「メロディ、ナミさん、あぶねえっ」

サンジはナミを突き飛ばし、メロディを脇に抱えていきなり
高く吹きあがった雪煙を上げた爆発から咄嗟に横に転がって逃げる。

「あいつ・・・。」ナミは自分の予想が当った事に舌打をした。

サンジでは勝てない、と予測した相手だ。
サンジはミスター5の能力を知らない筈だ。
迂闊に手を出させてはいけない。

「サンジ君、あいつの注意を逸らして。攻撃はあたしがする。」

え・・・とサンジは驚いた顔をナミに向ける。

「あいつはサンジ君の蹴り、通用しないわ。あいつの体自体が爆弾なの。」
「ごちゃごちゃ、喋ってんじゃねえ。」

サンジの目の前で雪が吹き上がり、その衝撃でメロディを抱えたまま
サンジの体は空中に浮き、そして、降り積もった雪にめり込み、そのままうずくまる。

「サンジ君っ」
「だ、大丈夫。」

思わず 取り乱した声を上げたナミだったが、しっかりしたサンジの声を
聞き、ナミは安心し、しかし 次の瞬間、顔を引き締めた。

「メロディ、離れてろ。」

ナミの言葉を疑うつもりはない。
ナミに危険が及ばないよう、出来るだけあの男の注意を引きつけなければ、と
サンジは立ちあがった。

「お前ら、随分、可愛いトナカイを飼ってるじゃねえか。」と
二人に向けて不敵な笑顔を向ける。

「そのトナカイ、俺に寄越すなら見逃してやるよ。」

一緒にいた女よりも、黒いスーツの男が白いトナカイを抱えて
自分の攻撃を避けた事で、ボムボムの男はいつもの
残酷な遊戯を思いついたのだ。

「この血まみれのトナカイも、海で溺れ掛けてる仲間も」
「そのチビトナカイを俺に爆死させてくれたら みんな助かるんだぜ?」

「なんだとっ・・・。」
「なんですって・・・。」
ナミとサンジが歯噛みしそうな顔でボムボムの男を睨みつける。

二人を嘲笑うかのように、既に勝ち誇ったように、ボムボムの男は
言って、倒れて身動きしないチョッパーの背中を足で踏みつけた。

「てめえっ。」
今にも飛出そうとするサンジのジャケットの裾をメロディがしっかり咥え、
引っ張って止めた。

「・・・なんのつもりだ、メロディっ。」
あの男を蹴っ飛ばしたらサンジが死んでしまう、とメロディは
動物の本能で悟っていた。だから、必死でサンジを止める。

自分が犠牲になるとか、そんな事を考えての行動ではない。
突然の惨劇にメロディは動転していて、何をしているのか
自分でも判らないのだ。

「そうか、仲良く二人で爆死してもらおうか。」

男が息を銃の中に吹き込む。

「肉片になっちまえ。」とせせら笑い、引き金を引く。

サンジは咄嗟にまたメロディを抱きかかえ、雪の上に身を伏せた。
すぐ側で轟音が響き、耳が痛い。

が、照準が合わなかったのか直撃は免れたようだった。

「メロディ、大丈夫か・・・。」と腕の中のメロディの安否を確認した。
言葉を喋るけれど、メロディはトナカイだ。
チョッパーのように表情が豊かではない。

大丈夫か、と尋ねても、目を見開いたまま何も答えないで、
ブルブルと震え出したメロディを抱きかかえ、そして
ナミの方へと視線を向ける途中、

サンジの目が雪の上の肉片に釘付けになった。

白い、綺麗な毛皮の先に、小さな蹄がついたメロディの後ろ足が無造作に転がっている。

ボムボムの男の銃弾が逸れたのは、意識を取り戻したチョッパーが
渾身の力を振り絞ってもう一度 体当たりをしたからだった。

けれど、それで本当に力尽き、ボムボムの男に覆い被さるように倒れる。

「くそっ死にぞこないがっ。」

毒舌を吐きながら、チョッパーの体を持ち上げ、雪の中に放り投げた。
その瞬間、男の頬が蹴り飛ばされた。
あまりに素早いサンジの動きに体を起爆させる事が出来ず、ボムボムの男は
口と鼻から血を吹き出して雪の上に叩きつけられる。

メロディを抱いたまま、サンジは力任せにボムボムの男を蹴り続けた。
が、大人しくいつまでも蹴られているような男なら
BWのオフィサーエージェントは務まらなかっただろう。

「くそっ・・・・調子に乗るんじゃねえぞっ。」と悔しそうな言葉を口に出した。
「サンジ君、退いて!」

ナミの声でサンジは後ろに飛びずさる。

男が立ちあがり、銃を構えた瞬間、男に雷が直撃した。
その雷の威力は一発で男の息の根を止めるに充分な威力だった。


「チョッパー、サンジ君、」大丈夫?


ナミはサンジが抱きかかえているメロディの姿を見て言葉を飲んだ。




その夜。


メロディは、サンジの作った、大好物の離乳食、地衣類とミルクを混ぜた
餌をお腹が一杯になるまで食べた。足を吹っ飛ばされて
沢山の血を流した割りに元気だった。

トナカイは大きな草食動物だ。
赤ん坊の時なら、足が1本なくても不自由はない。
けれど、体が大きくなれば3本の足では体重を支えきれず、
結局 立つ事が出来なくなる。
そして、鬱血した部分から肉が腐り、衰弱して苦しみながら死んで行く。

競走馬や、象など 大型の動物が足を負傷したら安楽死させるのは
そのためだ。

「俺には出来ないよ」チョッパーはボロボロと泣いた。

誰にも出来る訳がない。
メロディの足がなくなったから、生きていても立つ事も出来ず、
生きながら腐り、苦しんで死ぬことが判っていても、チョッパーには
メロディを安楽死させる事など出来ない。

「俺がやるよ。」とサンジが意を決したように言う。
「餌に毒を混ぜれば・・・。」
「ダメだ。」搾り出すように言うサンジの言葉をゾロが遮る。
そんな辛い役目をサンジにさせたくない。
が、メロディを死なせたくもない。

「義足を作るとか、出来ないのか」
「義足・・・?」

チョッパーが思い掛けないゾロの言葉に顔を上げた。
どうして、こんな簡単な事を思い付かなかったのだろう。
もう少しでとんでもない事をしてしまうところだった、と今度は
全身から冷や汗が吹き出した。

翌日から、ウソップが怪我を圧してメロディのための義足を作り出した。
メロディは元気だった。いつものようにお喋りで、
自由にならない体を誰かに抱っこしてもらいながら、船の上で
気持ち良さそうに冷たい潮風に吹かれ、
サンジの作る塩ビスケットをもっと、もっと、食べたいと我侭を言った。


だが、チョッパーはすぐにメロディの体の異変に気がついた。
メロディの排泄物が真っ赤だった。

舌の色も真っ白だった。
排泄物の量は信じられないほどの多さで、メロディの体は内臓の
ダメージの方が大きく、ずっと出血しつづけている事をその赤い液体は
伝えている。

立てる筈もない。食事が出来る状態ではない筈だ、と
チョッパーはメロディに安静を強いた。
けれど、いつもとなんの変りもみせないメロディの様子に
ルフィを始め、誰もがチョッパーの診断に首を捻った。

「どうして?こんなに元気じゃないの」と何気なくナミはメロディを撫でた。
心地よさそうにメロディはゆっくりと瞳を閉じる。

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