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「10年後」


「生きてるのが不思議な気がするよ。」
サンジは、ふと月の光りに手を翳しながら、誰に言うともなしに呟いた。

、床は板張り、天井は竹を組んである。
いわゆる、オリエンタル風のホテルの一室で二人とも裸のまま、大きな天蓋付きのベッド
に横たわっていた。


サンジの隣には、まどろみかけている緑の剣士がいる。


「・・・なにが不思議なんだ・・・?」
眠たげながら、ゾロはサンジの小さな呟きの意味を尋ねる。


「・・・・俺、27歳で死ぬとなんとなく思ってた。」
「今となっちゃ、なんでそんな風に思いこんでたか、わからねえんだけどさ。」
サンジは答える。

それを聞いて、ゾロが起きあがり、サンジの体に覆い被さる形で、
サンジの顔を覗き込んだ。
上半身には、鷹の目がつけた傷と もう一つ、それに平行するかたちで、
大きな傷跡がある。

ゾロは、「・・・そんなこと、今まで一回も言わなかったな。」と少し驚いた顔を見せた。
「相変らず、訳がわからねえよ、お前の頭の中は。」とサンジを引き寄せ、
そのまま、体を反転させ、サンジを腹の上に乗せた。

息がかかるほど、サンジとゾロの顔は側にある。
ゾロは、サンジの頭を優しく包み込み、
「なあ、もう一回やろうぜ。」とサンジに囁いた。

「だめだ。」サンジはあっさりとその甘い囁きを却下した。
「・・・ジュニアが起きるだろ。・・・?」と壁の方に視線を送った。
隣の部屋をうかがっているらしい。


「起きやしねえよ。お前が昼間、散々こき使ってるじゃねえか。」ゾロはサンジの首筋に
唇を這わせる。

「ん・・・っ。止めろってっ・・・・。」
首筋から顎を伝い、やがて唇に辿り着いたゾロは、そのまま深くサンジに口付ける。
もう、何回、何百回、何千回、この唇を吸っただろう。

時には、溶けそうなほど熱いと感じた事もあった。
時には、冷たくて、震えている時もあった。

今は、艶やかに濡れて、柔らかく、そして、いつものとおりにほんの少し冷たい。

「10年も、っ・・・んっ・・・・同じ野郎のっ・・・か・・・体を抱いて
「よく飽ねっえっ・・・・なっ・・あ。」
喘ぎ声の間に 甘く、サンジの言葉が紡がれる。

ゾロは、薄く笑いながら、愛撫の手を休めない。そして、
「お前こそ、この10年の間に随分、淫乱な体なったな。・・・。」と羞恥を煽る言葉を
サンジの耳に流しこんだ。

その夜も空が白むまで、「10年たって、淫乱になったサンジの体」にゾロは溺れた。
そして、体を繋いだまま、夢の中へと入っていく。



二人は、子供を連れて旅をしている。

子供の名前はジュニア。
父親はウソップだ。

母親は、とある島で出会った女で、ジュニアを生んですぐに亡くなった。

何故、ジュニアをサンジとゾロが引き取って、育てているのか。
話しは、1年余り前に遡る。


その頃、七武海のうち、「鷹の目のミホーク」以外の3人をすでに破っていた
ゾロは、「麦わらの一味」の剣士としてだけでなく、一剣豪としても 
名を馳せていた。

ルフィとナミの間にも子供がいたのだが、この子達はココヤシ村で
ナミの義姉ののじことゲンさん夫婦に育てられている。

ウソップの子供は、身寄りがなく、ウソップも手放さないので
麦わらの一味全員が親のように、「海賊の子供」らしく、育てていた。

ナミも、自分の子供と同じ年頃のジュニアを可愛がり、皆 厳しくはあったが、
ジュニアを大切に育てていた。

だが、それは少数精鋭ながら、「無敵」と云われている「麦わらの一味」の弱点でもあった。

どの乗組員をターゲットにしても、人間離れした連中だ。
返り討ちに会うのが目に見えている。

女性のナミでさえ、能力者を倒した猛者なのだ。
他の乗組員に関しては、わざわざ述べる必要もない。


名を挙げたい賞金稼ぎや、海賊、海軍からどんな攻撃をされても、決して 敗れる事などなかったが、ルフィやゾロの名が挙がるに従い、相手もどんどん卑怯な手を使って
麦わらの一味を追い詰めるようになってきたのだ。

