軍事機密。
それさえ手にいれたら、隣国に抜きん出る事が出きる。
戦争に発展しなくても、それを脅威として振りかざせば
弱小国を隷属させて、強大な国力をつけることが出きる。
そんな目論みをし、お互いしのぎを削っていた、
二つの国があった。
愛しい妻と愛しい娘をなくした、気の狂った男は、
肉体の再生をひたすら研究した。
髪の毛、爪、本人の体の一部なら、たったそれだけでも全く同じ
肉体を作り出す技術を 狂うほどの熱意で完成させた。
けれど、その肉体には魂がない。
男はまた、狂ったように研究した。
人の心までもを再生する方法を。
その間、老いさらばえて行く己の肉体を新しい臓器とその都度交換し、
冬島にすむ、狂暴な女医に負けないほどの寿命を手に入れた。
だが、何度やっても、妻と娘の肉体はある一定の年齢を迎えると
遺伝病を発病し、死んでしまう。
彼が作った人工の肉体は、耐久性、瞬発力、再生能力、などにおいて
数段優れていた。
その技術に目をつけた 前出の二つの国は彼を奪い合った。
彼の目的は、妻と娘の再生だけで、自分を誰にも利用されたくない、その
意思は固かった。
結果、どちらの国からの誘いも退け、どちらの国からも不穏分子と目され、
命を狙われる事になってしまった。
どんなに優れた科学者であっても、武器を作る技術屋でもなければ、
戦う戦闘家でもない 脆弱な彼は、
自分自身と自分の研究を守るために、
「彼」のクローン、R−1を作った。
「彼」の細胞は、砂の王国から手に入れた。
「彼」の血のついた、包帯、ただ それだけで
「彼」についての情報を知るには 充分過ぎた。
おそらく、この地上で「彼」程の 戦うために鍛え上げられた肉体を持つ
生身の人間はいないと考え、Dr・クロイツは、
「ロロノア・ゾロ」のクローン、第一号として、「R―1」を誕生させた。
「俺を動かすのに このクソコックが必要だって?」
ゾロは不敵に笑みを浮かべた。
「どう言う意味だ、そりゃ。」とヒワ、と名乗ったその少女を
嘲るような口調で その言葉の意味を冗談めかして尋ねてみる。
「あなたにとって、何より必要な人間だと。」と歯切れの良い言葉で
言い、ゾロを真っ直ぐに見た。
「だから、どうした。こいつに頼まれたからって、お前の用心棒なんぞ、
やらねえぞ。俺は。」
そう言うと、ヒワは肩を小さく揺らして笑った。
「そうね。」
「おい。」サンジが二人の話に割って入る。
「父親に狙われてるんだぞ。余程の訳があるに決まってる。まず、
それくらい聞いてもいいじゃねえか。」
そのサンジの言葉をヒワは笑って遮った。
「知らなくてもいいのよ。知る必要もない。貴方は私を守らざるを得なくなるの。」
その少女らしからぬ、落ち着き払った態度にさすがのサンジも
ヒワに対して 少し、薄気味悪さを感じた。
その途端、脳味噌がいきなり沸き立ったような 恐ろしい感覚に囚われた。
「っうあっ・・・・?っ・・・。」
次の瞬間には、背中に熱湯をぶっ掛けられたような痛みが走った。
堪え切れず、サンジは体を折り曲げ、顔を歪めてヒユを見た。
「すごいわ。これだけの痛覚を刺激して、まだ、立っていられるなんて。」
笑いながらサンジを見つめるヒユは指1本動かしていない。
「てめえっ何をっ」ゾロが刀に手をかけた。
刹那、サンジの喉から はじめて聞く、苦悶の声が上がり、
地面に体を伏せ、痛みに耐えるように体を戦慄かせた。
「私を守って。そうすれば、サンジを苦しませなくてすむのよ。」
ヒユの微笑だけを見れば、穢れのない、純真な少女のそれなのに、
口から出る言葉とその残忍な行動が 却ってヒユの冷酷さを
際立たせていた。
「R−1」の性能は申し分なかった。
Dr・クロイツは、遺伝子からその人間の情報を入手する方法さえ
知っていて、「R−1」は、限りなく「ロロノア・ゾロ」だった。
義理堅く、産みの親である、クロイツに忠誠を誓い、
そして、不器用ながら 優しく、ゾロの全てを模した、
もう一人のロロノア・ゾロと言ってもいいほどだった。
クロイツは、ある時を境に 妻と娘との生活をとうとう諦めた。
なんど作り直しても、妻と娘はクロイツを残して、死んでしまう。
何度も哀しみに打ちひしがれるたび、クロイツは
もう、二度とクローンは作らないと決心した。
最後のクローンは、決して愛すまい。
多分、余命幾ばくもない 自分の知識を後世に残す、その語り部としての
存在になればいい。そんな考えで、「R−1」を作った後、
「H−20」を作った。
娘の心のデータと、妻の心のデータは入れなかった。
ただ、助手として差し障りのない、従順な、柔軟な、思考の持ち主であるように
設定したつもりだった。
「お前、一体なんだ。」
ゾロにしか見えない、その赤腹巻の男にルフィは聞いた。
「R−1だ。」とその男は ゾロと寸分違わない声音で、口調で答える。
「アールワン?」ナミがその言葉を鸚鵡返しに聞きかえす。
「ロロノア・ゾロのクローン1号だ。」
その言葉にルフィが目を丸くする。
「クローン?クローンてなんだ。」
「そこから説明するのは面倒だ。」と赤腹巻のゾロ、R−1は
困惑した表情を浮かべて ナミに視線を投げて寄越した。
「クローン一号って、他にもいるの?!」とナミは驚いた声を上げた。
そんな技術があったとは、夢物語で現実には有り得ないと思っていた。
「いる。が、俺みたいなリアルタイプじゃない。ただのロボットみたいな連中だ。」
「ゾロが一杯、いるんだな?」
ナミは一向にクローンについて教えてくれないし、R−1も教えてくれないが、
ルフィはどうにか二人の会話に付いて行こうと必死だ。
「まあ、そうだが、後のやつらは俺の産みの親が作った訳じゃねえから、
「何人いるか、わからねえ。」
ナミはその言葉に即座に反応し、
「こんな事が出来る人間が他にもいるの?貴方の産みの親って?」
「なんの目的でゾロのクローンなんかを作ったの?」と矢継ぎ早に質問を
浴びせる。
「俺の産みの親は、クロイツって言う、人のいい、今は畑仕事が趣味の爺さんだ。」
「それから、R−2、以下何人いるか知らねえが、クズクローンどもは
「H―20っていう クローンが作ったんだ。」
R−1は、ゆっくりと一つづつ、ナミの質問に答えはじめる。
「こんな事されて、なんでお前を守らなきゃならねえんだ。」
地面に転がったまま、呻き声を上げつづけるサンジを助け起こしながら、
ゾロは 男でも竦みあがるような目でヒユを睨みつけた。
「サンジを狂わせたくなかったら、私を守って。パパが私を殺す為に
仕向けてくる、魔獣から。」
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