序章:「異変」
山の様子がおかしいと噂が上り始めたのは、そろそろ紅葉が燃え尽きるかと言う時期だった。
ここ最近、熊が山を降りて畑を荒らすと言う害が増えてきている。
熊が冬眠に備え餌を探すうちに村へと降りてくること自体は珍しくは無いが、それは山の実りが少ない時に限られる。
今年は目だった嵐もなく、木の実も豊作な年だった。
わざわざ人里にまで降りて来る必要は無いのだ。
迷い込んだだけか...と思えたが、被害者の言に寄れば畑を襲撃した熊は明らかに飢えていたという。
兆候はそれだけではなかった。
やはり山に住まうはずの昆虫や蛇などが村で発見されること。
旅鳥の渡りがいつもより足早だったこと。
野犬の遠吠え、鳥の囀りに警戒を知らせる声色が混じっていること。
ところどころの落葉が遅く、山の遠景が赤とこげ茶色のまだらになっていること。
旅人が遠のいてからは珍しい焚き火の煙が、頻繁に山から上がっていること。
山で何かが起こっている。
そう結論をつけた村の代表は、狩猟者と青年衆からなる自警団を招集して調査を命じた。
BackstageDrifters.