証拠や、真相など、どうでもいい。
ムカツクか、むかつかないか、
ぶっ飛ばしたいか、そうでないか、
麦わらの一味は正義の味方ではない。
海賊だ。
相手にどんな合法的な正当性があっても、船長の気持ち一つで
自分達独自に善悪を判断する。
事の次第は、麦わらの一味の関与するところではないのだが。
事実は、事実として、述べる。
この島の闇の部分を牛耳っていたのは 今回の麻薬の取引を行っていた
組織だ。
今回、この1件で大きくその勢力を削がれる事になる。
闇の部分、と言うのは たとえば 海賊が略奪して来た盗品を
金に変える独自のルートを持っていたり、
あるいは、海賊や海軍など 海を旅して来た男達の肉欲の処理をする為の
設備の運営や、武器の販売などだ。
その利権に関わっていれば、相当な金が懐に入る。
その組織と対抗する組織が最近、頭角を現して来た。
以前は、ただの賞金稼ぎの集団に過ぎなかったのに、
頭が死んで、党首が変わった途端、その組織の性格が一変したのだ。
それが、ミルキービーだ。
あくまで、憶測の範囲に過ぎないのだが、
サンジとナミは新聞の記事と野次馬で現場を見てきたウソップの言葉から、
大方の事実を予想していた。
「相手を殲滅させる為に仲間を 相手の懐に潜りこませて。」
「恐らく、麻薬の横流しもやってたんだろう。」
「それを海軍に知られると 厄介だから、戦闘のドサクサに」
「潜入させた仲間を殺して、口を封じたのね。」
海軍の信頼と、島の利権の両方を 仲間を見殺しにする事で、
ミルキービーは手に入れたのだ。
が、あくまでこれはナミとサンジの憶測に過ぎないのだが、
客観的立場で述べるなら、その推測は真実そのものだ。
戦闘のドサクサで仲間を殺す。
それは、カラメルがミルクを殺した時と全く同じ手口だった。
ルフィは ナミとサンジが顔を付き合せて 何やら難しい話しを
している、と言う事しか判らない。
「な〜、俺も話しに混ぜてくれよ〜。」と横合いから口を挟む。
「ああ、あのな。」サンジが そう言って暫く腕を組んで黙りこむ。
どうやって説明すれば、ルフィに判るだろう・・・。
「あのね、ルフィ。」
「仲間を殺して得をした奴がいるのよ。」
「それが、ライ君を酷い目に合わせた奴よ。」
ルフィには ナミやサンジの感じたままだけを伝えればいい。
カラメルが本当に卑怯かつ、姑息な手段を使ったか、そうでないか、などの
証拠など必要はない。
ライは、新聞を読んだだけで サンジ達が行きついた憶測を
ほぼ、間違いなく 事実だと確信する。
カラメルの人格とやり方を知っているだけに
その確信は疑いではなく、確固たる物だった
許せない。
許せない。
同じ言葉が頭の中を駈け回り、血が沸騰するかと思うほど
怒りだけが 込み上げてくる。
こんな所で寝ている場合じゃない。
一刻も早く治って、カラメルに復讐を。
ミルクを殺し、仲間を殺し、自分を地を這いずる虫けらのような目に遭わせた
男に向かって、ライの心の憎悪の炎が燃え上がった。
「おい、ボウズ。その男をぶっ飛ばしてえか。」
その夜、珍しくライの病室にルフィがやって来て、唐突に尋ねた。
「ぶっ飛ばしてえなら、この船で体が治るまで面倒を見てやる。」
「そうでねえなら、今すぐ、船から降りろ。」
答えなど、聞くまでもなかった。
ライの眼差しには 鮮やかな生命力の光が宿っている。
ルフィはそれを見て取り、ニタリと笑った。
「サンジのメシ、食ってんだ。絶対エ、お前は負けねエよ。」
自分達、麦わらの一味は カラメルに直接手を下さない。
ライにそれをさせる事、それが今のライにとって 唯一 生きよう、
回復しよう、と言う意欲を沸かせる事だからだ。
それに、麦わらの一味には カラメルに対して なんの恨みもない。
何より、ルフィの気持ちは カラメルをぶっ飛ばすのは
自分達の仕事ではなく、ライの仕事だ、と考えているのが 一番
重要な理由だった。
その日から、ライの体は目に見えて回復の兆しを見せ始める。
けれど、心はまだ、ボロボロに破れたままだった。
チョッパーの処方した薬は すぐに 体が慣れた。
つまり、顕著な効果が得られなくなったのだ。
ゾロが最初に気がついてから 10日ほど経った夜だった。
サンジはライの寝床に凭れて 薄い眠りについていた。
布ズレの音が聞こえて ぼんやりと目を覚ます。
ライが寝床の上で 苦しげに息を弾ませている事にすぐに気がついた。
そばのランプに火を灯し、ライの顔を覗きこむ。
「おい、ライ。」
「ライ。」
目を覚まさせよう、と肩を掴んで揺り起こした。
まるで、機械仕掛けの人形のようにライは パッと唐突過ぎるほど
鮮やかに瞼を開いた。
が、その灰色の瞳には 光が宿っていなかった。
魂が抜けたようにライは 自ら 服を脱ぐ。
後は、ゾロの時と全く同じ行動だった。
「ライ!」
サンジはやはり、ライの頬を打つ。
が、折檻を伴う行為をされ続けていた所為で それくらいでは
ライは悪夢から覚めない。
乱暴に寝床に叩きつけても無駄だった。
ライは幽霊のように起きあがり、無表情だけれど、
どこか 怯えた姿態で淫らな行為を求めている。
酷エ。
サンジの口から 搾り出すように声が漏れた。
自分からそんな屈辱に甘んじなければ 酷い折檻を受けていたのだろう。
無意識にサンジを口に含んだライの頭をサンジは乱暴に払いのけた。
かつての自分の姿が重なる。
胸が痛いほど軋んだ。
早く、目を覚ませ、ライ。
きっと、客からは絶対にされた事がないだろう、優しい行為で
ライを覚醒させる。
ライが痛々しくて、哀れで、サンジは 自分だけで救ってやれるか
判らなくなった。
ゼフやゾロに比べて 俺はなんて いい加減なんだ、と
自分の不甲斐なさが 悲しくなる。
だが、今はそんな自分であっても、守ってやりたいと思ったライを
投げ出せない。
「ライ。」サンジは何も考えず、衝動のままに
今、自分が出来る事はこれだけしかないと思った。
穏やかに名前を呼びつづけ、頬や、額に 優しく、
愛しく、唇を降らせる。
ゾロの時は ライは意識を失い、自分の行動を知らなかった。
が、サンジの匂いがあまりにも側にあり、
自分が受けた事のない、柔らかで 優しい愛撫に
深く眠っていた自我が目覚める。
「サンジさん・・・?」
サンジが自分を抱き締め、唇で頬を撫でている。
それだけで 聡すぎるライは 夢と現実を混濁していた意識の記憶を
一瞬で取り戻してしまった。
腕の中で瞬時に顔色を変え、酷く狼狽したライの心境をサンジはすぐに
悟った。
ライの鼓動が恐ろしいほど早く打たれているのが聞こえる。
「大丈夫だ。何も心配ねエ。」サンジの声は静かで、穏やか過ぎた。
見境なく、男との行為を強請る体になったのか、とライは
這い上がってきた崖を突き落とされるような絶望に叩き落され、
言葉を失う。
「離して下さい。」
声が震えて、それだけ言うのがやっとだった。
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