ジュニアが4歳になった頃のことだった。

ドラムに似た気候の万年雪が溶けることのない島で、ジュニアは誘拐された。

ジュニアが自分たちの弱点だと 口には出さないが、ちゃんと自覚しているルフィは、
常日頃、ジュニアの側に必ず誰かがいるようにと それとなく心を配っていたのだが、
出航準備のドサクサの一瞬を、その土地の賞金稼ぎとも、山賊とも云えるごろつきに
狙われたのだ。

彼らは、「ジュニアの命が惜しければ、大人しくしろ。」と麦わらの一味を捕らえようとした。

全員を一度に海軍に突き出せば、一生遊んで暮らせる金が手に入るのだ。

「身代金を払うから、ジュニアを返せ」と交渉したが、そのボスは もとBWのフロンティアエージェントであり、その組織を潰した麦わらの一味をうらんでいた。

なんとしても、麦わらの一味に恨みを晴らしたかったらしい。

交渉は決裂した。

ウソップは、自分の息子の所為でこの事態を招いた事で自分を酷く責めた。

「俺の息子の事だ。俺がカタをつける。」と単身、彼らのアジトに乗り込んだ。

誰もがウソップの決心を悟った。
彼は、仲間の為に自分の息子をその手で殺すつもりだ、と。


チョッパーの鼻を頼りに、ウソップの足取りを辿り、
麦わらの一味がアジトについた時には、山賊がジュニアのほそい喉にするどい刃物を突き付けているところだった。

「ちょうどいい所に来たな、麦わらのルフィ。・・・。」
山賊はジュニアの首に細い傷をつけながら、既に勝ち誇った表情でルフィに視線を向けた。

「おい、狙撃手。お前の腕で、まずは船長から撃ってもらおうか。」と下卑だ笑いを浮かべてウソップを煽る。

ウソップは、唇を震わせながら叫んだ。
「ジュニア!!お前は俺の息子だ!!海賊の子供として生まれて、育ったんだ!!」
「お前は、りっぱな麦わらの一味だ!!」ジュニアの幼顔が強張った。

ウソップの照準は、ルフィではなく、ジュニアの頭に合わされる。
「仲間の為に、死んでくれ!!」
ウソップの双眸から、吹き出るように涙が零れ落ちる。

「「バカ野郎!!」」ルフィがウソップを突き飛ばすのと、サンジがジュニアの前に体を
投げ出すのが殆ど同時だった。

ウソップの短銃の音が冷たい空気の中に響く。

もしも、ルフィがウソップを突き飛ばさなければ、サンジの体を貫通していただろう。
また、サンジが体を投げ出してジュニアを庇っていなかったら、軌道を外したとはいえ
その銃弾はジュニアの小さな体に致命傷になりかねない傷を負わせていただろう。

銃弾は、サンジの肩の骨に食いこんだ。

二人のその動きとほぼ同時に、ゾロとチョッパーも動いていた。

サンジが肩に銃弾を受けながら、その勢いでジュニアを拘束していた山賊に飛びかかり、
ジュニアをその腕から掠め取った。

すぐ後ろに駆寄ってきたチョッパーにジュニアを渡す。
その瞬きするほどの間に、ゾロはその山賊の首と胴を斬り飛ばしていた。

吹き出るその返り血がサンジを汚さないように、サンジの腰を片手で抱えて、すぐに後ろへ飛びずさる。

サンジの瞳も、ルフィの瞳も燃えるような怒りを込めてウソップを見据えている。

チョッパーは、ナミにジュニアを渡して、サンジに近寄ってきた。
何時もは 温厚なチョッパーでさえ、腹を立てているようで、
眉をひそめて非難がましい視線をちらり、とウソップに送った。

ナミは、怯えて泣くことすらできないジュニアを抱きしめて、この膠着した空間を
ただ、呆然と眺めるしかなかった。




第2話


誰も、言葉を発しない。

ただ、ただ、無言でウソップの行動を責めている。

浅慮だとも、無鉄砲だとも云えない。
だが、皆が大切に育ててきた ジュニアは既にウソップだけの息子ではないのだ。

「サンジの治療をしないと。」口を最初に開いたのは、チョッパーだった。
その口調も、酷く冷めている。
だが、その言葉でようやく、まるで固まってしまったかのような空気が動き始めた。

