「あなたが? ...失礼ですが」
「俺は、ジェイク。ジェイク・ロフトだ。東の大陸のさらに東からやってきた」
村の代表者たちが、ざわめく。
村長と長老が、ただじっと場の様子を見守っている。
「東の...」
「あの英雄の大陸から」
老人になるほど――魔属を直に知っている者ほど、東に対する畏怖は強い。
「けっ」
狩人が唾を吐いた。
「東の出身ってだけだ」
とは言うものの、こいつもさっき東の力に怯えたばかりだ。
ジェイクは続けた。
「どういう風に聞いているかは知らないが、東の大陸はそう、魔属と戦い勝利した歴史がある...今回の化け熊退治でも役に立てるはずだ」
「はったりだ! どれだけ東がスゴかろうと、こいつ自身はただの墓荒らしにすぎねぇ!!」
割って入ったのは、狩人。
「おい! この仕事は俺たちが請け負ったんだ。いきなりしゃしゃり出て、横から手柄を掠めようなんざ、ちょいと道理にそれるんじゃないか!?」
「お前こそ」
ジェイクはふてぶてしく言い返す。
「わざわざこんなところまで出向いたのに賞金の二重取りなんざぁ、ちょいとアコギすぎやしねえか?
ったく、呼んでもないのにツケて来やがって。余計話がややっこしいだろうが」
「なんだとてめえ!」
「きゃ客人。後生ですから刺激しないでください」
慌てて抑えに入るタロヒを手で制して、
「あんたも村を仕切ってるのならよく考えろ」
突然矛先を変えられて、戸惑うタロヒさん。
「狩人がわざわざ、こんなヘンピな村に出向いてるってことはだな。
もとからこいつら、化け熊を狩る気満々なのさ。交渉の余地とか無くな」
「え?」
「だよな」
と、訊ねるジェイクに狩人は応えるはずもなく。
ジェイクは、う〜んと唸ってから。
「シャアラぐらいは気付くと思ってたんだが...だって、他に目的なんてねえだろ? 狩人が遠出するなんて」
「それは...」
それはそうだが...だからと言って。
口をつぐむ村人たちを見据えて、ジェイクは、
「まだわからねえか? こいつらは、元々狩る気なのに金を出せって言ってんだよ。払わなくても化け熊は狩るんだよ、どうせ」
「そんな、それじゃ詐欺じゃないか!」
思わず口に出た言葉だが、ジェイクはこちらを向いてナイスタイミングと言いたそうに、片眉を上げた。
「詐欺ではないが、騙されて無駄金はたいてるのは確かだ」
「だ、黙れ! それ以上言うと本当に...」
「狩らないか? 今帰ると完全に赤字だな、お疲れ」
「ぐっ...」
完全に、狩人が口をつぐんだ。
もはや言い返せないのだろう。
そして言い返せないことが、さらに狩人の立場を悪くしていく。
悪循環だった。
ぶるぶると口と肩を震わせるそいつを見て、シャアラの憎しみはすっかり晴れていた。
そして、冷えた頭で、あることに気付く。
【英雄の大陸】・・・かつて英雄がいた大陸。英雄は、魔王と死闘を繰り広げ相打ちとなった。
【魔族・魔属】・・・魔に属す者。あるいは魔そのもの。その強さは、魔獣の比ではない。
BackstageDrifters.