「あの、黒い髪のお兄さんを呼んでくれる?師匠からの言伝だって。」


ミユに呼ばれて行くと、ジュニアは 大声を出しそうになった。


多分、こんな姿になっていることの説明をするのが面倒だったのだろう、
子供振りをして 自分を呼び出したサンジとゾロの姿を見て、
ジュニアはまず 驚き、次に笑いがこみ上げてくる。

8歳くらいの少年なのに、中身は36歳の中年が入っているのだ。

「サニートなら 入り江に行ったよ。」
ジュニアは二人に さっきミユがサニートに教えていた 場所を教えた。
どうせ、こんな姿になっているのは ナミに言われたからだろう、と察しがつく。


その行き道の事だった。


「なあ、あれ。」

サンジが立ち止まり、指差す。
その先には人相の悪い男が 武器のメンテナンスをする店から出てきた。

サンジはその男を一目見るなり、賞金首だと断定する。
手配書の顔は、レストランのオーナーになった今でも、
100万ベリー以上の賞金首の物なら 全て頭に入っていた。

「500万ベリーだぜ?」とゾロを振り向く。

「あ?」こいつ、正気か、とゾロは眉をひそめた。

今、自分たちの体躯は 10歳にも満たない子供なのだ。
たかが、500万とは言え、賞金を掛けられるほどの海賊相手に
何をする、と言うつもりなのか。

「俺が狩れば そのまま500万貰える。」
「お前、自分の身体がガキのもんだって 判ってて言ってるのか?」


「頭を使え、ば〜か。」

サンジは足元の石を思いきり、その男目掛けて蹴り飛ばす。

サンジの蹴り、サンジの狙いは正確だった。
二人は その男に恐ろしい形相で追い掛けられる。


入り江には、サニートがいる。
外出するときには 一振りでも太刀を必ず携えているはずだった。

「のろま、それで走ってるつもりか、デクノボー、ヘタレ海賊め!」
「追いついて来れるもんなら追い付いてみやがれ、クソイモムシ!」


ある程度の距離が離れると サンジは振り返り、飛び跳ねて
男を嘲笑い、煽る。

(こいつ、中身は俺と同じ歳なんだよな????)
あまりにも違和感のないサンジの姿にゾロは首を捻りながら、
入り江に向けて 全力で走る。




サニートも、ニアも国から離れているので、ビビの近況など
二人とも知らないから 全く話しが進まない。

ただ、黙って黙々と歩いてきたが、さすがに居たたまれなくなってきたサニートから
ようやく口を開いた。

「あなたは 僕と婚約しろ、と言われた時はどんな気持ちでしたか?」

ニアは、サニートよりも年上だが、体が小さいのと、童顔なのとで
どう見ても 同い年か、それ以下に見えた。

前だけを見ていたニアが初めて サニートの方へ顔を向ける。
昨夜の、薄暗い中で、テーブル越しに見た姿よりも
ずっと、
「生きている」感じがした。

「畏れ多くて、嬉しかったです。」ニアははにかむように微笑んで答えた。

王妃になる、と言う自覚がなかった、幼い頃は 国民からも
王室の誰からも 大事にされて、愛されていて、
容姿も 運動神経も、知性をも兼ね備えている(と、ニアは思っている。)
サニートと結婚できる、と言うのは まるで 御伽噺の主人公になったような
気分だった。

「それが、どうして 急に?」

ニアがサニートの問いに答えようと口を開き掛けた時だった。


子供の悲鳴が聞こえた。
男の怒鳴り声も、殆ど同時に耳に入り、二人は顔を見合わせた。



「このクソガキャ、海に沈めてぶっ殺してやるっ。」

凶悪そうな男が 金髪の男の子を頭の上に高だかと持ち上げていた。

サニートの視界の端に、帽子を被った男の子が波の間に沈んで行くのが見えた。
海に放りこまれたのだろうか、恐ろしい勢いで海に飲みこまれて行く。

躊躇なく、サニートは飛びこめない。
実は、小さな頃 サニートは一度だけサンドラ川の河口近くで溺れた経験があった。
悪魔の実の力で生まれた所為だとは 夢にも思ってはいないが、
その身体は なんの能力も持っていないのに、
悪魔の実の力の弱点である 「海に嫌われて沈む」と言う特性の
影響を受けている。

サニートは一瞬、棒立ちになった、
が、ニアは なんの迷いもなく 身を翻し、狂暴な男には
全く目もくれないで、長いスカートを引き千切り、
肌を隠すための上着を地面に脱ぎ捨て、
帽子の少年が 沈んだ付近目掛け、岸から飛び込んだ。


(クソッっ・・・・)
溺れる事がこんなに苦しいとは思いもしなかったから、
ゾロは舌打しながら 必死で手足をばたつかせ、もがく。

サンジが煽り、ここまでおびき寄せたにも関わらず、
まだ、自分の身体に慣れていないゾロが 全速力で走っている最中、
足がもつれ、転倒した。

すぐに起き上がろうとしたら、木の根に靴紐がひっかかり、
手間取ったのだ。
その所為で、男にまず、ゾロが捕まり、海に放りこまれた。


一方、サニートは剣を引き抜き、風のように動いた。

男は何がなんだか判らない間に 脛に焼けつくような痛みを突然感じて
くず折れる。

男が放り出した、金髪の少年は猫のような動きで
地面にふわりと降り立った。

ぱっと顔を上げたその少年の目を見て、サニートはギョッとする。

「サ・・・」サンジさん???と言い掛けたサニートをおいて、
その少年はニアが飛びこんだ海の方へと駈けて行った。

ニアに抱かれて、緑の髪の少年が海岸に引き上げられていた。


「お友達は無事よ?」
水を飲んで、咳こんでいるゾロの背中をニアは優しく 擦りながら、
サンジにも 綺麗な笑顔を見せた。

「ありがとう。」

金髪の少年は頭を下げると、ニアからひったくるように緑の髪の少年を
立たせた。

小声で二人は 何か言葉を交わすと、同時にペコリと頭を下げ、
サニートの気配を避けるように すぐに走り出した。



「バレたか?」
「8割方、バレたな。てめえのせいだ。」

ゾロは後を少し振りかえって、遠目でサニートが自分達を訝しげな表情で
見つめているのを見て、呟いた。

それを聞いて、サンジは ゾロに早速文句を言ってきた。

「けど、いい子だって判っただけ、収穫だな。」
「綺麗な足してるし。」


溺れている少年を見て、なんの躊躇いもなく、自分の服を引き裂いてまで
海に飛びこんだ、ニアの意外に気丈なところを発見して
サンジは 口元を綻ばせた。

「いっそ、一緒に行動してみるか。王子サマにゃバレてても、なんとか
なるかもしれねえ。」


トップページ   次のページ