疑惑の温泉噴出
長野県白骨温泉に端を発した温泉の不正表示などの問題は、各地の関係者、即ち、温泉旅館・組合、監督する立場の都道府県、所管する環境省、旅行代理店、温泉ガイドブック出版社、マスコミなどを戦々恐々とさせたり、慌てさせた。
不肖、当サイトの管理者は、サイト公開時からこの問題を危惧し、温泉とは何ぞやを勉強すべく「温泉法(当サイトに掲載)」を読み、所管する環境省のサイトに入って関連資料を漁った。それに加え周った温泉や数多くの温泉関連図書、温泉サイトなどから得た知識や情報を基に、かなりの怪しい温泉が存在することを経験的に知った。そのため、上記関係者らが何の問題意識を持たずに表示・記述していた「温泉の効能」についても、各地温泉紹介のすべての記事・データから省略した。
疑惑の温泉地 (2004.8.20 朝日新聞など参照)

一流・巨大温泉地の偽装は、管理者も想定していて、いずれも宿泊を避けている。
温泉偽装の背景
温泉偽装の根本は、「温泉の枯渇・不足」、「監督官庁及び都道府県の取り組み姿勢・法整備」、「旅館・ホテル経営者の温泉管理・モラル欠如」などにある。
具体的には次のような事象である。

(1)地震・火山の噴火・土砂崩れなどの自然現象によって温泉が枯渇したり、減少したり、利用できなくなる。

(2)乱脈な掘削を行い、その結果、湯脈が絶たれたり、早期の枯渇や湧出量の減少を招来させている。

(3)近年の日帰り温泉施設急増によって、1,000mを超える深層掘削を行うことが多いが、統計的にこれらの温泉は枯渇が早い。

(4)バブル前後から、団体客などの受け入れのために温泉旅館・ホテルの大型化が流行となり、これに応じて温泉の湯量に見合わない浴槽の拡張・増加や要望が強い露天風呂の新設などによって湯量が不足した。

(5)温泉を定義し管理監督する「温泉法」は昭和23年7月に施行され、その後幾度か改正されているがマイナーなものであり、諸環境の変化に対応しきれていない。
 
(6)最近急増している日帰り温泉施設は、温泉を使用した公衆浴場として区分され、所管官庁は厚生労働省である(公衆浴場法)。
直接の許可・監督は両方とも都道府県だが、温泉の保護というもっとも大事なポイントは二重行政になっている。
 
(7)分析結果による温泉利用許可は都道府県だが、いったん認定すればその後30年、40年たっても、再分析は行わない(温泉法による分析結果等の掲示の日付が昭和30年代の物も見かけた)。従がって、いったん温泉利用許可を取得すれば、どんなあやしげな湯を使おうがおかまいなしとなる。

(8)温泉の分析は湧出元での温泉を採取して行い、これにより温泉かどうかを判定する。我々が入浴する湯舟の湯を採取して分析するわけではないので、水道水を沸かそうが、井戸の水や川の水を使用したり混ぜたりしてもおかまいなしとなる。(温泉をスポイトで一滴加えれば温泉)

(9)監督官庁の怠慢の一例が「温泉の効能」である。「リュウマチ・神経痛・胃腸病・動脈硬化症・高血圧・婦人病・皮膚病」などの病気に効く、といった案内が温泉旅館内、パンフレット、一流ガイドブック、新聞、テレビなどで何の疑義もなく掲載・報道されている。医薬品の場合、一つの効能を取得するのに10年、数百億の研究開発費を要する。健康食品でさえ明確な効能を謳うと薬事法違反で厳しく取り締まられる。ましてや、生れたままの源泉100%の温泉を使うのならともかく、全国の温泉の70%が循環、さらに1週間・2週間も循環して温泉を使いまわしたり、温泉1滴に残りは水道水を加えた湯には、レジオネラ菌や大腸菌を含んでいても、本来の効能は期待できない。
また、1泊2日の宿泊、2、3回入浴しただけでは効果が全く期待できない。

(10)温泉が市町村の重要あるいは数少ない地場産業のケースが多く、厳しい検査・監督が地元の産業や旅館経営に致命的な痛手となる。例え、内部告発があっても、地方行政が動かないケースもあった。

