少年と、父親はすぐに引き上げられた事と、名医の適切な処置で
大事に至らずに済んだ。

「でも、どうして爆発したんだ?」

ゾロには、「爆発」したようにしか、見えなかった。
船の残骸など見れば、大砲で吹っ飛ばされたようにも見えるのだが、
その瞬間を見ていたゾロには、どう見ても
船その物が爆発したようにしか見えたなかったのだ。

「でもよお、あの父ちゃん、爆発するようなもん、積んでなかったって言うぞ。」と
ルフィが首を傾げる。

あれから、サンジが蘇生させた少年と、父親はすぐにボートに乗せられ、
港に運ばれ、チョッパーが治療に当ったのだ。

「すごいね!」とチョッパーの処置の早さを見て、メロディは
素直に歓声を上げていた。

「大人になったら、チョッパーみたいになれる?」
「角が生えたら、二本足で歩ける?」


サンジは、その夜、悪寒がする、と言うのでチョッパーとメロディに挟まれて
眠っていた。

サンジに向かって、ぺちゃぺちゃと喋っていたメロディだったが、
何時の間にかサンジが眠ってしまったのに気がついて、
しょんぼりと首を垂れる。

「メロディも早く寝ないと。」とチョッパーはメロディに
優しい声をかける。

「うん。」メロディは鼻先をサンジの髪に摺りつけて瞳を閉じる。

最初の日、抱かれた時に 妙に鼻につく嫌なにおいだと思ったのは、
煙草の匂いで、サンジ自身の匂いはとてもメロディの気分を落ちつかせた。



次の日、サンジは朝から弁当を作り、昨日中止になった
ピクニックに出掛ける準備をしていた。

ルフィに邪魔されないように、早朝から始めたのだが、
そう言う気配に何故か敏感で 

「サンジ、残り物はねえか〜〜。」と8割方準備が済んだ頃、
ルフィが騒々しくキッチンに乱入して来た。

「おお、早エな。」サンジはルフィを振りかえった。

ちょうど、風邪気味のナミとウソップの朝食を作り上げたところだった。
「残り物なんかねえよ。全部、弁当箱に詰めるんだからな。」と
素気無く応える。

ドタバタしながらも準備を整え、取りあえず、昨日の面子で出かける。

ルフィが先頭、メロディとチョッパーがその後ろに並んで続き、
サンジ、ゾロの順で細い雪道を歩く。

でたらめな歌を歌い、笑い、雪玉をぶつけ合って、目的地などないままに
進む。

薄い日光だけれど、発育中のメロディの体の中で
骨の成長には紫外線を浴びる事も必要だ。

そろそろ、一服すっか、とサンジが言ったのは、
見晴らしの良い丘の上、大きな木が1本、目印のように立っている。

「弁当だ、弁当!」とルフィは相変らずやかましい。

チョッパーとメロディはトナカイらしく、積もった雪の上でも
のめり込むことなく、すいすいと歩いて行く。

固まった雪ではないので、うっかりその後に付いて行こうものなら
腰までズブズブと雪にはまってしまう。

「ま、ガキ同士はガキ同士で放っとくに限るな。」
食事の後、ルフィはチョッパーにまたがり、メロディはその傍らで
雪を跳ね飛ばしながら楽しげに遊んでいる。

「俺達は大人の楽しみを・・・な。」とサンジはにや、と笑う。

「あ?こんな寒いところでか?」とゾロはドキリ、としつつ、
緩やかに血液が体の中心に流れ始るのを感じる。

「バ〜カ。これだ、これ。」
サンジはバスケットの中から酒瓶を取り出した。
だが、敢えてそういう言い方をした事、そして
ゾロが見事にその悪戯に引っかかった事に薄く笑う。

