「どうするつもりなんだよ。」と抵抗せず、拉致されてしまったことに気がついた
ゾロはサンジを責めるような口調で詰め寄る。
「別に。なんにも考えてねえよ。」とサンジは暢気に応える。
ゾロは顔を顰め、
「お前、あんな目に会わせられて、まだ あんなクソ女の肩を持つつもりじゃねえだろうな。」と問うと、サンジは涼しい顔で煙草に火を付けながら
「持っちゃ悪イか。」とまた、どこか 物事を傍観しているかのような口振りで答えた。
「あんな可愛い子がなんの理由もなく、男を拷問にかけるような真似、するはずがねえ。」
「その訳さえ、取り除いてやりゃ、お前の手を煩わせねえですむかも知れネエし・・・。」
その言葉を聞いて、ゾロはますます渋い顔をした。
「人が良すぎるだろ。てめえは女に甘すぎる。」
そのゾロの言葉にサンジも眉間にくっきりと影を作って言い返す。
「女に甘くしねえで、誰に甘くするんだ、ああ?」
「性根から腐ってたら、顔に出るんだよ。いくら俺でもそれくらいの区別ぐらい
つくッてんだ。女を見る目に関して お前エにとやかく言われる筋合いはネエ。」
そこまで一気に捲くし立てると 大きく息を吸い込み、そして大きく吐き出した。
「どっちにしろ、あの子が俺達を呼び寄せたのが その「魔獣」とやらを
お前に倒してもらうのが目的みてえだから、もう少し、様子を見ようぜ。」
ゾロは溜息をつく。
焦っても仕方がないのは判っているが、自分に対して危害を与えず、
サンジを利用すると言う卑劣な手段を使う相手に対して
「可愛い子」だからなどと下らない、なんの説得力もない言葉で
事の次第を見極めているサンジに呆れた。
だが、その一見暢気そうに見えるけれども、だからこそ、冷静に物事を考えられる
サンジを信用している。
二人は土が剥き出しの床に腰を下ろした。
「・・・年の頃、17歳ってころか。」
サンジがボソり、と呟く。
「あんな特技があるんならその「魔獣」とやらも倒せそうなもんだ。」
サンジがあんな特技、と言ったのはさっき自分の体に強制的に突き付けられた
激痛の事だろう。
考えても、判らない事が多過ぎて推測出来る事など何もなかった。
ただ、ヒユの口振りと言葉遣いからして、「パパ」に少なからず、
愛情を持っていることが強く伺える。
「複雑な年頃だよな。あの頃は。」
ヒユの事を推測するために、ぼんやりと自分が17歳だった時の
姿と行動をサンジは思い出した。
誉めてもらいたくて。
努力して。
無視されて。
拗ねて。
ひねくれて。
そんな姿がヒユに重なる。
けれど、それをゾロに言うのは気恥ずかしかった。
まず、「また、バラティエのおっさんの話しか。」とまるで いつまでも親離れできない
子供を嘲笑うかのような顔で言われるだろう。
それに、例えば、相手がヒユのような少女でなく、
いかつい野郎だったら こんな事を考えず、なんとか 叩きのめす方法しか
考えなかっただろうに、
つい、可愛い少女だったから、どことなく淋しげな薫りが気になって
どうにか、本当の笑顔を見てみたいような、そんな気になった。
それをゾロに説明したところで、機嫌が悪くなるだけで事態の進展には
なんの役にも立たない。
だから、サンジはそれ以上何も言わなかった。
「お前が勝手にあの女に同情しようと俺は俺の好きにさせてもらうからな。」
何も言わなくても、ゾロはヒユを見て、何かを感じ、同情しているサンジの
心情を察して、それを暗に非難した。
「同情なんてしてやしないわよ。ねえ。サンジ。」
姿は見えないが、どこからか ヒユの声が聞こえた。
どうやら二人の会話はヒユには筒抜けらしい。
ゾロとサンジは周りを見渡した。
が、どこにもヒユの姿は見えない。
「パパと話しはしたのかい。」
それでもサンジは平然と、そこにヒユがいるかのように優しく話し掛ける。
「思ってることは素直に言えばいい。パパは君の言葉に必ず耳を傾けてくれるよ。」
