「あのピアスをどこへやった」とクロは次の日、そういう詰問で
また、S−1の体に「オヤツ」を使った。
「強情」なS−1はどんなにキツイ責めを受けても、泣き言をいわないばかりか、
ピアスの場所を言おうとはしない。
その日も、最初の時と同じで嘔吐して、それから静かに意識を失ってしまった。
相変らず、「餌」のように盛った食事には手をつけないから、S−1は栄養も摂っていない。
自分の腕の中でぐったりと身を預けて、身動きもせず、瞼を閉じているS−1の顔色も、体の色も、昨日よりも白く、血管が透けて見えそうだ。呼吸の音も小さいような気がする。
(これでは死ぬな、)とさすがにクロは船医を自室に呼びつけ、診察させる事にした。
「キャプテン、こんな使い方をしてたら、すぐに使いモノにならなくなりますぜ。」と
S−1の「オヤツ」を処方させている船医がクロを恐々ながら嗜めた。
「そうなったら、捨てるまでだ。お前は余計な事を心配しなくていい。」と言いながらも、
クロはS−1の体を具合を調べている船医の手元をジっと眺めている。
ただ、玩具を修理屋が修理しているのに、なんだかイライラした。
事務的な作業がとても卑猥な行為の様に見え、クロは、その光景を見てるのが
不快になる。なれば、見なければ良いのに、見ないでいるのも違和感があり、
「さっさとやれ。」と医者の作業に口を出す。
S−1はクロが部屋を出た時、自分を逃がそうとしてくれた男が「餌」を
運んできたところを呼びとめた。
「なにもしてやれなくてすまん。」と男はS−1にまず、詫びる。
「いいんだ、それ、貸してくれ。」と
S−1は男の腰にぶら下げてあるナイフを指差した。
「逃げるのか」と男は小声でS−1に囁く。
「まだ逃げられない。」とS−1はナイフを受けとって抑揚のない声で答える。
「俺の所為か。」男は、足の腱をクロに切られている。つまり走れないのだ。
自分が人質になっているから、逃げられないのか、と男はS−1に短い言葉で
苦しそうに聞いた。
「違うよ。ここが海の上だからじゃないか。」とS−1は可笑しそうに
男の言葉を聞いて、笑みを浮かべた。「それに俺、裸だしさ。」
「じゃあ、一体何をするんだ。」と男が尋ねると、
「ピアスを隠すンだ。」S−1は耳からピアスを外した。
その仕草を見ただけで男はどこに視線を向けていいのか判らなくなる。
「これだけは何があっても無くせない、大事なモノだから。」とS−1は
そのピアスを愛しそうに見つめていた。
数秒、じっと、見つめてから、意を決した様に
「絶対あいつに取られたくないんだ。」と言って、ギュ、とそのピアスを握り込む。
「どうやって、」と男が尋ねる前に、S−1は唇を少し噛み締め、
左手を広げて、その切っ先を掌のど真ん中へプツリ、と突き立てた。
「・・・ッツ。」そのまま、力を込めて、刃先を肉にめり込ませる。
「何をッ・・」男はS−1の不可解な行動に慌てて、ナイフをその白い掌ごと握って
引き剥がそうとした。
「離せよ、大丈夫だから」と
S−1は億劫そうに男を振り払いながら、ナイフを引きぬく。
血が滴るその傷の中にS−1はピアスを顔を歪めて痛みに耐え、捻じ込んだ。
「S−1、」男がS−1のその行動に絶句していると、S−1は傷の上を手で押え、
親指で肉の裂け目へとピアスをグイグイ押しこんで行く。
「20分もすれば、こんなキズ、塞がる。」
「飲んだらいずれ、排泄されちゃうからな。」とS−1は男を見上げてまるで、
照れ笑いのような笑みを浮かべた。
「これで、あいつにピアスを取り上げられずに済む。」とホ、と溜息をつく。
男はそんなs−1が痛々しくて、堪らない。なんとか助けてやらねばならないと
猛烈に思った。
クロが「オヤツ」を使い始めてから、S−1は目が醒めた時、いつも床の上ではなく、
クロのベッドにいる。
拘束する場所を床の上の柱に犬のように繋ぐのではなく、
ベッドの鉄枠に手首だけを拘束するか、部屋の中だけは歩けるように、細く長い鎖を
手首にかけておく方法になり、食事も、餌のようだったものから、
クロが食べる食事を、そのクロ自身が一口、一口をS−1に食べさせる様に変わった。
「愛玩犬に昇格した訳だ、お前は。」とクロは自分の膝の上にS−1を抱き上げて
可笑しそうにニヤつく。
自分に用があって、自室に入って来る幹部にS−1の裸体が触れる事や、
無茶をする度にS−1の体に船医が触れる事にクロは説明しようのない靄のような
不快さを感じはじめた。
最初は、どうでもいいただの性的好奇心で手に入れた玩具だったが、その玩具で遊ぶうちに、思いの外その玩具が珍しく、貴重なモノだと分かって、ますます気に入り、
さんざん見せびらかした癖に今更、また自分の玩具箱の中に仕舞い込んで
珍重する気分になり、誰の目にも触れないように、
S−1の肌を一枚の大きく粗末なシャツ一枚で隠したのだ。
どんなに大きな異物を捻じ込んでも、S−1の体は自分がその中へ侵入した途端、
凄まじい圧力で復旧しようと蠢き、その締め付けが信じられないほどいい。
内側へ引き摺り込もうとでもするかのようにS−1の粘膜はクロ自身を絞り上げ、
その加減が脳味噌ごと蕩けてしまいそうな感覚を引き起こす。
視覚も、薄い桃色に染まった肌に、まるで初々しい野苺の汁をたらしたような色あいの