(11)零細な温泉旅館にとって温泉の不足・枯渇は致命的なものとなるので、経済的に偽装に追い込まれる。

(12)伝統的な温泉地にあっては、昔からの前近代的な慣習、温泉の権利が絡まって古い体質が残り、経営が内向きになり、外からの参入を排除するなどして産業としての近代化が遅れているケースが見られる。

(13)消費者(宿泊客・入浴者)も温泉に対して一般的に寛大であり、また認識が不足している。(最近でも宿泊者の旅館選定ファクターの中で、温泉の質・量の順位が低い、という結果が出ている。)

温泉地名 都道府県 偽装等の内容
作並温泉 宮城県 1軒が温泉法に基づく掘削と利用の許可を得ず
秋保温泉 宮城県 仙台市の秋保温泉の旅館組合に加盟する16軒のうち4軒が大浴場など一部の浴槽に井戸水などを使っていたことが21日、同組合のアンケートで分かった。いずれも温泉表示はしておらず、法律上は問題ないという。一軒は温泉を全く使用していなかったが、温泉の表示はしていなかった。
喜多方温泉 福島県 1軒が井戸水を利用し、ホームページで「単純食塩泉」と紹介
磐梯熱海温泉 福島県 1軒が井戸水の沸かし湯
那須温泉 栃木県 3軒が井戸水の沸かし湯
薮塚温泉 群馬県 2軒が水道水を沸かし温泉と表示
水上温泉 群馬県 4軒が水道水や井戸水を沸かし温泉と表示
伊香保温泉 群馬県 2軒が水道水や湧水を沸かし温泉と表示。
5軒でも同様の疑い。
別に19軒が一部で水道水などを使用
名栗温泉 埼玉県 村長所有の旅館が温泉使用を届けず50年以上営業
石和温泉 山梨県 1軒が地下水を沸かし「温泉」と表示
下部温泉 山梨県 旅館10軒で井戸水を使用。
「武田信玄の隠し湯」と宣伝していた下部温泉は湯が枯渇していたことになる。
箱根温泉 神奈川県 5軒が水道水、地下水を沸かし温泉と表示。温泉でないのに入湯税と協力金を徴収
湯河原温泉 神奈川県 1軒が温泉でないのに客から入湯税を徴収
白骨温泉 長野県 公共野天風呂と旅館3軒で湯を乳白色にするために、入浴剤を投入
館山寺温泉 静岡県 1軒が井戸水を沸かした湯を温泉と日本観光旅館連盟に報告
弁天島温泉 静岡県 2軒が水道水を沸かし温泉と表示
芦原温泉 福井県 2軒が井戸水を沸かし温泉と表示
有馬温泉 兵庫県

神戸市北区の有馬温泉で37の旅館・ホテルのうち9施設が同市の許可を得ずに営業しており、同市は「温泉でない風呂の可能性がある」として調査に乗り出したことが13日、分かった。 同市は11日、そのうち1軒のホテルに立ち入り調査を実施。ホテルは「申請について知らなかった」と説明した。
有馬温泉といえば「金泉」と呼ばれる茶褐色の湯が有名だが、同ホテルは旅館組合などに「温泉の出が悪くなったので、水道水を混ぜ、温泉の色を濃くするために配管や浴槽にたまっていた沈殿物を混ぜた」とインチキを認めているという
同組合によると、4軒は湯量不足から、有馬温泉の隣にある市営のレジャー施設「フルーツ・フラワーパーク」から温泉の湯を購入。タンクローリーで運んでいたという。

