「おいが村長だ」
「そしてわいが長老だ」
 ジェイクが目を丸くしながら、チェアに荷を降ろす。
 暖炉の炭がバチンと爆ぜた。
「双子ですか?」
 杖を突いて32ビートを刻むヨボヨボの爺さん二人に訊ねる。
 二人の爺さんは、まあ見た目どおり物凄い爺さんだ。
「いや、従兄弟だ。似てるとはよく言われてるけどな。同じ年生まれだし」
「ええと、どちらが長老でどちらが村長?」
「わいが長老だ」
「おいが村長だ」
 沈黙。
「おいが村長だったかな?」
「そうだったか?」
 ジェイクがひそひそと耳打ちしてきた。
「こんなんが村長でいいのか...?」
「こら、失礼だぞ」 たしなめるシャアラ。
 聞こえたらしく、長老(カーキのカーディガンを着ている) が、ジェイクにつばを飛ばした。
「失礼な! おしゃまだまだ現役の長老じゃ!」
「いや、そりゃ長老は自動で現役だろーけど」
「そろそろ、若い奴らに譲ろうとは思ってるんだがのう」
「や、長老譲ったらあんた死んじゃうから」 
 とつぜん、何の脈絡もなく村長(エンジのカーディガンを着ている) が、ゼンマイが切れかけたブリキ人形のように笑った。
「ぇっふぇっふぇっ、村の若い連中は虎視眈々と長老の座を狙っているからな」
「ひでえ村だな、それ」
「まともに取り合うな...村長、タロヒさんは?」
 登山靴に登山服を脱ぎ捨てて、壁に掛けてあるコートを羽織る。
「孫は会議中。あとで顔を見せてこいシャアラたん」
「たんっ!? いや、あとでじゃなくて、すぐさま行くつもりですけど」
 靴箱から普段履くブーツを取り出し、足を泥まみれの靴下ごとつっこんだ。
「えぇ。そんなつまんな。わしらに街の話聞かせてくれんのかのう」
「互いに生きてたらあとで何回でも聞かせます」
 踵で床を叩く。
「ジェイク、あんたは村長と長老の相手しててくれ、いいな」
「お、おう」
 暖炉のスープを味見していたジェイクが、びっくりしたように振り向いて、手を振った。

【村長】・・・村の総代。村の運営自体は村長の孫タロヒが取り仕切っているため、ただの名誉職に近い。
      義理堅く信に厚い。
【長老】・・・村の年長者。ただの名誉職。熱血漢。



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