ふわっ、と生暖かい風が吹いた。
 獣の、羽毛の匂いがシャアラと狩人の間を抜ける。
「ストップ。です、よろし?」
 ミニチュアサイズの羽根の生えた――確か東方の貫頭衣と呼ばれる煌びやかな重ね着を来た人間が、シャアラの鼻先でそう言って首をかしげた。
「な...」
「せ、精霊!?」
 狩人が腰を抜かして、しりもちをついて後退る。
「むぃ、精霊じゃありま温泉」
「温泉?」
「みーは、じんせーれーのような誇大妄想狂じみた奴なのではないよろ」
 人精霊とは、人――主に英雄が死して精霊になったもので、確かにそう言う意味では誇大妄想狂が多いのは確かだが...
「じゃ、誰だよ」
 すっかり、やる気も失せてシャアラは聞いた。
「そいつぁ、付喪神だ」
 遅れて入ってきたそいつは、のんきな声でそう言った。
 そいつ――ジェイクは、指先に灯る蒼い光を振り払いながら、
「タロヒさん...だよな」
「え、ええ。あなたは?」
「俺は村長長老の客で御遣いだ。それより、そろそろ集会が始まるから呼んで来てくれ、って入り口で言われたたんだが」
 そんなことを言う。
「大叔父さんと爺ちゃんの? あ、いやそれより」
 タロヒさんは気を取り直して、精霊(もどき) に怯えたままの狩人たちに呼びかけた。
「皆様、準備ができました。依頼金や準備等を含めて皆様のことを紹介します」

【貫頭衣】・・・元々きらびやかな物らしい。
【精霊】・・・実態のない人格のこと。仏さんの様に死者を指す場合もある。


BackstageDrifters.