「夢の行方」
「ここは・・・どこだ・・・?」
確かにゴーイングメリー号にいた。
それが今、目の前に広がる見た事もない港の風景にめったな事では動じない、
さすがにゾロも驚いた。
「さぶっ」
空を見上げるとどんよりと曇り、海から吹きつける風も冷たい。
半そでのゾロは背を丸め、とりあえず状況を把握すべく、歩き出した。
風景から察するに、確かに知らない場所だが、どうやら東の海(イーストブルー)
であるという事は、港の名前や人々の言葉遣いなどでわかった.。
ゾロは、古着屋に入り、持っていた僅かな金で上着を求めた.。
普通の人間なら、こんな異様な体験をして、ただちに冷静に
行動を起させるものではないが、そこはやはり、常人とは肝っ玉の太さのケタが違う.
ゾロは上着を買った店主に、何気なく日付を尋ねてみた。
長い航海をしてきた船乗りが多い町らしく、店主はなんのわだかまりもなく、
ゾロの質問に答えた。
その答えに、さすがのゾロも唖然とし、何度も店主に聞き返した。
(・・・・10年前だ.)
そこは、ゾロの知らない 10年前の東の海(イーストブルー)のある港町だった.
ゾロは途方にくれた。
先ずは、元に戻る方法を考えたかった。
が、とにかく、それをじっくり考える場所がいる。
海賊狩りとして、一人で生きてきた頃の様に、ゾロは先ず、冷静に
無駄な考えを排除して、為すべき事を為すべき順で事を運ぼうとした。
だが、以前とは違う。
今の自分には、常に誰かが側に居た.。
ルフィと出会ってから、一人で夢を追いかける孤独から遠ざかり、
仲間を守るという目的と使命を持てた所為で更に自分を強く鍛え上げる事が出来た。
だから今、こうして一人きりになった時、知らず誰かに話掛けようとしている自分の
変化に我ながら気恥ずかしくなった.。
仲間を、人を、恋しいと思う心が魔獣と呼ばれた心に何時の間にか宿っていた。
(あいつの所為だ.)
ゾロは緑色の光に包まれた、自分の片割れを思い出した.。
(あいつは、一体どこへ飛ばされちまったんだ・・?)
ゾロはもとの世界に戻れない事よりも、二度とサンジに会えないのではないかという
不安の方が大きい事に気がついた.。
仲間や人、とかそういう漠然とした事ではなかった。
「サンジ.」
滅多に口には出さない、名前をポツリと口に出してしまった.。
ゾロはまとまった金を手に入れるために、賞金首を捕まえることにした。
港に上がった海賊を狙うのが一番、手っ取り早い.。
ゾロは港に足を向けた。
港には、大きな客船が着岸するためにゆっくりと入港してきた.。
ゾロはそんな豪華客船には、目もくれずその場所から立ち去ろうとした時、
その客船から、海面に向かって何かがおちたように見えた.。
(子供?)
ゾロの動体視力は、一瞬ではあったが、その客船からの落下物が人間の子供だと認識した。
ゾロは反射的に。
今までそんな風に見ず知らずの人を助けようなどとは、考えた事もなかったが、
上着を投げ捨てると、冷たい海へ向かって飛びこんだ。
大きな客船の甲板から落ちたのだ。
かなりの高さから無防備に落下した所為で、全身と強く打ち、その子供は
気を失い、水の中で漂っていた.。
ゾロはすぐに小さな体を掬い上げ、海面に浮上した.。
水面に浮かび上がり、何気にその子供の顔を見て、ゾロは息を飲んだ.。
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