「ここがウチの村だ。ひなびて寂れているが、ウチはここで一生を過ごすつもりだ」
「いい村じゃねえか」
ジェイクは鼻を鳴らしてコメントした。「棄てられた山道に幻の村落を見た...って感じだな」
やたらのんびりした口調で言うジェイクの脛を蹴っ飛ばして、シャアラは駆け足で獣避けの柵に近寄る。
「...無事だ。熊が通ったあとが無い。村には来てないみたいだな」
「自警団事務所と牧場はどの辺だ?」
「東の山に面している。ここから正反対の方向だ」
はやる気持ちで膝丈程度の柵を跨ぐ。
短い間だったが既に懐かしかった。
「あとで連れてってやるよ。どうせ、東の街に行くんだろ?」
「ああ、まあそうだな」
微妙に言い淀むジェイク。シャアラは気にせず、
「じゃあ、今日はウチの家にでも泊まって行け。格安だぞ」
「金取るんかよ」
「そりゃあ――」
こつ、とシャアラの背中に何かがぶつかった。
足元を見ると、畑の土には不自然な石ころが転がっていた。
拾おうとかがむシャアラ。
その頭に鈍い衝撃がはしった。ゴツと言う頭の骨の音が響く。
赤ん坊のこぶし程度の石が、また畑の土の上を転がる。
「坊主!」
ジェイクが慌てて柵を跨ごうとする。
「はいってくるな!」
村側の遠くから、子供が怒鳴った。
それは、シャアラには聞き覚えのある声だった。
「はいってくるな! そこはっ父さんの畑だぞ!!」
遠くの少年が石を拾っては投げながら叫ぶ、いや泣きわめいている。
状況がわからず、戸惑うジェイク。おたおたと、妙に情けない顔をしている。
シャアラは苦笑して北のほうを指差した。
「あっちの雑草だらけのところから、まわって来い。
ズボンが露に濡れるだろうけど、まあそれぐらいはガマンしてくれよ」
「あ、ああ」
意外と、素直に聞き入れるジェイク。
「なあ...大丈夫なのか」
「大丈夫、こんなとこから入ったウチが悪いんだ」
なおも石は飛んできたが、シャアラにそれを避ける気は無かった。
だけど、柵を出る気も無かった。
「ウチがね――」
【入り口】・・・基本的に村に入り口など無い。獣が入ってこないように村を囲った柵を跨いで入る。
BackstageDrifters.