「・・・・う・・・うわ〜ん。」
ナミに抱かれていたジュニアがようやく、感情を取り戻し、泣き始めたのだ。

「ジュニア・・・。」ウソップが掛けより、ナミはジュニアをウソップに渡そうとした。

「ナミさん!!」サンジの鋭い声が飛んだ。
「ジュニアをそいつに触らせるな!!」

ジュニアは、ナミにしがみついたまま、大声で泣いている。
ウソップに替わって、ルフィがジュニアを抱き上げた。

ルフィも、サンジと同じ事を云いたいらしかった。

自分たちに黙って、ジュニアを犠牲にしようとしたウソップが許せない。
ウソップの辛かった気持ちもわかるが、それでも、やるせなかった。


「ジュニアは、てめえだけのもんじゃねえ。」
サンジも、ルフィも、余りにも頭に血がのぼりすぎて、口を開けないでいる。
口を開けば、ウソップをただ、責めるだけの言葉しか出そうにないのだ。

その二人の様子を察して、ゾロがウソップの肩に手を置いた。


「一人で守ろうなんて、思うな。ジュニアは俺達全員で守るんだからな。」
そういうと、ウソップはゾロの胸に顔をぶつけるようにして、慟哭した。


だが、それを見ても、サンジの気は治まらない。
「てめえの息子に銃を向けるやつに気休めなんて言うことねえ!!!」

「うるさい!!」ゾロがサンジの言葉を遮った。

「お前みたいに、自分を犠牲にするしか能のねえやつが偉そうに云うんじゃねえ!」

サンジは、言葉に詰まった。
別に考えてやってる事ではない。
それをこの場で非難される覚えはないので、ゾロの言葉は的を得てはいても、癪に障った。

だが、咄嗟に云い返せない。

その険悪なムードのまま、麦わらの一味はその島を後にした。

それから、どうしてもサンジとウソップはギクシャクしっぱなしだった。

サンジの頭の中には、自分の夢に続く足を切り落としてまで、サンジを生かそうとした
恩人の姿が常にある。

だからこそ、まるでジュニアを自分の所有物の様に 仲間の為とはいえ、
見捨てようとしたウソップが許せないのだ。

ある晩、食事を終えてから、サンジが唐突に
「ちょっと、聞いて貰いてえことがある。」と話を切り出した。


「ルフィ、俺に2年、暇をくれねえか。」

サンジの話しはこうだ。

ジュニアは、一緒に航海するにはやはり幼すぎる。
これから、歳を重ねるに連れ、どんどん、自分たちの目が行き届かなくなるだろう。
逞しく育って欲しいからこそ、箱に入れて育てるような事はしたくない。

「バラティエに預ける。」
ルフィとナミの子供をのじこが育てているように、気心の知れた
パティとカルネにジュニアを育ててもらうのだ。

「俺は、ジュニアをバラティエに預けたら、すぐに戻る。ジュニアが10歳になったら、迎えに行けばいい。」

サンジは、もう決めてしまっているようだった。

「それだったら、俺が行く。」とウソップがサンジの意見に異議を唱えた。
だが、サンジは、その言葉をあからさまに黙殺する。
ウソップ一人で、ジュニアを連れてグランドラインを航海できるわけがない。
戦闘能力、食料の管理、航海術、何をおいても、サンジの方が適任なのだ。

だが、敢えてそれをサンジは口にしなかった。


ゾロは、ここ数日、サンジの口数がやけに少ないので、何かを考えているらしい事は
判っていたが、まさか唐突にこんな事を言い出すとは思っていなかった。

「ついでに、ココヤシ村にも寄ってくるよ。」とナミとルフィの方へ
同意を求める視線を込めて、顔を向けた。

サンジの気持が固まっている以上、何を云っても無駄だと船長は考えた。

「わかった。必ず、2年後だ。2年後に、・・・そうだな。アラバスタで待ってる。」

この頃、サンジの航海術は、ナミと肩を並べるほどになっていた。
ジュニアを連れていても、ログと海図さえあれば、グランドラインを逆走できるだろう。
だが、グランドラインを抜け、イーストブルーに行き、更にそこからアラバスタへ向かうのに、順調に行っても一年以上はかかる。

