「それで、どうするんだ」
 薄いコーヒーを飲んで落ちついたジェイクが訪ねてきた。
 シャアラのカップの黒い液体が微かに揺らぐ。
「...取り合えず村に戻って尊重と長老に意見を聞くよ」
「また、狩人を捜すのか?」
「そうなるだろうね。遠いけど、今度はもう一方の街に行ってみることになるかも」
 熱いうちに一気に流し込む。苦味が喉を走り、熱が肺腑を焦がした。
「金、持ってたんだろ?」
「ん...まあね。おかげで大分助かったけど」
 お腹をさすると、紙の束が腹巻に縫い付けられているのが分かる。
 肌身離さないでいたら、蹴られた衝撃を緩和できると言うおまけがついてきた。
「あの時、ウチはどうしても払う気にならなかった...
 同じ狩りをなわまいにするものとして、許せなかったんだ」
 カップを持つ手が震える。急に夜の寒さが肌に染みてきた。
「最低だ。些細な、プライドで...ウチは村を」
「プライドじゃねえさ。そう言うのはな」
 ジェイクの穏やかな声。
 シャアラのカップにコーヒーが注がれる。
 金属製のカップを通して、手にボンヤリとした熱が伝わってくる。
「...じゃあ、なんだって言うんだよ」
 一気に飲むと、喉が焼けた。吐く息で毒づく。
「勘?」
「しょぼいぞ」
「そうでもねえさ」 ジェイクはさらにもう一杯注いだ。
「勘ってのは自分の論理と経験測を総動員したひらめきのようなもんだ。
 お前の勘が、拒絶したってんなら、それはお前の記憶と経験が、あの狩人じゃ駄目だって言ってんだよ。
 村の奴らも、お前の勘を信じたからこそ、お前を派遣したんだろ?」
「何も知らないくせに...そんな、慰めは要らないんだよ」
 思わず、カップの中身をジェイクの顔に掛けたくなったので、その前に飲み干した。
 あいつのにやけ顔にこの苦味はもったいない。

【シャアラ】・・・違いの分かる男。
【ジェイク】・・・違いの分からない男。



BackstageDrifters.