四章:「ジェイク」

 村の若人頭、地主、その他代表と村長長老が狩人たちと挨拶を交わしている間、シャアラは会議室の隅で傍観するように立っていたジェイクに近づいた。
「あんたが魔術士だなんて知らなかったぞ」
「いやまあ、魔術士じゃなくて魔術も使えるってだけなんだけどな」
 付喪神を手招きしながらジェイクは答える。
 それにしたって、スゴいことである。
 魔術の発展が遅れているこの大陸では、魔術師は奇異の存在だ。
 それこそ、精霊や付喪神(?) を見ただけで、一流の狩人が腰を抜かすぐらいに珍しい。
「またよろ〜」
「うい、また」
 手招きされた付喪神が、ジェイクの手のひらに載って手を振った。
 そして別れの挨拶を交わすとぽんと音を立てて、親指サイズの紐付きの人形に変わった。二頭身のマスコットのようなキャラクターだ。
 これが、先ほどの付喪神の正体と言ったところだろうか。
「ウチを助けたのもその力か?」
「付喪神は俺の力じゃない。付喪神ってのは、物に宿った精神な。
俺の魔術はその憑依した精神を現し世に顕現させる術だ」
 と、指先で正三角形と逆性三角形を描く。
 絵本でよく見た、六芒星の図形。
「特定のもの?」
「人の思いが募るもの。まぁ、おたからさ。長く時を経て人の思いの溜まったものには、相応の情報が刻まれる。聞いたことあるだろ。古いものには魂が宿るってな」
「そんな伝承は、この辺には無い...どうせ、物量が不足しがちな国がでっちあげた古物賛歌だろ?」
 あちらの大陸は、慢性的資源不足の国が幾つか存在するらしい。
 大昔の魔属との戦争で石材や木材、畑までもが一度壊滅しているからだ。
「まあな。俺のばあちゃんもよく、物を大事にしないともったいないお化けが出てくるよ、って脅かしてくれたもんだ」
「何でそこでお化けが出るんだよ、くだらない」
 山暮らしのシャアラは、物の大切さなど自然の理として身に染みている。
 お化けなどに脅されなくても、贅沢はしないし、できないのだ。
「くだらんことないぜ、坊主。何せ、この付喪神君は、いわばもったいないお化けだからな」
 にかりと笑うジェイク。
 そんなうちにも、会議が始まる様子だった。
 ...結局またどうやって助けたのかをはぐらかされた。

【魔術士】・・・魔法著作権協会の資格試験を受かった者のみ名乗れる称号。
【六芒星】・・・主に召還や、汎用術式スクリプトを呼び出す時に使う。
        念動力を高次のエネルギーに昇華させる働きがあり、一部の超人を覗いて、
        魔術遣いはこれら魔法陣の補助が必要となる。

【もったいないおばけ】・・・この手のフォークロアは、どの世界どの文化においても存在する。


BackstageDrifters.