せない、乾いた声が終わる。
男が足を少し上げて、シャアラの頭に狙いをさだめる。
と、
「そんなことはさせないぞ!」
妙に若々しい声が、すすけた狭い路地に響き、何者かが狩人――トーナーに体当たりをかました。
完全に、誰にとっても不意打ちだった。
ぎょっとして、首を上げてみればそいつは、
――宿屋の親父だった。
BackstageDrifters.