村は山を二つ越えた向こうにある。
 どのみち最低2回は夜を通すことになるので、日の沈む夕方に出ようと特に支障があるわけではない。
 街は郊外に出ると一気に寂れる。
 山へと伸びる道は遥か、どんどんと短くなり鬱蒼としたふもとの森へと飲み込まれている。その山といえば山肌一面に霞がたなびき、てっぺんにいたっては雪が白く積もっている。
 街の人間がその光景を見れば、何故あんなところに道が伸びているのかを疑うことだろう。あの先に村があるなどと誰が信じるだろうか。
 今にして思えば――
「お前、これを装備無しで帰るのって...」
「うっさいな、無理だったよどうせ」
 サバイバルの知識が無いわけではないが、こんな冬に十分な食料を期待できるものでもない。
「けどまあ、なんてか。乗合馬車も無いのな。道も人の使ってる形跡ないし」
「山の向こうの向こうに街――昔は国だったけど、開けた街があってね。そこへ続く登山路だったんだ元々。ウチらの村もその時の宿場町の名残」
「名残?」
「河路が開通してからは誰も使わなくなったからね。わざわざ倍近い労力と金を掛けて登山路使う人間なんて、気まぐれな旅人ぐらいなものだ」
 その旅人にしてもカッターシャツに外套姿の青年とか、身の丈三倍はある長い刀を携えた少年とか、2mはある全身毛むくじゃらの偉丈夫とか、山村なのに何故か着物を纏って来るとんでもなく美人の女性とかわけのわからない人間ばかりである。
「あ〜。そういう奴らが来るところなのか...なるほどね」
 ジェイクはなぜかめんどくさそうな顔をして、登山路を眺めた。
「ところで、ゲ...ボーイ」
「ゲボイ!?」
「気づいてるか...って聞くほどじゃあないが」
「まあね。いい加減出てくるなら出てきて欲しいんだけど」
 街の方角の建物の影が微かに動き揺らめいた。

【カッターシャツの青年】・・・刻の賢者
【身の丈三メートルはある刀】・・・『克己』。鞘に浮場発生の念動力回路が内蔵されているため重くはない。


BackstageDrifters.