ゾロが4人、そのうち三人はその肩の上に
白髪の老人、チョッパー、ウソップを担いでいる。

「ドクター!」とR−1が叫ぶのと、
ナミとルフィが船医と砲撃手の名を呼ぶのとが殆ど同時だった。


R−1が刀を抜いた。

「ちょっと、人質がいるのよ?」とナミが血相をかえてその行動を咎めるが、
「あいつらにゃ、そんな脳はネエ。戦うか、退くか、それしか出来ねえデクノボーどもだ。」と言うが早いか、

ゾロと寸分違わない動きで突っ込んで行く。

身軽な紫がまず、刀を引きぬいた。
ウソップを担いだ水色、チョッパーを担いだ黄色の腹巻を巻いているゾロが
それに応じるべく、二人を地面に投げ捨て、一斉に抜刀する。

老人を抱えたゾロだけが、踵を返して逃げ始めた。

「ルフィ、私達はあいつを追うのよ!」


全く、無関係な話しで、一ベリーにもならないのに
何時の間にか ナミもR−1に協力する気になっていた。
あまりにゾロに似すぎていて、ゾロを助ける気になってしまっているのかもしれない。

「おうっ!」とナミの声に元気良く応え、ルフィはゾロ・・・後で判ったのだが、
それはR−5、5人目のゾロのクローンの後を追った。


R−1は一斉に自分に向けて振り下ろされた3振りの刀を渾身の力で受けとめ、
弾き飛ばした。

が、彼らはすぐに体勢を整え、今度は時間差を作り、
間断なく R−1に襲いかかってくる。それを受け、弾き飛ばし、
追い討ちを掛けようとすれば、微妙にタイミングをずらした
次の攻撃が 予想もしない場所から、自分と同じ速さで急所を狙ってくる。

高い金属音と、空気を震わせるような闘気に、ウソップとチョッパーが
意識を呼覚まされた。

ゾロが、ゾロを相手に闘っている。

真っ赤な腹巻をしめた、三刀流のゾロが カラフルな腹巻を締めたゾロ、三人を相手に
刃を振るっていた。

なにがなんだか 良く判らないのだが、二人の目には赤い腹巻のゾロが本物に見えた。
そのゾロがやや、力負けし始めている。

縛り上げられているウソップの縄をチョッパーが食いちぎる。

動きまわる4人のゾロへ、ウソップの照準を合わせようとするどんぐり眼が
向けられる。

「ウソップ特製〜〜〜っ。タバスコ星っ。」

まず、1発目は水色の腹巻、R−3の顔面に見事に炸裂した。

タバスコが目に染みるのか、水色のゾロはうずくまった。
が、それには目もくれず紫の腹巻きのゾロは 刀を赤い腹巻のゾロへむけ、
距離のある位置で振り下ろす。
途端、その刀は柄から外れ、鎖に繋がれた刃となった。

チョッパーはそれを見て、とにかく 色の違う腹巻をした連中は
ゾロの匂いがするけれども、ゾロではないとはっきりと認識した。
が、戦闘力と言う点では、自分たちでどうにか出きる相手ではないことも確かだ。

「ウソップ、逃げようっ。あいつら、ゾロじゃないよ。」

もしも、3対1で闘っている赤い腹巻のゾロが本物なら
仲間を見捨てて逃げる事になる。
けれど、彼らが一体どう言う事情がさっぱりわからないけれど
全て偽物であるなら、自分たちには全く関係のないことだ。
とばっちりを受けて、しなくてもいい怪我をするのは
ご免だ、とチョッパーは思った。

だが、ウソップは違った。

「ゾロじゃなくても、俺達を助けようとしてくれてるのに、俺達だけ逃げるわけにはいかねえだろっ。」と
チョッパーに
・ ・・・怒鳴るつもりだったのだが、目の前のゾロ対ゾロの闘いの凄まじさを見、
声が震えるのを止められないまま、言葉を返してきた。

赤い腹巻のゾロ以外は、その神経はすべて闘いに集中している。
逃げるなら今しかない。
けれど、ガンとして動こうとしないウソップを見捨てて逃げるわけにも行かず、
チョッパーも その隣でうずくまって事の次第を見守るしかなかった。

「・・・手助けは出来なくても、逃げるチャンスを与えることくらいは出来るぞ。」
ウソップはポケットから新しい玉を取り出した。

赤い腹巻のゾロはすでに 両腕の付け根に傷を負って、肩で息をし始めている。
一方、無表情のままのゾロ軍団は ぞっとするような静けさで
赤い腹巻のゾロの隙をうかがっていた。

