「お前はダメだ!!」ナミの部屋から、サンジを連れて出てきたルフィにいきなり喧嘩ごしで声をかけた。

「なんでだ!!順番抜かしはゆるさねえぞ、ゾロ!!」ルフィも負けていない。

「お前はどうせ、こいつを玩具扱いするだけで、船首のとこにも一緒に
上がるつもりだろうが。そんな所から落としたら、大変な事になる」

一応、悪魔の実を食べて小型化したのだから、サンジもこんな形でもりっぱな「能力者」である。

当然、海から嫌われるだろう。
「わかった。じゃあ、今日はそこには登らねえ。なら、いいだろ?」

あっさりとゾロの意見を飲むと、蜜柑が生っている上の甲板へ上がっていった。

ゾロは心配でならない。
他のどの仲間よりも、一番訳の分からないことをサンジにしそうで、不安なのだ。


サンジも不安は不安だが、自分の身を守れるくらいは出きるし、
「まさか、獲って食おうって訳じゃねえし.」と案外暢気である。

「なあ、ルフィ」サンジはするするとルフィの手のひらを抜け出し、
二の腕を登って、肩先まで来ると、そこに腰掛けた。

「あははは、ちっこいサルみてえだ。」それだけでルフィは笑った。

(こいつの笑顔は、太陽みてえに明るいなあ)ルフィの笑い声を聞いて、サンジはそう思った。

黒くて、固い髪からは、太陽の光にもしも匂いがあるなら、
こんな匂いだろう、と思えるようなそんな香がする。

「サンジ〜、何して遊ぶ?」
上の甲板には、ウソップがいてなにやら 道具を床一杯に広げていたので
そこには、二人の居場所がなかった。
結局、やはり、指定席のある甲板にルフィは座りこんだ。

「何して遊ぶって・・・。そうだな。」
サンジはルフィの肩から、甲板に飛び降りた。

「ルフィ、寝転んでみろよ」サンジは相変らず、小さくなっても横柄な態度だ。

「おう!!」ルフィは、サンジに言われるまま、仰向けに寝転んだ。

「よ!!」サンジは、看板の床板を蹴って、ルフィの腹の上に飛び乗った。

ボヨ〜ンとサンジの足が柔らかく腹部に食い込む。
更にググッと圧力を加えると、一気にその反動で、サンジの体が中に投げ出される。

サンジはそこで、コマのように体を縦に回転させ、再び着地し、
間髪いれず、また跳ねあがって、今度は体をまっすぐに伸ばしたまま、
また、空中で回転する。

「おおおおお、すげえぞ、サンジ!!」

サンジが跳躍、回転を絶え間なく繰り返しながら、
「ルフィ、起き上がってみろ!!」と言って来たので、「おう!!」と元気よく
返事をして、上半身だけ起き上がった。

腹を蹴って、ルフィの頭上を遥かに高く飛びあがり、サンジは今度はルフィの肩口に
落下してきて、そこをまた蹴り、ルフィの頭の上を飛び越えて、反対側の方にふわりと
蝶が舞い降りるような軽さで着地した。

「すげ、すげ、すげえ!!もっとやってくれ!!」

気色満面、狂気乱舞、とにかく、嬉しくて、楽しくて、喜んで、顔が爆発しそうになっている。

その顔を見て、サンジも嬉しくなって来た。

「よ〜し、みてろよ!!」サンジがもう一度、ルフィの腹に飛び降りようとした時、
「馬鹿なことやってんじゃねえ!!」と、ゾロが船尾の方から足音を荒立てて歩いてきた。

肩には恐ろしく大きなダンベルを担いでいる。
トレーニング中だったのか、汗だくであった。

「バランス崩して、海に転がり落ちたらどうすんだ!!」
随分な、過保護ぶりである。

サンジもさすがに露骨に迷惑そうな顔をした。

「うるせえな、そんなヘマするわけねえだろ、あっちいってろ。」と
つっけんどんな態度で、ゾロに文句を言う。
「そうだぞ、今日は俺の当番なんだから、口出すなよ、ゾロ!!」
とルフィも援護射撃をする。