無許可利用が確認されたのは2件目。残る7施設は浴場で温泉水を使っておらず、施設内に疑わしい表示もなかった。

三朝温泉 鳥取県 三朝プレインホテルが水道水が大半を占める湯を使用していた。
環境省の方針
2004年9月23日読売新聞では次のように報道している。

「全国の温泉偽装問題で、環境省は来月(2004年10月)にも温泉や医療などの専門家による委員会を設け、温泉法の改正に向けた検討を始める。源泉や各浴槽のお湯の成分を分析して結果の掲示を義務付けるとともに、定期的な再分析を温泉施設に求める方針だ。
現在の温泉法では、利用許可時に源泉の成分を一度分析すると再分析を行う義務はない。水を加えて薄めたり、循環させていても表示の義務はなく、偽装を生む背景になっていた。飲用の温泉では水道水と比べて水質基準が大幅に甘く、基準の見直しを進める。飲用の効能についても科学的に検討する。」
環境省は、掲示が義務付けられている「成分分析表」に加水や加温などを正確に表示する義務付け、数年毎の更新制にすることなど、温泉偽装に係わる課題については厳しい対応を考えているようだ。しかし、温泉法改正による温泉認定の厳密化については、「厳しい基準をクリアした温泉しか認めない場合、打撃を受ける温泉地が出てくる。」「国民が温泉にそれほどの規定を求めているか見極めたい」という姿勢であり、どこまで厳格化されるか不透明だ。

1.温泉に対するこだわりは人によって異なる。わたしの温泉に対する基本的姿勢は寛容だ。

 *源泉にこだたるもよし。
  循環でもかまわず、料理や雰囲気にこだわるもよし。

 *一流旅館で温泉を楽しむも良し。
  旅館の風呂に立ち寄るも良し
  安価なスーパー銭湯や日帰り温泉施設でリラックスするも良し。

 *大温泉地の大旅館・一軒宿・名湯・秘湯どこの温泉でもそれぞれの楽しみ方がある。

2.温泉の偽装は行政が厳しく監督し、旅館・ホテル(組合)も情報公開を行って欲しい。

3.源泉だけでなく、我々が入浴する湯舟での温泉分析を行って欲しい。

4.衛生上の監督をしっかりして欲しい。レジオネラ菌や大腸菌うようよでは困る。循環の場合の殺菌などがしっかり行われているか、ハード・ソフト面で厳格に監督して欲しい。
私は温泉の飲用を好まない。水質の検査を医学的、疫学的にしっかり行ってもらいたい。

5温泉の効能について、誤解を招くような表示・宣伝を規制してもらいたい。(温泉の効能を全部否定しているだけではない。)


温泉に対する世論調査 (2004年9月 朝日新聞)
●温泉のお湯の質をどこまで求めますか。
源泉そのままがよい 46%
源泉が含まれていればいい 27%
こだわらない 26%
答えない 1%
●温泉が好きか

 温泉が好きか、それほどでもないかを聞いたところ、「好き」が69%で「日本人は温泉好き」と言われているのを裏づけた。「それほどでもない」は、29%だった。
 「好き」と答えたのは女性が男性をわずかに上回り、60代と70歳以上でいずれも7割以上に達した。一方、20代でも69%を占めており、温泉志向は幅広い年代に広がっている。

温泉旅館に出かける際に一番楽しみにしていることは何か。

 選択肢から選んでもらったところ、
 (1)料理(34%)
 (2)おふろ(32%)
 (3)雰囲気(30%)
の順だった。
 「温泉好き」と答えた人のうちでは「おふろ」が39%で1位だが、料理(31%)や雰囲気(27%)との差はそれほど大きくなかった。
 20代では雰囲気、30〜50代は料理、60代以上はおふろ、がそれぞれ一番で、年代別の好みがはっきり表れた。

このように大量に自然湧出する源泉はそう多くない。
乳白色だった雲取温泉(和歌山県)の湯がこの写真のように半透明に薄れてきていたが、2004年9月の地震で、また濃い乳白色に戻った。ここでは着色をしていなかった。
ここの旅館は内湯は沸かし湯、露天風呂が温泉と隠さずに話してくれた。
成分分析は源泉だけでなく、浴槽の温泉でしてもらいたい。合わせて循環が衛生面で問題なく行われているかも。(写真の風呂は関係ありません)
温泉法第2条(定義)
この法律で「温泉」とは、地中からゆう出する温水、鉱水及び水蒸気その他のガス(炭化水素を主成分とする天然ガスを除く)で、別表に掲げる温度又は物質を有するものをいう。
2 この法律で「温泉源」とは、未だ採取されていない温泉をいう。


料理 34%
お風呂32%
雰囲気30%
管理者の考え方・意見