その笑顔がまた 艶やかでゾロはまた、心臓を両手で優しく触られたような
気がした。

1本ずつ手に持って、口でコルクをこじ開ける。

「白雪姫に乾杯」とサンジは自分の瓶をゾロの瓶にチンという
涼やかな音が出るようなにぶつける。

「白雪姫だあ?」
「メロディだよ。ほら。」サンジはゾロの顰めた顔にも少しも動じず、
雪の上で転げまわって遊んでいるメロディを顎で指差す。

「あのお転婆が白雪姫だ?」ゾロは酒を一気に喉に流しこむ。
「馬鹿だな、まだガキじゃねえか、トナカイは秋に女になるんだよ。」


サンジのトナカイ談義を肴にゾロは酒を飲む。

トナカイの雄ってな、孕ませる雌を手に入れるために
そりゃ、壮絶な戦いをすんだぜ。
ああいう、草食類じゃ、一番乱暴で、一番、狂暴なんだとさ。

でも、それだけ 情熱家ってことだよな。

しかも、雌が発情してる時間って、びっくりするくらい短いんだ。
それ以外の時期に交尾しようとしたら、角で突付きまわされるんだぜ。
トナカイは雌にも角があるからな。

お前、よかったなあ、トナカイに生まれなくてよ。

「お前、なんでそんなトナカイの事、やたら詳しいんだ。」と
ゾロは尋ねる。

「なに、全部チョッパーの受け売りだ。メロディの食事のこともあるし、
色々知っとかねえと しなくていい病気をさせかねないからな。」と
サンジも酒を飲み、ポケットから コンビーフの缶詰をとりだして、
ゾロに渡す。

ルフィに食べられないように、隠していたのだ。
ゾロはともかく、サンジは肴がないと酒がすすまない。

「ゾロ、それなんだ〜〜〜っ。」とすぐに見つかり、遠くから
ルフィの手が飛んでくる。

「アッ」と思うまもなく コンビーフの缶は中身だけ
ルフィの胃袋に消えて行った。


「本当、良く食うなあ。」とサンジは溜息をついた。
仕方ない、肴なしでも飲めない事はない、と酒をあおる。



丘の下、風下の方に森が広がっていた。
そこから、トナカイの小さな群れが走り出てくる。

チョッパーと、メロディの視線が彼らにくぎ付けになった。
親子連れもいる、もしかしたら、メロディの母親かもしれない。
が、トナカイ達は、メロディにも、チョッパーにも
全く関心を示さなかった。

多分、大きな群れに餌場を奪われ、新しい餌場を求めて移動する最中なのだろう。

小さなトナカイがじっと、変った毛色の二匹をじっと見て、
鼻を蠢かしながら近づいてきた。

毛の色、体躯が他の子供より目立って見劣りのする、けれど
メロディにそっくりな子供。

メロディも、そのトナカイに引き寄せられるように近づく。

その時、
「ブーッ。」と明らかに威嚇する、母親の声がした。
チョッパーとメロディの体が竦む。
これは、トナカイに熟知した物か、トナカイ自身しかわからない、
警戒音だ。

トナカイは自分の子供以外には 同じ群れの子供であろうと
愛情は注がない。

チョッパーは慌ててメロディをその子供から引き離そうと、しっぽを軽く噛んで
引っ張った。

だが、メロディは動かない。
自分と同じ匂い、双子の兄弟だ、そして、威嚇しているのは
自分の母親だと メロディは動物の本能と匂いで確信したのだ。

だが、母親にとって見れば、捨てた子供はもう、愛情の対象ではない。
得体の知れない、化け物が自分の子供に近づいてきた、と言う脅威でしかなかったのだ。

が、メロディにはそれがわからない。
乳の匂いにひかれ、ふらふらと近づいて行く。

「メロディ、ダメだよ!」
頭を低くし、蹄で雪を蹴る、雌トナカイのその仕草は
子供を守るための突撃姿勢の準備運動だ。

メロディのような、小さなトナカイがまともに食らえば
死んでしまう。

チョッパーがメロディを突き飛ばしたのと、その横っ腹に
雌トナカイの頭突きが炸裂したのと、殆ど同時だった。


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