「俺は・・」言い返そうとしたところに、
「サンジく〜ん、ちょっといいかな〜?」と鼻にかかった甘えたような声のナミの声がした。

そんな声を出すときは、碌なことがない。

それを充分しっている癖に、その声に何時も騙されるサンジが、やっぱり、目じりを下げて返事をする。

「ナアミさ〜ん。あなたの妖精はここですよ〜♪」

ナミは手に少し大きめの紙袋を下げて、にこやかに歩み寄ってきた。


「サンジくんにプレゼント♪一生懸命作ったのよ。」
ルフィの前まで来ると、(その肩口に乗っかっているサンジの前)
その袋の中身を床板の上にぶちまけた。

シフォン、絹、レース、チユール、ベルベッド・・・。
水色、薄紫、桜色、パステルグリーン・・・。
スパンコール、派手なボタン、ラインストーン、・・・。

で、作った、小さなピラピラしたデザインの服がそこに華やいだ雰囲気を作った。


「これを・・・俺に着ろ、と仰る?」
ルフィの肩口から滑り降りて、その服を一目見たサンジが、
勘弁してくれ、という懇願を込めた目をナミに向けた。

ナミはこれ以上ないほどの笑顔で頷く。
「ダメだ!!似合うわけねえだろ!!」ゾロはそれを鷲掴みにし、海に投げ込んでしまった。

が、海風は船首から、船尾に向かって吹いている。

軽い「妖精の服」は風に乗り、剣豪をあざ笑うかのように舞い戻り、その頭や、額に張り付いた。


「ぶっ」
その様子を見て、本当はその服が飛んでいったほうが幸せだったはずのサンジが吹き出した。

「ア〜、よかった.何すんのよ、ゾロ!!これ、作るのにあたし徹夜したのよ!!」
と、すぐにゾロの行動をナミが咎める。

ゾロも負けるわけには行かない。
小さくても、大事なサンジにそんなピエロのような格好をさせるなど、言語道断だ。

「うるせえ、知るかよ!!こんなもん、似合う面か、こいつが!!」と怒鳴り返す。
「似合うわよ!!ちゃんと、サンジくんをイメージして作ったんだからね。」

(俺のイメージって、どんなんだよ、ナミさん・・・?)
何着が手に取ってみても、とても似合いそうにない、乙女チックと言うか、
ラヴリーと言うか、そう言うイメージしか受けないデザインである。

「サンジ、着て見ろよ!!それで、宙返りとしたら、きっと蝶々みたいで、綺麗だぞ!!」
ルフィが、薄いブルーの服を摘み上げ、にしししと歯をむき出し、サンジに押しつけてきた。

サンジの頭に血がのぼる。「やかましい、黙ってろ、クソゴム!!」

「あら、船長命令よ。サンジくん」
いきなり、ゾロとの口論を中断し、ナミが口を挟んでくる。

「うるせえ、黙ってろ、変態女!!」
「だめだ!!これは命令だ!!これを着ろ、サンジ!!」

「「そんな命令、聞けるか、!!」」サンジも、ゾロも一緒に怒鳴る。
「こいつは玩具じゃねえんだ、いつもと同じに扱えねえなら、触るんじゃねえ!!」

ゾロはルフィとナミを一喝した。

「こいつだって、元に戻れるか、戻れねえか本当は不安なはずなんだ。」
「だから、自分で道化になってるだけなんだぞ。わかってんのか!!」

「・・・・そんなことくらい、わかってるわよ。」
「おれだって、わかってるさ。」二人は沈痛な面持ちで答える。

サンジの表情は、小さすぎて見えない。
「あたし達だって、不安なんだから。」ナミの声が震える。

「だ、大丈夫ですよ、ナミさん!!」サンジの声は相変らず、暢気だった。
「小さいままでも、料理は頑張れば作れるし、・・・・。」

サンジの声がいきなり途切れた。

ふらふらとタタラを踏んだかとおもうと、静かに甲板へ倒れこんだ。

「サンジ?!」
ルフィがあわてて、拾い上げた。


ナミもゾロもルフィの掌の中のサンジを覗きこむ。
「おい、サンジ!」ルフィは人差し指でサンジの頬を突付いた。

「腹が減った・・・・。」サンジは弱弱しい声でそう呟いた。
「なんだと?腹が減っただと?」ゾロの額に青筋が走る

得体の知れない果物を口にしたのだから、その体がもとの姿に戻るまで、どんな異変が有るかわからない。
そんな心配をしていた矢先に、いきなりばったり倒れたのだから、血相を変えてしまうのも無理はない。

