「やりてえんだろ。」とサンジが腕の中で小さく笑う。

図星を指されて、ゾロはサンジの肩に顎を乗せたまま、
頬を赤らめた。

「まあ、やりたくねえ訳じゃねえが。」
「我慢出来ねえ事もねえ。」

となんとも歯切れの悪い口調でゾロは答えた。

サンジが思い掛けないほど、声が玉になって、コロコロ転がっているような
軽やかな笑い声を立てた。

「どうなんだ、それ。」と言い、喉をクックッと鳴らして
笑い続ける。

「汗まみれで汚ねえし。」とゾロは我慢する理由をボソボソと
言い訳のように呟く。

それに、サンジの体に全く力が入っていない事も気になった。

こんなに全身の力を抜き切って、ゾロに凭れて、腕に納まっている体に
違和感を感じながら、そのなよやかな柔らかさと温もりに
ゾロは妙に緊張する。

胸の鼓動が早くなる。
数時間前まで、不気味なほど早く、不快に収縮していたのではなく、
初めての時のような瑞々しい緊張感に心臓が戦慄いているのだ。

「病み上がりだしな。」とゾロは 自分自身を戒めるように、
溜息混じりに言い足した。

「病み上がりはお互い様だと思うが。」とサンジは また笑い出す。

「昨夜、妙な夢見たぜ。」とゾロはサンジを腕に抱き締めて、
鼓動が響きあうのを感じる程、体を密着させたまま、
「なんか、溶けて、一つになって、また、バラバラになるんだ、」
「俺とお前が。」
「その感覚が凄エ気持ち良くて、たまらねえんだ。」

(ああ、駄目だ。)
気を散らそうと、喋る事に神経を注ぐつもりだったのに、
何が(たまらねえのか、)と言うと、しゃべりながら、
自分で自覚出来るほど、サンジの温もりに火照ったように、
頭がボーっと逆上せていて、

また、それをサンジに指摘されるのも、バツが悪いと言うよりも、
恥かしかった。

サンジがやたら眩しく見える。
こんなに暗い地下室にいるのに、顔を直視できない程だ。

とても、抱きたい。

でも、こんなに綺麗な物に自分の汗まみれの体、
風呂にも入っていないむさ苦しい、薄汚れた体を擦り付けるのは、

悪いこと、と言うよりも、ものすごく 恥かしい事のような気がして、
気が咎める。

「俺はやりてえな。」とサンジはどこか、他人事のような飄々とした風に
囁いた。

「汗まみれでも、なんでも、いい。」
「お前に体中、触られてえよ。けど、」

何故か、体に全く力が入らないのだ。
意識はしっかりしているのに、体が空中に浮きあがるのではないか、と思うほど、
フワフワとした感じが消えない。

「なんか、ルフィの"ゴムゴム風船"にでもなったみてえに、」

筋肉の替わりに空気で体を覆われているような浮遊感と脱力感で
ゾロの温もりから離れられない。
体が動かそうにも ゾロの温もりに体の細胞が吸い寄せられてしまったような引力を感じ、それを引き剥がす気力も起きない。

