「立って歩く小熊ですか」
 まさに独り立ちだ、と、どうでもよいことを考えた。
 そうこうする間にも、団長は熊の足跡を辿り歩いている。
「さっきの話だが」
 どのさっきだろうと思いつつシャアラも団長の足取りを追っかける。
 足跡は団長に任せ、周囲を警戒することにした。
 熊の足跡があると言うことは、熊の縄張りに踏み込んでいる可能性もある。
「聞いてるか? さっき、将来の話しただろ」
「ああ」 それのことか。
 とはいえ、シャアラには他に答えようがない。
 本当に自警団員になる以外に考えたことがないのだ。
「それはそれで優等だけどな。それはそれで寂しいんだよ。
俺だってお前の時分くらいにはいろいろ反発したし、悩んだもんだぞ」
 団長は昔、狩人ハンターだった。酒を飲むたびにその話を聞かされるのでシャアラには聞き飽きた類の話だったが。
 聞く限りではそこそこやれていたらしいのだけど、ある日、急に故郷の安否が気になって、あるいは自分の限界を感じて、あるいは狩人にとって致命的な傷を受けて、あるいは自分のミスで仲間を見殺しにしてしまって、あるいはとんでもない天才が現われてやる気をなくして、あるいは単純に飽きて、あるいはホームシックによって帰郷したのだそうな。
 話す度にと言うか、酒が入る度に話が変わるのでどれが本当なのかサッパリわからない。
「狩人にでもなれってことですか?」
「なんだ、当てつけかよ」 表情は見えないが、「それもいいかもな。外で揉まれて、強くなって帰ってくるって前提ならな」 たぶん微笑んで。
 団長とは、スタミナこそ同列だけど、こと戦い――そんな機会は滅多にないけど――における強さでは大きく差が開いている。
 団長の強さは、この村でも桁外れだった。
 その強さは、間違いなく団長が狩人時代に得たモノで。
「...強くないと、村は守れないのでしょうか」
「誰か一人は、な。いつか途方もないモンスターが現われたとしても、狩人はこんな村までは来てくれないだろう。そんなとき、戦うのは結局俺たちだ」
 いつかは必ず訪れる。と、団長はよく漏らす。
 狩人として暮らした団長が鍛えたお陰で、自警団の強さはある程度向上した。
 けれど、
「ま、そんなのが出てきちまったら、俺らが敵うわけも無いんだがな」
「でしょうね」

【狩人と自警団の強さの差】・・・長嶋茂雄とプリティ長嶋ぐらい。

BackstageDrifters.