眠ってしまったメロディをチョッパーは格納庫の自分達の寝床に運んだ。
そっと 起こさないように寝床に横たえ、
子守唄を歌うような小さな音で いつもの歌を歌った。
メロディは長くない。
誰もがチョッパーの診立てを信じないほど、メロディは元気に振舞っているけれど、
医者としての知識がそれを否定する。
静かに、静かにチョッパーは歌を歌う。
やがて、メロディがその声に応え始めた。
うっすらと目を開いて、トナカイ同士しかわからない、僅かな表情の変化で
安心しきった感情をチョッパーに伝える。
大好きだよ、メロディ。
私も、大好きだよ。チョッパー。
大人になったら、もっと上手に歌を歌うからね。
いつまでも、一緒に歌おうね。
トナカイの言葉で、二人は静かに言葉を交わす。
チョッパーはゆっくりとメロディの顔を舐めた。
メロディの小さな舌がチョッパーの青い鼻を人舐めし、
そして、また、メロディは歌を歌い始めた。
大好きだよ。チョッパー。
大好きだよ、みんな。
チョッパーもそれに答える。
泣いたらダメだと思った。
メロディは、最期の瞬間まで元気だった。
サンジの手からビスケットを食べ。
ゾロに頭を撫でられ。
ルフィに抱かれて。
ナミに背中を柔らかい掌で温められ。
恋の歌を歌いながら、瞼を閉じて、溜息のような息を吐いて。
静かに眠りにつくように見えた。
けれど、それきりしゃべる事も、動く事はなく、瞼が開く事もなかった。
「俺が拾ってこなきゃ、こんな死に方しなくてすんだのに。」とサンジが泣いた。
「俺があの森に連れていかなきゃ、死ななくてすんだ。」とゾロも拳を握り締めた。
「私が落ちついて、場所を聞いてメロディを置いていけば良かった」とナミも
大きな瞳から涙を溢れさせる。
「俺がさっさと釣りを切上げてりゃ、船を狙われる事はなかった」と
ウソップも肩を落とした。
「俺の手当てがもっと早かったら助けられたかもしれない。」とチョッパーが
号泣した。
「違うだろ。」ルフィは、冷たくなったメロディを愛しそうに撫でた。
「見ろよ。いい夢、見ながら寝てるみてえだ。」
今日一日だけ、みんな、思い切り泣こうぜ。
だけど、こいつを可哀想だなんて思うな。
サンジが拾ってこなきゃ、メロディは死んでたんだ。
短かったけど、俺達の仲間だった事できっと幸せだった。
こいつのこの顔見りゃ、判るだろ?
ルフィは頬を滴り落ちる涙を拭いもしないで、そう言った。
チョッパーにしか判らない、「白雪姫の歌」がゴーイングメリー号の
格納庫からはもう、二度と聞こえる日は来ない。
動物も歌うんだよ。
恋の歌を歌うんだよ。
大好きだよ。ずっと、好きだよ。
きっと、上手に歌うから。
いつまでも、一緒に歌おうね。
(終り)