臭い。何の臭いだ...?
わかった。これは、
「くさやの臭いだ?」
「待て、それは待て頼むから待て」
背負われていた。背負われて街の中を歩いていた。
「そしてくさやの臭いは私を背負う男からのものだった」
「いや、待て待て聞こえてるから心の声」
「さてはエスパー」
「おのれが寝ぼけとるだけじゃあ!」
若い声だった。若い声なのだが親父臭がひどい。
「なんだ、てことはジェイクか」
「おおぉい! 今、何に“てことは”って言葉使った!!?
どんな罵詈雑言を略した、その真っ黒な腹の内で!!」
別に腹黒じゃないわい。
頭がボンヤリと状況を思い出す。周りは見たことがない区域だった。
もう夕方らしく、店じまいをする雑貨屋やらテントを畳む屋台やらが見える。
...とりあえず、例の宿屋からは遠ざかっているらしい。
「何で、ジェイクがウチを背負ってんの?」
「起きなかったから」
簡潔に答えるジェイク。彼の背中の上は思ったより広く、しっかりしていて、揺れも少なかった。
ふいに、体の節々がわずかに痛んだ。
「いや...そうか。なあ、ジェイク正直に答えてくれよ」
「ん? 何のことだ?」
恐る恐る、本当は聞きたくないけど、いつかは聞かないといけないことだ。
私は、そう言うのを後回しにしたくない。
「僕の体はどうなったんだ? どうやらもう、痛みすら感じなくなったらしい。どれほどの重傷かわからないんだ。微かな痛みはするけど...
はは、もしかしたらコレは幸運なことなのかもしれないな」
「...お前って、実はナルシストだろ」
「そう、ならコレは罰だね。自分のプライドに邪魔されて、村の平和を優先することができなかった。当然の結果って奴か」
「や、だから」
シャアラは目を伏せて、頭を振った。
「いいんだ、ならばウチはこの酬いも臭いも受け入れる。醜く抗ったりなんてしないさ」
「だぁ! てめ、起きたんなら自分で歩け!!」
ジェイクが両手を開いて、大きく伸び上がった。
「うわ、なにするんだよ! こっちは重傷なんだぞ!」
弾かれるように落とされたシャアラは、バランスを崩しながらも地面に着地してジェイクを罵った。
罵ってから、あれと思う。
妙な間が開いた。カラスが鳴いた。
ジェイクは、重い荷物を下ろしたかのように肩を鳴らし、
「で、誰が重傷だって?」
大きく伸びをしてから、あご髭をさすった。
BackstageDrifters.