酒に酔っているような気分にも似ていた。
酔っているのかもしれない、と思い至るとサンジは、俯いて、
また、小さく笑った。

「ルフィの風船になったみてえに、なんだ。」と言葉を途中で切ったサンジに
ゾロが尋ねる。

「なんでもねえ。なあ。」サンジはゆるゆると緩慢な動作でゾロから
体を離して、ゾロの顔を見られるように体をずらした。

「さっさとしねえと、賞金稼ぎが俺らの死体を取りに来るぜ。」と
言いながら、ゾロの唇に、ギリギリ触れない程に顔を寄せる。

「もう、死んだと思ってるだろうからな。」
「死臭がする前に必ず、ここに来る。」

「その前に、お前が生きてる事、俺にしっかり思い知らせろよ。」
「頭も、体も蕩けるくらいにさ。」

サンジの一言、一言がゾロの頭と下半身を刺激する。
こんなに強くサンジがゾロを誘うのは、記憶をなくしてから初めての事だ。

「凄エ奴だ、お前エは。」とゾロはサンジを力任せに抱き締める。
言葉だけで、堪え切れない程 興奮させられた。

口付ける為に体を離し、薄汚れていても、白い頬を掌で包んだ。
左目が見たくて、髪を掻きあげると、両目を開いてゾロを見ていた。

(もっと、明るかったら色が判るのに)と残念に思ったけれど、
ゾロが眼を閉じ、サンジの唇に口付けようとする一瞬前に、
サンジの唇がゾロのそれに重なった。

ついばむように口付けて、徐々に深く、熱く、激しく、
相手の体温を求め、与え、命を存在を確かめるように、口付ける。

いつしか、貪るようにサンジの唇を求めていた。
ゾロのペースに自分の呼吸が思うままにならず、サンジが僅かに
苦しげに身を捩った。

(やべエ)とゾロは慌てて唇を離した。
そのまま、今度は包むようにサンジを抱いて、床に横たわる。

思ったとおり、小さく、サンジは息を弾ませていた。
それでも、照れたように 声を立てずに笑っている。

「俺が蕩けちまう所だった。」とゾロも照れ隠しに笑った。

「優し〜〜〜く 頼むぜ。もう、乱暴なのはゴメンだ。」
「だから、一旦頭冷してるんだろ。」

あのまま、口付けたら、きっといつもより余裕のない
無我夢中な行為になっている。
サンジの邪気のない皮肉を聞き流し、ゾロは横になったまま、
髪や、耳に触れ、急激な興奮状態をやり過ごし、
もっと、穏やかに、自分の欲望よりも、サンジを満足させる事に
集中出来るようにと下半身の自分に言い聞かせる。

「そうか。」とサンジはあっさりと相槌を打つ。
だが、ゆっくりと体を起こして 横たわったままのゾロに
袈裟懸けに覆い被さった。

「お」い、と声を出そうとしたが出なかった。
サンジがゾロの頚動脈に耳を押し当てて動かない。

「血の流れる音が聞こえそうだと思ったんだが、」
「聞こえねえモンだな。」と呟いて、そのまま、顔を僅かに傾けて、
ゾロの首筋に唇を這わせる。

命がけで惚れぬいた相手に そんな刺激を与えられて
冷静でいられたら男ではない。

みっともないほど、息が乱れた。
痛いくらいに 男性自身が膨張している。

(こんなになっちまったら、どうやっても無理だ。)と自分でも判るくらいだ。

「気持ちイイか?」とサンジに耳元で囁かれて、また、興奮度と硬度と体積が増す。

自分の体重を支える為にゾロの胸に置いた手に触れている胸の皮膚から
温もりが広がって行くような感覚がする。

「お前に触られてるだけで なんだってこんなになりやがるんだ。」と
思わず、ゾロは自嘲気味に呟き、サンジを見上げ、
視線が重なる前に口付け、そのまま、組み伏せるように自分が上になった。

サンジの性器にも、ゾロほどではないけれど、
変化が現れているのを掌で感じて、ゾロはバックルを手馴れた手つきで
外した。

唇を合わせたままのサンジが、僅かに呻くような声を出す。

甘い喘ぎではないけれど、確かにゾロの手がそこへ触れた瞬間、
絡めていた舌先が大きく震えた。

弱く、穏やかな刺激なのに、サンジは体を戦慄かせる。
ゾロの右手が少しづつ、湿り気を帯びて行く。

呼吸の為に唇を離すと、小刻みにサンジは息をした。

その間も絶え間ないゾロの掌の愛撫に、
「・・・あっ。」と堪え切れない声が漏れて、サンジの腰が浮いた。
7日も絶食していたのに、快感に体を貫かれ、それに溺れても、なんの苦痛も感じない。

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