「てめえみたいに、頭の悪い奴、みたことねえ!!」
「てめえに頭が悪い呼ばわりされたくねえよ、コケ親父!!」

何時もの様に、大剣豪を夢見る男と、海のコック達が憧れる夢の海を
探す男が言い争っている声が聞こえる。

「そんな姿になって、良くそんな大口が叩けるもんだな、ええ、バカコック!!」

ここは、グランドライン。
夏島から、いきなり冬島へと季節が激変する困難な海域にある、小さな島に
ゴーイングメリー号は次の島へのログを貯めるために錨を降ろしている。

件の剣豪とコックの諍いは、この島の市場の外れの人通りのまばらな路地裏から聞こえている。


「そんな姿になって、良く、そんな大口が叩けるもんだな、バカコック!!。」
剣豪は怒っている。が、どうも様子がおかしい。

怒っている相手の姿が見えない。だが、

「うるせえな。なっちまったもんは仕方ねえだろ。」と、威勢のいい声だけは聞こえる。

剣豪の手のひらには、体長40センチほどの人形が柔らかく握りこまれている。
それに向かって、どうやら怒っているらしい。

・ ・・・人形?いや、ちがう。

男の人形に独り言を怒鳴る趣味は剣豪にはない。

優秀なコックが、人形の如く剣豪・ロロノア・ゾロの手のひらの中で「大きな口を叩いて」いた。

素肌に黒い手ぬぐいで体を包んで。


時間は2時間ほど前に遡る。


ゾロとサンジは、この島に「食べられる果実狩り勝負」をするために上陸した。

ルフィに会う前に一人で旅をしていたゾロも、食べるものに造詣が深いサンジも、
食べられる果実の種類を多く知っている。

野生の果実を摂りに行こうとしたサンジに同行するための理由としてゾロが勝負を吹っかけた。

そうやって、煽られて、必死に自分に対抗するサンジを見るのは、とても楽しいのだ。
とにかく、二人はその島の森に入っていった。

そして、タイムアップ。

「「62、63」」
「64・・65・・・・。」
ゾロの方が一つ多かった。

「俺の勝ちだ。ちゃんと、一ヶ月ロロノア様って呼べよ。」
「ちょっと待て、これもいれたら俺の勝ちだぞ。」

サンジは勝ち誇った顔でほくそ笑むゾロの前に、見た事もない果実を突き出した。
さくらんぼよりも、二周りは小さいくらいの大きさでサンジの掌に2つ
恥ずかしげに乗っている。

みかけはサクランボそっくりだ。
色が紫とピンクのマーブル柄でかわいい印象を与えるが、ゾロには見た事もないものだった。

「なんだ、これ食えるのか?食えねえもんは数に入れねえルールだろ。」とサンジの主張に反対する。

「食えりゃいいんだろ、食ってやる。」
サンジは咥えていた煙草を吐き出すと、いきなり二つとも口の中に放りこんだ。

「バカ!!毒だったらどうするんだ、吐き出せ!!」ゾロはすぐに飛びかかり、サンジの口をこじ開けた。

一つはなんとか指でつまみ出したものの、サンジの抵抗が思いのほか激しく、
それでもなんとか、もう一つも飲み下さず、口の外へ取り出す事が出来た時には、
その果実のみずみずしい果汁をほんの少し、サンジは喉に流しこんでしまった後だった。

「ウエっまず!!」
サンジは口の中に洩れたその果物の果汁の渋さに顔をしかめた。

「みろ、食えねえじゃねえか。この勝負は俺の勝ちだ。」
「不味くても、食えたかも知れねえだろ。お前がぐちゃぐちゃにしたから、お前の反則負けだ。」

二人は低次元のいい争いをする。が、突然サンジの顔色が真っ青になった。
「・・・・。気持悪イ・・・・」そういった途端、いきなり意識を失った。

「おいっ?!」ゾロは驚いてサンジを抱き起こそうとした。
肩を掴んだつもりだった。が、手応えがない。

あるのは、薄いシャツばかり。
「?!」

まさに一瞬の出来事だった。
ゾロが瞬きをするか、しないかのその僅かな時間に、サンジの体が消えたのだ。
・・・・常識で考えられる視界から。

思わず、シャツを持ち上げると、そこに重さを感じた。
ゾロはそれをまさぐり、目を疑うような大きさのサンジを見つけ出した。

「◎×△★♪●□♯・・・??!!」
思わず、ゾロも意味不明の言葉で悲鳴を上げる。

とりあえず、素っ裸になってしまったサンジを黒い手ぬぐいでくるりと巻いて、
抜け殻のように地面に広げたままのサンジの着衣を一まとめにすると船に戻るべくその森を後にした。


