とにかく、一晩経った。
二人とも、落ちついた事だろうし、婚約を破棄するにしても、
しないにしても、今日現在は ニアとサニートは婚約者(フィアンセ)同士だ。

ジュニアは、朝っぱらからサンジに見つからないうちに
ミユのところへ出掛けてしまっている。

「二人きりになると あの王子サマ、ニアちゃんを泣かすからな。」
「デートには、誰か邪魔にならなくて、和み系の奴がついて行けばいいのに。」と
食事の後片付けをしながら チラリとジュニアを見たのだ。

(冗談じゃない。)とジュニアは思った。


それなら、トニーさんの方が大人だ。
それに、和み系と言うのなら 自分よりももっと適任の筈。

が、残念ながら サニートがチョッパーに 本心を全部 晒すとは思えないし、
ニアも人見知りが激しい方らしいし、
まだ 12歳ながら 気まぐれで我侭な 養父に付合っている所為で
歳よりも 随分しっかりしているジュニアは
きっと、この厄介な色恋沙汰の監視役を仰せつかるだろうな、と予測して逃げた。


「朝食の準備もしねえで、逃げやがった!おい、ウソップ、てめえの息子は
友達のピンチに逃げたぞ、いい性格してるじゃねえか!」

お前の躾が行き届いていて、逃げ足も速いが 勘もいいな、とウソップも言い返す。

「仕方ないわね。私も、ジュニアに頼もうと思ってたのに。」とナミも溜息をつく。


(余計なお世話なのに。)と 心底心配してくれているナミの顔を見ては
さすがに サニートは口に出せない。





「だからって、俺とお前はねえだろうが。」





「仕方ないだろ。ナミさんが行けっつってんだからよ。」





サニートの本心よりも、ニアが本心を晒しているかどうか、推し量れない。


遠く、ココヤシ村で育っている子供と、サニートが重なるのか、
ナミは 本当にサニートの事を心配しているのだ。
昨夜のサニートの 女の子に対する態度の冷たさが 本当の彼の姿だと
思いたくなかった。

ビビも、コーザも、ゾロも多分、ナミが サニートの出生について
実は かなり 確信に近い疑惑を持っている事を知らない筈だ。


サニートは、もしかしたら、チョッパーが 死んだ、と言っていた
サンジのお腹の中にいた子供かもしれない。
時期も一致する。ただ、人間の子供がわずか 妊娠2ヶ月で生まれて
育つ訳がない、と言う矛盾だけが 払拭できないけれど、

人間離れした 二人の子供、まして 悪魔の実の力で結んだ命なら
有り得ない事では ない。

そう思って ゾロとサンジの行動を観察していると、
どうも、ゾロは 知っている、と言うか 自分と同じレベルで
サニートを見ているように思えた。

それに、この船にいる以上、大事な親友の一人息子でもある。
余計なお世話かもしれないが、どうしても 事の顛末を穏便に済ませてやりたかった。


「可愛いな、お前。」
「お前も、可愛いぞ。」

深く帽子を被った、10歳にはまだ 数年あるくらい年嵩の少年が二人、
石畳の道をニヤニヤ笑いながら 歩いていた。

その少し前方に、無言のまま 並んで歩く、緑の髪の青年と
紫の髪の少女がいる。

「ガキガキの実エキスなんて、チョッパーの奴、良く持ってたな。」
「そんな事より、見失うなよ。」

暢気そうな金髪の少年が 言うのを帽子を深く被った 少年が咎める。

「だいじょうぶだって、まず、ジュニアの所に行くに決まってる。」


金髪の少年は火のついていないタバコを咥えていた。
帽子の少年はそれを指で摘んで 道端に捨てる。

「何すんだよっ。」声変わりしていない声で 叫ぶと足を振り上げた。
その足を避けた 帽子の少年の、頭に被っていた帽子が飛ばされ、
緑の髪が覗く。


サニートは 金髪の少年の予測どおり、海岸の、ジュニアとミユが
出している屋台についた。

「いらっしゃい!ああ、昨日は有難うございました。」
ミユは はちきれんばかりに生命力に溢れ、眩しいほど元気だ。
ジュニアが 心惹かれるのも 判る気がする。

嫌いも、好きも、はっきりと言うだろうな、この子は。
サニートは ミユを見て、それから 店の中でてきぱきと動くジュニアを見た。


「何やってんのさ。」

せっかく 逃げてきたのに、本人がニアを連れて ここに来られたら
ジュニアに取ったら迷惑だ。
露骨にその感情を顔に出す。

「別に。二人で話して来いってナミさんが言うから。」
「こんな賑やかなところで 話しなんか出来ないんじゃないの?」
「もっと静かなところに行けば?」
正直、ジュニアはミユとの時間を 邪魔されたくないのが 本音なのだ。

この島にいる間だけの 淡い初恋だから、そう思うのも仕方がない。
つっけんどんなジュニアの態度にミユはサニートが気の毒になったのか、
二人の会話ににこやかに 口を挟んだ。

「あら、デートなんですか?だったら素敵なところがありますよ。」



「あのやろ、やっぱり ミユちゃんとこにいやがったな。」

もの影に隠れもせず、サンジとゾロは堂々と 4人の様子を海岸から
眺めていた。

「ジュニアの事は放っておけよ。おい、どっか行く見たいだぞ。」

ゾロは走り出した。
サンジもそれに続く。

足が、自分が思っている以上に短いので 自分が思うような早さでは
上手く走れない。

この身体だと、どうもサンジの方が ずっと身軽らしく、ゾロをあっと今に追い越して行った。

「待てよっ。はぐれるだろっ。」と慌てて その足を止めさせる。

チビチビの実だの、メスメスの実だの 悪魔の実を何度か食べた事が
ある所為なのか、サンジは自分の体の感覚と調節を もう
完璧に把握しているようだった。

「鈍臭いやつだな、てめえは。これから先は あの二人がどこに行くか
わかんネエんだから、見失ったら困るじゃネエか。」

振りかえって、ゾロに毒づく。
が、気がつくと
既に ニアとサニートの姿が海岸から消えているので サンジは慌てた。


仕方ねエ。ジュニアに聞こう、とサンジはジュニアの屋台に近づく。

「いらっしゃいっ。」
ミユが元気に迎えてくれる。

金髪の少年がにっこりと笑ったので、ミユも同じようににっこりと笑う。

「あの、黒い髪のお兄さんを呼んでくれる?師匠からの言伝だって。」

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