「ヤドカリの物語」の続き作品6です。

はまなゆみ

ヤドカリは泣きながら、苦いデトリタスを食べた。デトリタスは苦かったけれど、おなかは少しふくれた。おなかがふくれると、ヤドカリは海の中をもう少し見たくなった。岩陰からそっと出てみた。ヤドカリは重くてきゅうくつなローカンをぬぎすてて泳ぎだした。体がとても軽くてスイスイ泳げた。こんな感覚は初めてだった。
海の中をどんどん泳いでいくうちに、体の両側にすきとおったヒレが伸びてきて、とても速く泳げるようになった。時々、おそろしいカジキやもっと大きいサメに飲み込まれそうにもなったけど、なんとか逃げて来られた。小さくてきれいでも毒針で一瞬にマヒさせるクラゲという生き物がいることも知った。
ヤドカリは日に日に伸びていく美しいヒレですばやく泳ぎ、生きのびてきた。そして海の中のいろんな生き物や美しい世界を見ることができた。でも、速く泳げる分おなかもすく。ヤドカリは苦いけれどがまんしてデトリタスをたくさん食べた。体は大きく、ヒレも長くなって力強く泳げるようになった。ヤドカリは毎日が楽しく幸せだと思った。このために生きてきたんだと思った。
ある日、以前住んでいた浜辺近くにきた時、ローカンを背負っている昔の友達に会った。たくましくて美しいヒレを持ったヤドカリは、ローカンのせいでトコトコとしか動けない友達に言った。
「ローカンを捨ててごらん。ローカンがなかったらどこでも自由に、思い通りに動けるんだよ。速く泳げるからこわい敵に食べられることもないし。」
でも、友達は変身したヤドカリを見てから言った。
「すごいね。かっこいいよ。でも、ぼくはずっとローカンを背負っていくって決めてるんだ」
そしてにこっとほほえむと、ゆっくりゆっくりと岩場を登って、水から上がって行った。
ヤドカリはそのうしろすがたをしばらくの間じいっと見ていた。そして思った。
「ぼくはもう海の水の中から上がることはできないんだ」
美しいヒレのついた自分の体を見て、「ぼくは海の中で思いっきり泳ぎ回って生きるんだ」と決めた。
ヤドカリは最後に力一杯飛びはねて、なつかしい砂浜を目に焼き付けてから力強く水をけった。

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