「それでは、自警団の補修資金を謝礼に回すということで異議は無いな」
「異議なし」
「幸い今は冬だ、化け熊以外の脅威は無い」
「シャアラもそれでよいな?」
 全員の視線が自分に集う。
「...ありません」
「聞こえねえよなぁ」
 大卓の上座に腰掛けふんぞり返っていた狩人(トーナのみ、他は待合室に残った) が、ニヤニヤとした顔でほざいた。
「異議ありません」
 下座に座していたシャアラは、無視して平静な声で繰り返した。
 苦渋に満ちた顔でも見たかったのだろうが、もはや諦めていたので落ち着いたものだった。
「ついでに目の治療代とやらも払ってやろうか。それと、あの似合わない包帯ファッションはやめたのか?」
 皮肉気に言ってやる。
 山を歩くのに、片目では距離感を失い危険だったのだろう。
 男はすでに包帯を取っ払っていた。元から傷など負っていなかったのだ。
 狩人は、一瞬憎々しげな表情をしたが、すぐにもとのにやけ面に戻った。
「吠えるなよ。機嫌損ねちまうじゃねえか。このまま帰ってもいいんだぜ?」
「シャアラ!」 麓の地主が慌てて怒鳴った。
「ぐっ...」
 自制したが駄目だった。
 喉の奥から悔しさが込み上げてくる。くそ、何でこんな奴に、貴重な自警団の運営資金を...
 こんな奴に、村を守って壊滅した自警団、化け熊相手に果敢に立ち向かい死傷や重傷を負った仲間達に当てるべき金が渡ってしまうなんて...
「異議あり」
 部屋の端から険悪な空気になった場をぶち壊すような声が上がった。
 村の代表と狩人がいぶかしげにそちらを向くが、シャアラは上座を向いたままだった。
 そこに誰がいるのか判っていたからだ。
 ドア横の壁に瀬を預けていた彼の、のほほんとした声がシャアラの耳に届く。
「その化け熊退治、俺にもやらせてくれねえか?」
 とたん、シャアラも振り向いた。



BackstageDrifters.