大通りを曲がり狭く入り組んだ道を歩く。
奥には私が借りている宿がある。
宿には、旅用の荷物――貴重品は持ち歩いているが、テントなどは部屋に置きっぱなしにしている。
本来は点検を済ませ、あれこれ補充をした後に荷物をまとめるところだが、この街にいられなくなった以上すぐにでも回収して街を出て行きたい。今なら、日も昇りきらないうちに峠を一つ越えられる。
「――ふぅん、ジェイクね。顔を無理やり似合わせざるを得ないぐらいにシブい名前だな」
「ほぉ、そう言う少年はゲロ太郎か。ずいぶん思い切った名前だな」
「腸を切ろうが思い切れるか、んな名前! いつまで引っ張るつもりだっ!!」
脛を削るように踵で踏むと、ジェイクは苦悶の声を上げて脛を押さえた。
「シャアラだ、シャアラ! あ〜もう、お前に名前なんて教えても意味なんてないのに」
「了解、シャアラたん」
「たん!?」
「なんか、名前まで女っぽいのな、お前」
「だかましぃっ! めちゃくちゃ気にしてるんだぞ!!」
「あ、やっぱり?」
――――――っ! 腹立つ腹立つ腹立つ!!!
「もう、お前付いてくんな!」
宿についた。名前は『袋の鼠亭』 フザケた名前だ。
勝手口のような入り口のドアノブに手をかける。
「ずいぶんとまあ、家庭的な宿だな」
ジェイクが苔むした壁やら、倒れたブリキのバケツやら、割れた窓ガラスやらを鑑賞しつつコメントする。
ついて来るなと言ったのに、ついてきやがった。
犬かこいつ。
「...値段優先で見つけたからな」
「安物買いの銭失いって言葉知ってるか?」
「どういう意味だ」
扉はガタがきているのか重い。いや、重いというより硬かった。
息を止めて踏ん張って押すと、不意に手ごたえが軽くなる。
引っ張られるように中に入ると、狭いロビーのテーブルで談笑していた男二人がこちらに振り向いた。
「お、帰って来たな」
「お帰り〜〜ボクちゃん」
昨日の狩人――
体温がいっきに3度ほど下がる。
「よう」
上から声が振ってきた。
見上げる、心境的には見上げたくなかったのだが。
案の定そこには、狩人――昨日ゲロを顔に塗りたくってやった男。
右目に眼帯をつけて、もう一方の目を細めて、
「なんだぁ? 女みたいなカッコして、変装のつもりか?」
「余計なお世話だ」
と言おうとしたが、口がこわばって開かない。
【袋の鼠亭】・・・素泊り・風呂なしでパン10個分ぐらいの額、警備なし、保険なし、保証なし。
BackstageDrifters.