連絡手段が 電伝虫と海軍の郵便船しかないのだから、
細かい待ち合わせなどできないので、大まかに、
「2年後、アラバスタのナノハナ」で会う、と約束した。

「ゾロもいくんでしょう?」ナミが瞳に笑いを浮かべて、ゾロへ声をかけた。

一見、ゾロがいないと戦闘ダウンになると思われるが、そうでもない。
昨今は、ゾロを倒して名を挙げたい賞金稼ぎや海賊との小競り合いが多く、逆にゾロがいないほうが 相手は海軍と略奪目的の脆弱な海賊相手に限られる。
おそらく、 船医と狙撃手、能力者の船長と奇跡の杖を操る航海士だけでも 戦力としては充分なはずだ。


そんな事もあって、サンジとゾロは、ジュニアの体力に合わせて、
ゆっくりとバラティエに向かっている最中であった。

ルフィ達と別れて、はや1年と少しが経とうとしている。


サンジは、4歳の子供を扱うようには ジュニアを扱わない。
 
航海中の雑用も、どんどん教え、やらせる。
火も、火薬も、刃物も、危険なものであることを充分に教えてから
扱わせるのだ。

4歳にして、ジュニアはすでに小型の船舶なら操舵できるまでになっている。
それは、サンジの厳しい指導の賜物だ。
見慣れたゾロは平気だが、端から見れば、怒れば半端じゃなく蹴り飛ばすし
、ジュニアが泣こうが、喚こうが 
一切のフォローをしないそのやり方は、いささか乱暴だ。

「自分一人で生きていけるくらい、強くならねえと、一緒に航海なんてできねえぞ。」
ゾロが何気フォローしてやるものの、それでも、ゾロよりもサンジに
懐いているのは子供の不思議なところだ。

サンジが自分に厳しくても、彼から愛されていると言うことをジュニアは幼いながらも
ちゃんと感じているようだった。

サンジは、ジュニアに自分の姿を、自分にゼフの姿を重ねているのかもしれない。


3人が懐かしいリトルガーデンの側まできた頃、そろそろ、「ロロノア・ゾロ」を狙った
海賊達が姿を見せ始めた。


当然、そんな相手が何人かかってこようと、ゾロとサンジの敵ではない。

だが、彼らはどこからの情報かわからないが、二人が「狙撃手の息子」を伴っている事も知っていた。

ゾロがこれ以上、二人の側にいれば、ウィスキーピークに巣食うBWの残党に
執拗に狙われるのは明白だった。

だが、サンジ一人で ジュニアを守りながら航海することも難しい事だ。

二人は同じことを考えていたが、どちらもそれを言い出せずにいた。

もしも、離れてしまったら、そのまま会えないことも考えられるのだ。
この場合、ゾロよりもサンジの方が危険が大きい。

ゾロほどではないにしても、サンジに掛けられた賞金額も 海賊のコックとしては
考えられないほどの高額である。おそらく、こんなに高い賞金首になったコックは海賊の歴史を遡っても存在しないはずだ。

そして、今や「赫足のサンジ」といえば、グランドラインでもその技を凌ぐ物はいない、と評されている。

ゾロに向かってくるのが剣士なら、サンジには 拳法家などの体術の達人が次々と
挑戦しに現われるのだ。

そんなサンジにジュニアを委ねられない。

自分がいなければ、ジュニアの為に命を投げ出してしまうだろう。
自分のいない所でサンジが傷つくのも、まして命を落とすなど 考えただけで
背筋が凍る。

ゾロはそう考えて、自分がそばにいることで招く危険よりも、二人だけになって晒される危険を避けた方がいいと判断した。


第3話


ログは、いよいよウイスキーピークを指し示した。

ここには、まだ賞金稼ぎがグランドラインに入って来たばかりの海賊を狙って、
手薬煉(てぐすね)を引いている。

ここさえ無事に抜けることが出来れば、ラブーンのいる島を通過して
ローグタウンへ向かう航路は海軍の警備も訓練上がりの若い海兵が多く,
恐れることはない。

海賊も、不安定な天候の中の航海に必死で略奪をしている場合ではないのだ。
だから、サンジ達は穏やかな天候の日を選んで船を進めれば問題はない。

そのためには この最後の難関をすり抜けなければならない。

「お前は顔が割れすぎてる。変装しろ。」サンジは、自分のシャツをゾロに手渡した。

「・・・お前のシャツなんか,入るわけねえだろ。」
なるべく人目に立ちたくはないが、ウィスキーピークに上陸しなければ物資が整わない。
それに、大人の二人は船の上で休んでも一向に構わないのだが、
ジュニアの疲れがピークに達している。
このまま 無理をさせれば体調を壊してしまう恐れがあり、
そうなると 目的地バラティエに着くのがますます遅くなってしまう。

