「馬鹿な!」
村長の孫、タロヒの下した決断にテーブルを叩いて反論するシャアラ。
「こいつらに金を払うだって!? この件はウチに委任するはずじゃなかったのか」
「そういうがな、シャアラ...」
事実上、村のまとめ役であるタロヒが普段は温厚な顔をしかめる。
「ここにいる方たちは、何度もモンスターを狩った実績のある御方と言うじゃないか」
タロヒさんは背後で談笑を交わす男たちに聞こえないように、ひそひそとこう続ける。
「確かに、賞金の二重取りは癪だが、それを言っている場合ではないだろう」
「足元見られてるんですよ!」
「ああ、その足元も、こちらの予算を正確に見越した正確な額だった。
払えないわけじゃない」
細いタレ目をさらに細くする。
強く言えないワリに打算が高いのはタロヒさんの長所だが、今は欠点だった。
「悪いが、村の予算を回させてもらうぞ。こんなところにまでわざわざ来てくれる狩人なんて、奇跡に近いんだ。俺もあれこれ手は尽くしたが、結局駄目だった。もうこれしかない、村を預かる身として、このチャンスを逃すわけにはいかん」
「――っ」
歯噛みする。
「街で何があったか知らないが、ガマンしてくれシャアラ。」
「そうだ、ガキはすっこんでろ」
狩人が遠くから、野次を飛ばした。
「うるさい、その剥製に触るな! それは自警団が仕留めた羆なんだぞ」
十数年前――シャアラが生まれた頃に、似たような化け熊騒動があった。
今の化け熊程ではなかったが、それでも大物だった。
犠牲者も出たし、自警団でも一人死んだ。この熊は、その犠牲者が今際のきわにつぶやいた――熊をしとめて剥製にして集会場に飾ってやりたかった、と言う冗談を汲んで剥製にされたのだと、団長は酒の席でよく語ってくれた。
「へ、こんな雑魚ごときを剥製にして喜んでんじゃねえよ」
狩人は、剣を引き抜いた。
「...な。ちょ、やめろ!」
そして、熊の剥製の頭に突き刺した。
目の前が、真っ赤になる。
シャアラは強く静止をかけるタロヒをつき飛ばして、殴りかかった。
【タロヒ】・・・村のまとめ役。熊襲撃後、シャアラだけが頑張っていたわけでなく、
他の村民も東の街に助けを求めに行ったり、タロヒも国に掛け合うなどの手を尽くしている。
結果は、タロヒが言うとおり。
【熊の剥製】・・・幼いシャアラは、よくこれにまたがってふざけ、団長にぶっ飛ばされていた。
BackstageDrifters.