が、その帰途で迷った。

サンジは森を出てすぐに気がついて、事の詳細にすぐに気がついたが、
ゴーイングメリー号に変える道で迷ったゾロに普段と変わらない罵詈雑言を浴びせてきた結果、


「てめえみたいに、頭の悪い奴、みたことねえ!!」
「てめえに頭が悪い呼ばわりされたくねえよ、コケ親父!!」と、なった次第である。

どうにか、船に帰りつくと予想したとおり、大騒ぎになった。

事の顛末を簡単に二人は代わる代わる、皆に話した。

「それが悪魔の実だったかもしれないって事?」
ナミが眉を寄せて、心底呆れたような声音で二人に詰問する。

サンジは、ここへきてようやく神妙な顔つきになり、組んだゾロの腕に腰掛けている。

ルフィはそんなサンジを 顔面も、ひとみも、「キラキラ」と
音がするのではないかと思うほど輝かせて見ている。早く、触りてくてたまらないらしい。

「元に戻るのかな。」チョッパーが心配そうにサンジの側に顔を寄せる。

「わからねえな。・・・こいつ,ぐちゃぐちゃに噛み砕きやがったから,
持って帰れなかったし。」ゾロが答えると、
「もともと、果物狩り勝負をしようっていったのは,どっちなの?」とナミが全く違う質問をしてきた。

ゾロは憮然と,
「・・・俺だが。」
「じゃあ,あんたも悪いわね。」と決め付けられた。

「あんたもって,なんで俺が悪いんだよ?!」
と理不尽なナミの意見に食って掛かっても、ナミは涼しい顔をしていう。

「どうせ、あんたがサンジくんを煽ったんでしょ。
食べれるかどうかわからないものをいきなり口にするほど、
サンジくん そこまでバカじゃないわ。あんたが煽らない限りはね。」