そうなれば、危険も増す訳だ。

それを懸念して、危険だと思うが ウィスキーピークで一旦船を降りて,
2,3日宿でジュニアを休ませようと二人は相談の末に決めたのだった。

そのために、サンジはゾロに「変装しろ」と言っているのだ。
更に
「3本刀は・・・目立つから一本だけにしろ。」とゾロに言ってきた。

サンジの髪は 肩を超える長さにまで伸ばし後ろで一つに縛っている。
それはそれで、目立つのだ。

サンジも「黒スーツに金髪」という海賊には似つかわしくないスタイルを
貫いてきた所為で その容姿は賞金稼ぎの間で有名になっている。

ゾロに「変装しろ」というのなら、自分もそうしなければならないはずだ。

自分の事は棚に上げて、命令口調でとやかく言うサンジにゾロは
不服そうな顔を向けた。
「お前もなんとかしろよ。」

とにかく、サンジに手渡された洗いざらしのシャツを着る。

ボタンが全部閉まらない。
「カッコ悪イぜ。」と愚痴ってみても、「普段のてめえの格好よりゃましだ。」と
つっけんどんに言い返される。

「ジュニア!!下船するぞ、準備しとけよ!!」
とキッチンで洗いものをしているジュニアにそう声をかけて、
自分もジュニアには出来ない作業をするために動き出した。



その数時間後、ウィスキーピークの港に碇を降ろした。

「・・・よく頑張ったな。」ゾロは、サンジの指示に従い、小さな体を
右往左往させて立ち働いていたジュニアの小さな頭を乱暴に撫でた。


「これくらい、なんでもねえよ!!。」元気よく答えて、ジュニアが照れくさそうに
微笑んだ。

上陸する前にもう一度 身支度を整える。

ゾロは 適当な布を頭に巻いて 緑の髪を隠した。
サンジも帽子をを深く被り、ラフな服装でサングラスをかけてきた。


そして、
「お前、そのシャツにその布はねえだろ。てめえの趣味はわからねえなア。」と
ゾロの服装を一瞥し、サンジは呆れて溜息をついた。

サンジの手に黒いペンキが入ったバケツがぶら下がっている。

「おまえ、それを俺の頭にぶっ掛けるつもりじゃねえだろうな。」
ゾロが引きつった笑いを浮かべると、サンジはそれに皮肉っぽい笑顔で答えた。
「他にどんな使い道があるんだよ?」

「上着を脱げ。甲板に出ろ,早く!」
ゾロを急かすサンジは明らかに面白がっているように見えた。

ゾロは、サンジの髪の方が目立つだろう、と思うのだが
自分の自慢でもあるサンジの美しい髪を自分の手で塗りつぶす事など
とてもできそうにない。

仕方なく、言われたとおりに上半身の着衣を脱いだ。

甲板から海の方へうつむけに身を乗り出す。
サンジは、ズブズブとバケツに刷毛をつっこんで、たっぷりとペンキを含ませた。
口元は煙草を咥えたまま、楽しげに口角を上げている。

「ジュニアもやるか?」後ろで興味津々と言った表情を浮かべているジュニアに
笑顔を向けた。

「うん!!」
ジュニアは元気よく答え、サンジの側に近寄ってきた。
その手にサンジは真っ黒な刷毛を手渡した。


「・・・手っ取り早くしてくれよ。頭に血が登っちまう。」とゾロは二人を急かした。


黒い髪に黒いサングラス、黒いシャツに刀を1本だけ腰に挿した剣士。

ピンクの帽子に蒼いサングラス、薄い蒼いTシャツにジーンズのチンピラ。

黒い癖毛の身なりの汚い女の子。
「俺、なんでリボンをつけなきゃいけねえの?」と頭にバンダナを可愛らしく巻かれた
ジュニアが口を尖らせて不服を言う。

「お前も有名人なんだよ。偉大なる「麦わらの一味」の一員なんだからな。」と
サンジはジュニアの頬を突付いて微笑んだ。

ともかく、その容姿で三人はウィスキーピークの街に足を踏み入れた。



出会って以来 初めての長い別れを経験する事になるとは 二人はまだ、予想もしない事だった。

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