乳首が小さいながらも張りつめていて、その下に自然に視線を流せば、
S−1自身が放った体液が腹をしっとりと濡らしている。
さらにその下には、髪よりも少し薄い色の陰毛が肌が透けるくらいの濃さで生えて、
汗や、クロの唾液で湿り気を帯びている、そんな様子で視覚を刺激され、
喘ぎを堪える声も、それを越えた時に細く泣くような声も、荒く吐く息で聴覚を、
吸いつくような質感の汗ばんだ肌に触れて触角を、それぞれ刺激され、
どうやって嬲ってやろうか、とクロはそればかりを考える様になっていた。
クロは、自分用に用意された食事をS−1の口に運ぶ。
赤ん坊が親から与えられる様に、S−1はその時、素直にクロの差し出すスプーンに
唇を小さく開く。
「今日は、海王類の肉なんだ。」とS−1は何度目かの食事の時、ポツリと呟いた。
「海王類の肉?これは魚じゃないのか。」とクロは喘ぎ声や反抗的なわめき声以外の
S−1の素の声を聞いて、思わず聞き返す。
「え」とS−1は驚いた様に真顔でマジマジとクロの顔を見る。
そんな風に無防備に、なんの警戒もせずに人から顔を見られた事は
昔、金持ちの少女を命を狙って三年、自分を殺して生きていた頃以来だった。
だが、その時は、「クラハドール」として、笑い掛けられていたと計算ずくだったから、
別に驚きもしなかったが、今、S−1が見ているのは、紛れもない「キャプテン・クロ」であり、クロの本質その物だ。
だから、クロは一瞬、面食らった。
「海王類の肉と魚の肉の違いもワカラナイで食ってたのか。」とS−1は唖然とした顔でクロを見て、子供が珍しい生き物を見ているような顔付きでクロを見ている。
「腹に入れば同じだ。」とクロはバツが悪そうに答えた。
「魚よりもずっと美味いのに。」とS−1はクロから目線を外し、皿の上の
料理を楽しそうに眺めている。
「美味いのか、これは。」とクロは一口、自分も食べてみるが、その動きをS−1は
目で追っていた。
良く、口の中で味わおうと咀嚼して、飲み込んでみる。
「よくわからん」
実際、クロは別に食事を楽しみにしているのではないので、味の良し悪しが本当に判らないのだ。
だが、S−1にもう一度食べさせようと
フォークでそれを突き刺し、口もとに持って行くと小さく首を振り、S−1はいらない、と言う意志を示した。
料理をじっと見ていたのだし、美味い、というのだからきっと欲しいのだろうと
単純に考えてやったのに、いらないとはどう言う事だとクロは訝しく思った
「何故だ。美味い、とお前は言っただろう。」とクロは怪訝に思って尋ねる。
「腹にモノを入れたら後で胃が痛くなるからもういい。」と
S−1は申し訳なさそうにそう言った。クロがS−1に食事を与えるようになってから、
クロの食事の量は倍に増えている。つまりS−1が禄に食べないとその分、
食事がまるまる残ってしまう。S−1はその食事を作ったコックに申し訳ないと思うから、申し訳なさそうな顔をしたのだった。
「お前に食事を断わる権利があると思っているのか」と言うや、
クロは乱暴にS−1の顎を掴んで自分の唇にその唇を押しつけた。
逃げるS−1の舌をクロは追い、貪る様に捕えたS−1の舌を吸う。
急激で、強引な愛撫に、S−1が苦しがってもがいても、クロは
海王類の肉を刺したままのフォークを握ったまま抱き締めて離さない。
薄い布ごしにS−1の体重をはっきりと感じた瞬間、クロの心の中に、
まるで洞窟の中で、光る苔がわずかに光るほどの頼りなさながら
おかしな温かさが根付いている事にクロは気がつく。
愛玩動物ではなく、S−1が血の通った、意志を持った人間だと忘れていた。
とても大切な事を忘れて、そしてそれを抉り出す様に思い出さされ、
不快に思うどころか、
それを「温もり」だと感じた自分にクロは言いようのない違和感を、
「ゾっとする」寒気という感覚で知った。
一瞬の躊躇いの後、クロは唇を離してから、S−1に
「食事を摂れ。」
「今夜はお前が吐くような事はしない。」と言った。
それは気まぐれなのだ。
腹イッパイ膨らせて、眠らせて、やすませてから、また、思う存分嬲ればいい、
とクロは優しい言葉を口にする心の奥でそう毒づいている。
まるで、自分で自分に言い聞かせる様に。
ただ、薄い布一枚被せているだけの事なのに、
そして、今夜はいつもよりもずっと確かで力強い呼吸音が隣で聞こえているだけなのに、
クロはその夜、寝つく事が出来なかった。
同じ褥で、いつもどおりにS−1を傍らに侍らせている状況に変わりはないのに、
さっきまでS−1に話していた「子供の頃に聞いた昔話」の所為で、
クロは子供の頃の事をやたら思い出してしまう。
こんな事は初めてだった。
クロはそんな愁傷な気分を払いのける為に、俯けに眠っているS−1の
上掛けをめくって、服の上からなだらかな臀部に触れ、己の性欲を掻き立てる。
そのまま、仰向けに横たえ、手をs−1の太股へと滑らせ、枕の傾斜に沿って
僅かに傾く首筋に唇を這わせた。
クロは自分自身でその動きに驚愕している。
こんなに優しく人に触れた事は今まで無かったような気がした。
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