――シャアラ、お前はどうするつもりだ。

「はい?」
 枯れかけの草木をかき分け、団長の足を追う。
 足首から脛にかけての疲労が、そろそろ帰る頃合だと訴えていた。
「将来、ですか」
 しばらく考えてから、シャアラは団長の足に答えた。
「考えたことがありません」
 団長も黙々と探索を続けているが、疲労の程はどっこいどっこいだろう。
 生まれて14年間自警団員としての鍛えてきたシャアラと、そろそろ壮年にさしかかる団長とでは、キャリアの差を考慮してもそれほどしか差が出ない。
 その事実が、ひとえにシャアラが自ら進む道に悩まず村の番人としての将来を見据えていることを証明していた。
「そうか...」 団長は一息ついてから「つまらんな」
「そうですか?」 弾む息で反論する。「どんな仕事だって、就けばそれなりに生きがいがあると思いますけど」
「そう言う意味じゃねえんだがな」
 団長が珍しく苦笑して、すっと手を上げた。静止の手信号だ。
「終了ですか?」
「いや...足跡だ」
 顎で差す。シャアラは頷きもせずにしゃがみ込んだ。心得たもので、最低限の身振りと会話である。
 足跡は、腐葉土にめり込む形で点々と付いていた。
「熊...ですよね。小さいけど」
 木の葉と腐葉土にめり込む足跡はシャアラの掌ぐらいの大きさだった。
 足跡から推測できる熊の体格は、小柄なシャアラよりも小さく、体重は同じくらいだった。生後4、5歳のオス、もしくはメスの成体だろう。
 続けて足跡を追って、シャアラは息を飲んだ。
「これ...立って歩いてる?」
 足跡は、腐葉土と言うことを差し置いても深い。
 通常の熊より体重がかかっているということである。
 熊はかろうじて二足歩行することができるので、立って歩いたと考えるのが妥当だろう。現に前足の後がない。
 二足歩行の足跡は、延々と草葉に隠れ見えなくなるまで続いていた。



BackstageDrifters.