(・・・・こいつ,なんでもお見とおしだな)
ナミに図星を挿されて、ゾロは黙り込んだ。

「とにかく、そんな体じゃ危ないから誰かが当番でコックさんを連れて歩かなきゃ。」と
ロビンがは提案した。

「「「賛成!!!」」」「・・・反対」「反対」


「反対の理由はなに,ゾロ?」ナミが意味深な、探るような、そんな笑顔をゾロに向けた。

「それは・・・・」サンジを誰にも触らせたくない。

ナニはできないけれど、それこそ「肌身離さず」携帯すれば、ずっと一緒にいられるのだ。

それに、こんなに・・・・。
(おもしれえこと、他の奴にさせられねえよ。)
要は、サンジを一人占めしたいだけだ。

だが、それを口は出来ないので、またゾロは押し黙る。

ナミはゾロの口から反対の理由が帰ってこないことはちゃんと予想していて、
すぐにもう一人の反対派を問い詰める。

「じゃあ、サンジくんはどうして反対?」
「そりゃ,そんなことして貰わなくても,大丈夫ってことです。」とサンジは正当な理由を主張する。

小さくても、サンジはサンジだ。
何も、本当の人形のように身動き取れないわけじゃないし、時化の時に
甲板へ出なければ航海に支障が出るわけではない。

だが,ナミはそんな理由は却下する。

「だめよ。」
ナミ以下、賛成派の意見は、ゾロと同じであった。

皆、サンジを構いたくて仕方ないのだ。
ただ,ゾロの気持ちもわかるので強引に多数決で物事を決めようとしている。

(次の島まで,このままだったら,一稼ぎ出来そうね〜。)
(妖精の服でも縫って,着せてやろうかしら。)
・ ・ナミ。金蔓。

(おもしれえ〜。何して遊ぼう、サンジで。)
・ ・ルフィ。玩具。

(どうして,ああなったのか調べたいな。)
・ ・チョッパー、研究材料。

(細かい道具を作らせよう。)
・ ・ウソップ、弟子扱い。

(皆の様子を見てるだけで面白い退屈凌ぎになるわね)とロビンは高見の見物を決めこむ積もりらしい。

それぞれのもくろみの中、サンジの意見もゾロの意見も抹殺されて、
1週間、日替わり交代でサンジを携帯する順番が決められた。


「やったア、あたし達が一番ね♪」
「・・俺、明日!!。」
「俺はその次だ。」
「俺はその後だな。」
「・・・。」苦虫を噛み潰したようなゾロの顔をサンジは見上げる。
ゾロの順番は、結局最後になった。

(クソくじ運の悪い奴・・・・)
サンジはその騒ぎを客観的に見ていて、溜息をついた。


サンジは、正直誰にも構われたくないのだが、事態を深刻に考えすぎて、
船内が陰気になるよりはましだ、と考えてそれを甘受することにした。
その日は、ナミがサンジを携帯する事になった。

「サンジ携帯会議」をしていたキッチンから、サンジはナミの肩に乗り、ナミの部屋へ移動した。

「ア〜ナミさんの髪、いい匂いだ〜。ナミさんの肌に触れられるなんて、夢のようだ♪」
「はい、はい。」ナミは何時もの様に軽く流しているが、内心、可笑しくてしかたがない。

サンジを机に座らせて、「そんな原始人みたいなカッコ,サンジくんらしくないでしょ。」
「服を縫ってあげるから、体を測らせてね。」といい,定規を持って来た。

「お手数をかけます、ナミさん、ロビンちゃん♪」
ナミはサンジの腕、背中、足の長さ,などを手早く定規とコンパスを使って測った。

ナミは簡単に、長袖のシャツを、
ロビンは長ズボンを黒っぽいハンカチを裁断してすぐに縫い上げてくれた。

「はい、できたわよ。」それをサンジに手渡し、「着替えてね。」と微笑んだ。
「有難うございます,ナミさん、ロビンちゃん♪」

・ ・・ナミは、薄ら笑いを浮かべてサンジをジッと見ている。
ロビンはクス、と小さく笑って、そっと女部屋を出ていった。

「・・・ナミさん、あの〜」「早く、着て見せてよ♪サンジくん」
(なかなか,見れるもんじゃないわよね。服代の手間賃だわ。)

女の自分よりも、ゾロはサンジの肌の方がいいらしい。
そのサンジの裸をじっくり拝んでやろう,とナミは思ったのだ。

「見られてると着替えられないんですけど。」と困ったように言うサンジに、
「海の男が何ナンパな事いってんの。さっさと着替えてよ。」と今度は脅しをかけてみる。

しぶしぶ,着替え始めたサンジに,ナミの方がドキドキした。
(なんで、あたしこんなにワクワクしてんのかしら?)とわれながら、可笑しい。
(女風呂をのぞく、男の子の気持って、こんななのかしら?)

「おい、入るぞ。」
その時、唐突にドアが開いた。

「「ゾロ!!」」
二人は同時に声を上げる。

サンジは助かった、という安堵で。
ナミはしまった、という焦りで。

二人の状況を何気なく眺めたゾロは、すぐにナミの意図を察した。

「・・・悪趣味な女だな」とぼそり、とつぶやく。

ゾロは、サンジの体に巻きつけた自分の手ぬぐいをとり返しに来たついでに、
やはり、心配になって見に来てしまったのだ。
そして、(来て良かったぜ・・・)と思った。

(案の定、困ってんじゃねえか。)とサンジの方へそんな言葉を込めた視線を向ける。

サンジはその視線を感じたが、気が付かない振りをした。
「俺の手ぬぐい、返せ」ナミと机の間に体を割り込ませ、ナミの視界を遮る。
サンジの体から、手ぬぐいを解いた。

サンジは、あわてて、ズボンをはいた。それを確認し、「邪魔して悪かったな。もう、用は済んだ」
ぶっきらぼうにそう言うと、ゾロは部屋から出ていった。

「もう!!肝心なとこ、見れなかったじゃない!!」とナミは憤慨する。

そして、次の日はルフィの番だった。


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