「何も知らないくせに偉そうに説教しないでっ。」
少しヒステリックなヒユの声が響き、サンジはその声に反応するように胸を押さえた。
心臓だろうか。胸に激痛が走ったのだ。
だが、それでもサンジはいい募った。
「知らないから言えるんだよ。知らないから、知って、君の力になりたいんだ。」
「嘘つきっ。」
「・・・俺もそうだったから判るんだよ。」
ヒユの声がそのまま、心臓に突き立てられる様に胸が痛んだ。
息が出来ないほどの激痛にサンジの顔が歪む。
「どんなに頑張っても誉めてもらえねえ。あまりにガキくさくて、口にも出せない。」
「それで意地を張って、気がついたら深エ溝が出来ちまってた。そんな事があった。」
「どうしてわかるの?」
サンジの胸の痛みが薄くなった。
そして、ヒユの声も少し、静かになった。
「君が綺麗な顔をしてたからさ。愛されて育ったら女の子はみんな、綺麗になる。」
「綺麗な顔が淋しそうなのは、愛を疑ってるからだ。パパに愛されてないんだって。」
そう言うと、サンジは眠りに引き摺りこまれるように意識を失った。
「おいっ。」
壁に凭れ、いきなり意識をなくしたサンジをゾロは慌てて抱き起こし、揺さぶった。
「・・・うるさいから黙らせただけよ。私はロロノア・ゾロに用があるだけなのに。」
ヒユの声には 僅かに動揺が感じられた。
サンジの言葉は、少しはヒユの心を刺激したのかもしれない。
痛みにのた打ち回る姿を見せつけられるよりは、ただ、眠ったままの方が
はるかにまし、と言うものだ。
「あなたが言う事を聞かないなら、ずっと眠らせたままにするわよ。」
「眠らせたまま、殺す事だって出来るのよ。」
ゾロの腕の中でサンジが意識を失ったまま、呻き声を上げる。
額に脂汗が滲んでいた。
意識はないけれど、痛みを感じているのだ。
「・・・どうすればいい。言うとおりにしてやる。」
言いなりになるのは我慢ならない。けれど、サンジに苦痛を与えられるのは
もっと我慢ならないことだった。
歯軋りしたいほど悔しかったが、ゾロはヒユの命令を聞く事に決めた。
「簡単よ。今なら、「魔獣」は深手を負っている筈だから。」
クロイツを助けたルフィとナミ、
R−1を助けたウソップとチョッパーは、それぞれゴーイングメリー号へと戻った。
生みの親であるドクター・クロイツと名医トニー・トニーチョッパーの手当てで、
R−1は一命を取りとめる事が出来た。
「ドクター・クロイツを取り戻せたんだから目的は果たせたんじゃないの?」
意識を取り戻し、すぐに起き上がり どこか焦っている様子を見せたR−1に
ナミが尋ねる。
クロイツとR−1が顔を見合わせ、説明をどちらがするかを決め兼ねている様子が
見て取れた。
そして、クロイツが口を開く。
「麦わらの船長。本当にご迷惑をかけました。」とまず、ルフィに頭を深深と下げる。
「この島にあなた方をおびき寄せたのは、私が作った最後のクローン、H−20です。」
「エイチニーマル?クローン?」
全く 話しをしらないチョッパーがその言葉をクロイツに聞きかえした。
「H−20を止めないと・・・。ロロノア・ゾロの姿をしたクローンが大量に世の中に
出回ってしまうのです。殺人兵器として。」
クロイツはまず、R−1が何に焦っているかの理由を話した。
「だから、俺はこんなところでゆっくり寝てられねえんだ。」
R−1は顔を顰めながらでも起き上がった。
「おっさん。それとゾロっぽい奴。」
ルフィが焦れるように、声をかける。
「訳はどうでもいいや。」
「ゾロは一人でいい。だから、手を貸してやる。」
「だから、・・・・俺じゃわかんねえかもしれねえから、取りあえずナミに詳しい話しを
聞かせてやってくれ。俺は自分が悪イ奴と思った奴をぶっ飛ばすだけだから。」
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