しかし、その理由が全くふざけたものなのだから、ゾロの頭に血がのぼるのも、当然である。

「腹が減って、目が回る〜.おれ、昨日の朝から何も食ってねえんだった」
とサンジは力のない、しかし、どう見ても甘えているような声で弱音を吐いている。

この場合、甘えているのはゾロにではなく、ナミにである。
「ふざけてないで!本当にお腹が減っているだけなの?だとしたら、張り倒すわよ?!」
と、ナミに凄まれてしまう。


自分の所為で、余計な諍いを起してほしくなかったサンジは、ゾロの言うとおり、
「道化」を演じている。

腹が減っているのは嘘だけれども、目が回っているは本当だ。

「はあ、本当に腹が減ってて・・・。目が回って・・・。」
本当に眩暈が激しくなり、頭痛もしてきた。

ナミは、サンジを抱き上げてじーっと観察してみる。

「小さすぎて、顔色がよく判らないわ。とにかく、チョッパーに診てもらいましょう。」
そういうと、
「ゾロ!!その服捨てたら、殺すわよ!!」と言い置いて、サンジを大事そうに抱えて
チョッパーがいるであろう、倉庫に向かった。

ゾロは、ナミの脅しなど怖くも何ともない。
「こんなもん、大事にとっとくもんか。」と小さく呟いて、拳に握りこんだ。
もちろん、海に捨てるつもりだ。

だが、ルフィがその拳にむしゃぶりついて来た。
「あ〜、だめだ、ゾロ!!これはサンジに着せるんだから!!」
「馬鹿言うんじゃねえよ!!さっき言ったろ、同じように扱えって!!」
ゾロはルフィを振りほどいて、その服をまた、海へ向かって放り投げた。

こんどこそ、その服は潮風に舞って、飛んでいく。
ルフィはそれを未練たらしい目つきで眺めていた。

一方、ナミにチョッパーのところへ連れて行かれたサンジだったが、
やはり、小さすぎて顔色が見えないので、チョッパーは虫眼鏡ごしにサンジの顔を見た。

人型になり、その指でサンジの額を押さえ、熱を測り、
「サンジ、舌を出して」と言って出させた舌も、その奥の喉仏の具合も、虫眼鏡で観察する。

「日射病だね。涼しいところで頭を冷やして寝てれば治るよ。」と診断した。


サンジは、ナミの部屋に小さな箱へ布をつめた寝床を用意してもらっていた。
ナミはそれにサンジを寝かせると、ハンカチを切って小さくした濡れた布を
頭に乗せてやる。

「有難うございます〜。ナミさん♪」相変らず、甘え声で言うサンジに、
ナミは小さな子供の悪戯に呆れて溜息をつく母親のような表情を浮かべた。

「・・・ったく。お腹が空いてるなら、もっと早くいえばいいじゃない。水臭いんだから。」とやさしい声で
サンジの遠慮を非難する。

「すぐに何かもって来るわね。」というとナミは部屋から出ていった。
と、ノックもせずに入ってきたルフィと鉢合わせになる。

「ちょっと!!ノックぐらいしなさいよ!!」という叱責の言葉を残して、ナミの足音は
遠のいていく。

ルフィは、サンジが横になっている箱を。
「大丈夫か、サンジ?」とそっと覗き込んだ。

ルフィの黒い瞳にサンジの顔が全部映り込んでいる。
「ああ、頭を冷やせば治るってサ。ちょっと休んで、腹に飯を詰め込んだらまた遊べるぞ。」
とサンジは元気良く答える。

