ロビンの話しを聞きながら、サンジはどうして
こんな病気に感染したのか、を考えていた。

考えられるのは、一つしかない。
あの"針"で刺された事以外、考えられない。


だとしたら、解毒の方法も あの男は知っている筈だ。
この時点で、サンジは 自分の体が病ではなく、
毒に侵されていると言う可能性が高い、と思い至っていた。

自分が迂闊だったから。
それに

ナミを庇った所為で この有様だ、
早く 元気にならないと

(ナミさんが 自分を責めて)
辛い想いをするだろう。

サンジは、まだ、体が動ける内に、カタをつけたかった。

「ロビンちゃん、ちょっと甘えていいかな。」



蜜柑が食べたい、とサンジに強請られ、ロビンは 素直に
格納庫を出る。

もしも、側にいたのがナミなら サンジの目論みを看破していただろうが、
仲間になって日の浅いロビンは

サンジと言う人間の滅茶苦茶な行動を まだ理解しきれていなかった。


蜜柑をいくつか 手に持って それを食べやすいように
盛り付けようとキッチンに入ったロビンは、
すぐに

「おい、お前なんで こんなとこをウロウロしてるんだ。」と
ゾロに咎められる。

「コックさんが蜜柑を食べたいって。」とその意外な
剣幕を訝しみ、眉を寄せた。

ルフィとゾロがその体を押しのけて、格納庫に向かって一目散に
走って行く。

「なんなの、一体。」理不尽な仕打ちにロビンは首を傾げながらも、
仄かに 憤りを口調に滲ませていた。

「ロビン、なんでサンジ君に張り付いてなかったのよ?」
ナミが ロビンに歩みよった。
やはり 責めるような口振りだ。

「なんなの、一体。」



「あのバカ、やっぱり」とゾロは格納庫を乱暴に開けた途端、
吐き捨てるようにそう言った。

自分で例の"蟲使い"を探すつもりだ。
血の薄い、いつ 心筋炎を起こすか判らない危険な体で、
動ける時間など たかが知れていると言うのに。

「まだ、そんなに遠くには行ってない筈だ、探そう、ゾロ.」と
ルフィは サンジが船からサンジがいなくなった事を
他の仲間に告げる為に もといた キッチンへ向かって走って行く。


ゾロもそれに続いた。


「サンジの探索はルフィとゾロ、ロビンに任せましょう。」
ナミとウソップ、チョッパーは、島の医者に 7日病の治療法を聞き出す事に専念する。
 
船に連れ戻した時、準備不足で適切な治療が出来ないような事は
避けなければならない。

「科学的な治療法はない。」と 医者は言う。

「ただ、この島で言い伝えられている方法がある。」
「実際、それで生き残った者もいる。」

チョッパーが身を乗り出す。
「その方法って?」

その時、まだ、ゾロとルフィはキッチンにいた。
ドアを開き、外へ行きかけた足を 医者の言葉が止める。

「感染した患者と性交するんだ。」
「そうすれば、患者は助かる。」


ゾロが その言葉を聞いて振りかえった。
不信感まるだしの顔で 医者の言葉を

「なに?」と聞きなおす。
もっと、詳しくさっさと話せ、と目で 医者を急かした。

「本当なんだ、それしか方法がない。」
「ただし、それで 性交すれば、相手が感染して、」
「7日目に死ぬんだ。」

性交することで 相手に 病を移し、自身は助かる。
つまり、そう言うことか、とゾロは 自分なりに理解して
聞きなおした。


「そんなバカな。」

サンジは、蟲使いの賞金稼ぎを探して、港町をふらつきながら歩いていると、
別の賞金稼ぎに襲われた。

いくら 酷い貧血状態にあると言っても、二度、同じ手は食らわない。

その賞金稼ぎを 残った体力の殆どを使って締め上げ、
治療法を吐かせた。

「ふざけてんじゃねえぞ。」

そして、ナミ達が聞いたものと同じ方法を聞き出して、
その信じられない答えに 思わず、その賞金稼ぎの横っ面を
蹴り飛ばした。

「ほ、本当なんだ。」
歯と言う歯が全部、折れただろう、口から血を滴らせながら
賞金稼ぎは サンジの形相に竦みあがった。

嘘を言っているとは思えない。
サンジは 愕然とした。


どこをどう歩いたか、判らない。
熱は 持ち出してきたチョッパーの薬でどうにか 押さえられている。
鎮痛効果もあり、すでに心筋炎が進行していても、

苦痛を感じはしなかった。
眩暈と寒気だけで、まだ、動ける。

(くそう)
こんな下らない死に方、冗談じゃねえ。

そうは言っても、誰かに移して、それで 生き延びようなどと、
あさましい考えも浮かばなかった。

道端で行き倒れになることだけは 避けたい。
サンジは 体を引き摺るようにして、石造りの廃屋を見つけて潜り込む。

体がもう、思うように動かず、ちいさな凹みに足を取られて
床に転倒する。
そのまま、指を折って 残りの日を数えて見た。


(あと、4日か)


外には何時の間にか、雨が降り出していた。

死にたくない。

自分の為にも、この状況に陥った原因、自分が庇ったナミが
どれだけ 自責の念に駆られて苦しむかを考えると

ただ、同じ言葉だけが サンジの薄くなりがちな意識の中で
ぐるぐる回る。

死にたくない。
死んでたまるか。

けれど、なにも この窮地から脱出する方法は思いつかない。


「とにかく、あのバカを探すぞ。」
雨が降れば、チョッパーの鼻は当てにならない。

ゾロ、ルフィとウソップ、ロビンと 三手に分かれて
サンジを探す事になった。

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