「おおい、赤いゾロ!」

ウソップが赤腹巻のゾロに声をかける。
R−1は 前方の三人のゾロ達を牽制しながら振り向いた。

「キャプテンウソップの煙星っ。!」

何時の間にか、ウソップ達を背にして闘っていた事に気が付いた、
その時、R−1の頬を掠めて、ウソップの煙星が飛んで行った。

と、同時にチョッパーはランブルボールを口に放りこみ、
「脚力強化」に変形し、素早く、赤いゾロの服を咥え、引っ張った。

すぐに二人の意図を察したのか、赤い腹巻のゾロはチョッパーに引っ張られた方向へ
体をむけ、走り出す。
三人は煙りに紛れ、なんとかその場を切りぬけた。

しばらく走りつづけ、後を振り返り、彼らが追ってこないことをウソップが確認する。

赤い腹巻のゾロは酷く息が乱れていた。
ただ、走った所為ばかりではなさそうで、チョッパーは走る速度を緩めた。
聞きたいことは、まず。

「おまえ、一体なんだ。」

「俺は・・・。ア・・・ル」

詳しい説明をしなければならないと思っていたけれど、
戦闘に関して、勝てばどんな手段でも使うように プログラムされている
R−2以下のクローンと闘って、どうやらその武器には毒がしこまれていたらしく、
R−1の意識は混濁した。
自分がここで気を失ってしまったら 彼らも困惑するだけだろうし、
何より、自分の生みの親のクロイツを助け出すと言う目的が果たせない。
だが、思いの他深手を負ってしまった。

「おい、しっかりしろっ。」

名医と噂に高い、"人間トナカイ"の声が聞こえるが、目の前が真っ暗になり、
やがてその声もR−1の意識の中に届かなくなった。


「待て〜〜〜っ。」
ルフィとナミは 老人を肩に担ぎ上げて逃げて行くゾロを追う。
が、待て、と言われて待つやつはいないのだ。

ある程度の距離が縮む。

「ルフィ。そろそろ届きそうだわよ。でも、厄介だからクロイツって人を
助けたらとっとと逃げるわよ。いいわね。」とナミが得意の天候棒を取りだした。

「あたしが合図したら今来た、方向へ逃げるのよ。いいわね。」
「判った!」

ルフィは走りながら どんどん R−5との距離を縮める。
「ゴムゴムの〜〜〜っ。」
「引ったくりイ〜〜〜〜〜〜〜っ。」

ドクター・クロイツ、とR−1が呼んでいた老人の服をルフィは
鷲掴みにする。そして、そのまま 凄まじい勢いで収縮し、見事に
ドクター・クロイツを奪還した。

その間、ナミは立ち止まってしきりに "冷気泡""熱気泡"を必死で作り出していた。
(良く考えたら、一ベリーだって得にならないのになにを必死にやってんのかしら)と
ふと気がついたが今更 止めるほどいい加減な性格でもない。

地面の下は鉄屑だ。
落雷すれば、自分たちだって無事ではすまない。
が、幸い、電気を通さない便利な素材が目の前にいる。

「ルフィ、風船になって!」
「おうっ。」

クロイツを抱え、大きく膨れ上がったルフィの体にナミは
なるべくバウンドしないように注意深く飛びついた。

そして、クロイツを取り返すために振りかえった、R−5の目の前に
閃光と激しい衝撃波が起こる。
地面の鉄屑の中を電気が駈け抜け、周りに耳をつんざく、轟音が響いた。

「・・・君らは・・・。本物の麦わらのルフィ・・・?」
鉄屑の坂道を弾むように駈けて行くルフィの背中に掴まって
クロイツは初めて口を開いた。


「どうするつもりなんだよ。」と抵抗せず、拉致されてしまったことに気がついた
ゾロはサンジを責めるような口調で詰め寄る。

「別に。なんにも考えてねえよ。」とサンジは暢気に応える。

ゾロは顔を顰め、
「お前、あんな目に会わせられて、まだ あんなクソ女の肩を持つつもりじゃねえだろうな。」と問うと、
サンジは涼しい顔で煙草に火を付けながら
「持っちゃ悪イか。」とまた、どこか 物事を傍観しているかのような口振りで答えた。

「あんな可愛い子がなんの理由もなく、男を拷問にかけるような真似、するはずがねえ。」
「その訳さえ、取り除いてやりゃ、お前の手を煩わせねえですむかも知れネエし・・・。」

その言葉を聞いて、ゾロはますます渋い顔をした。
「人が良すぎるだろ。てめえは女に甘すぎる。」

そのゾロの言葉にサンジも眉間にくっきりと影を作って言い返す。
「女に甘くしねえで、誰に甘くするんだ、ああ?」
「性根から腐ってたら、顔に出るんだよ。いくら俺でもそれくらいの区別はつくッてんだ。
女を見る目に関して お前エにとやかく言われる筋合いはネエ。」

そこまで一気に捲くし立てると 大きく息を吸い込み、そして大きく吐き出した。

「どっちにしろ、あの子が俺達を呼び寄せたのが その「魔獣」とやらを
お前に倒してもらうのが目的みてえだから、もう少し、様子を見ようぜ。」


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