実際、頭を冷やしてもらってから、頭痛も引いたし、眩暈も治まっていた。
「そうか!!じゃあ、何して遊ぼうか?」とルフィの笑顔を見てますます気分が良くなって来る。

「そうだな〜。それより、ルフィ。煙草なんとかならねえかな」
サンジはまる2日、煙草を吸っていない。

ニコチン切れ寸前である。
「煙草かア。よし、持って来てやる!!」そういうと、男部屋への扉を空けて、
タバコを取りに行く。すぐにサンジのジャケットを持って戻ってきた。

「ほら、煙草だ!!」ルフィは、箱から一本、煙草を出して、サンジの前に置いた。

・ ・・・大きすぎる。
・ まるで、丸太のような大きさでとても咥えられない。
これに火をつけて吸いこむなんて、どこかの海軍大佐のようなヘビースモーカーでない限り、
いくら愛煙家でもしたくないだろう。

「これを、何とかしてくれねえかな。・・・小さく刻むとかさ。」
サンジは、起きあがってルフィにその煙草を両手で持って、つき返した。

「なるほど。もっともだ。」
ルフィは、サンジからタバコを受け取ってしげしげと眺めてみる。

「刻むって・・・刃物がいるよな。」と小さく呟いた。
そこへ、ようやく午前中のトレーニングのメニューをこなしたゾロが入って来た。
当然、ノックなどしない。

サンジがいる所為で、ナミの部屋なのに誰もノックもせず、勝手に入って来る無法地帯化しつつある。

「ああ、ゾロ!!ちょうどいい所に来たな!!それ、貸してくれ。」と
ルフィはなんの遠慮もなくゾロの刀を指差した。

「ああ?刀を何に使うんだ。?」とゾロはその唐突な申し出に怪訝そうな表情を浮かべた。
ルフィは、「サンジの煙草を刻むのに使うんだ。」とためらいなく馬鹿正直に答える。

ゾロはそれを聞いて、しばらく考えこんだ。
(ルフィが刀を使って、タバコを刻む・・・?そんな器用な事が出きるわけねえか。)
そして、

「俺が刻む。おまえ、ウソップ呼んで来い。刻むだけじゃ、吸えねえだろ。」と
ベストメンバーでサンジの煙草を作る事を提案した。

なるほど、ルフィよりもウソップの方が器用だ。刻んだタバコの葉を小さく切った
紙で巻かないと、サンジが煙草を吸うことは出来ない。
そんな細かい作業をルフィが出来るとはとても考えられないからだ。


ナミがサンジの為に、みじん切りにした野菜とベーコンををソテーし、薄く、
小さく切ったパンに乗せて持ってきた時、

床に座って、紙を小さく切っているルフィと、
刀で煙草の葉を細かく切り刻んでいるゾロと、
それをピンセットで摘んで、小さく丸めているウソップの姿があった。

サンジは、その様子を机の上にちょこんと腰をかけて、
早速出来あがったらしい、小さな煙草を咥えて美味そうに吹かしながら眺めている。

「・・・。小さくなって、ますます態度が大きくなったのね、サンジ君。」
ナミがサンジの側に食事を置きながら、半分からかい、半分呆れて声をかけた。

「へ?俺、態度が大きいですか???」と無邪気に顔を上げた表情を見て、
床でミニ煙草製造中の三人が好きでやっていることだとナミは察した。

「あんたたち、ミニプリンスに甘いんじゃないの?自分で作らせなさいよ!!」と
怒鳴ってみたくなったものの、楽しげな雰囲気を壊すのも大人気ない、と我慢した。

そして、急に思い出した。
「ゾロ、あの服どうしたの?」と、何気なく尋ねた。
あれだけきつく言ったのだから、まさか捨てているとは思わなかったのだ。

ゾロは背中に冷水を浴びせられた気がした。
(・・・覚えてやがった。)
咄嗟に言葉が出ず、聞こえない振りをした。

だが、「ああ、ゾロが海に捨てちゃったぞ!!」とルフィが悪気なくナミにいいつけてしまった。

「なんですって!!捨てたら殺すっていったわよね!!」とブチ切れたナミへゾロも逆切れ戦法に出た。

「うるせえ!!殺せるもんなら、殺して見やがれ、!!」と怒鳴った。

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