「あんた、変な色の腹巻持ってるのね。趣味悪いわ。」

その「テツクズ島」は思いの他広く、ルフィ組もナミ組も
島全体を探索する事は出来なかった。
せっかく 海図にものっていない島を発見したのだから、
ナミもルフィもこの島に付いて 色々調べたくなったらしい。

すぐに碇を上げようとは言わず、その夜は波の静かな入り江を見つけて
そこに停泊する。

夕食時、全員がキッチンに顔をそろえたが、外出したメンバーの冷たい目線が
ゾロに注がれる。

「ゾロ、感じ悪いぞ。なんで俺達が声をかけたのに、無視して行っちゃったんだ?」とナナミもチョッパーも
ゾロに向かって 露骨なほどに不快そうな声で
ゾロが全く身に覚えのない事を口にした。

「どこでだ。俺は今日、一回も船を降りてねえぞ。」と
冷たい視線に対して憮然と言い返す。

「嘘。あんなところで 何を気合いれて突っ立ってたのよ」とナミは食い下がる。
サンジは食事の支度をしていて、皆には背を向けていた。

「おい、クソコック、お前なんとか言え。俺は船から降りてねえだろ。」と
その背中に援護を求めて声をかけた。

だが、サンジは振り向かない。
ゾロが船から降りなかった事は立証できる。

ナミ達が帰ってくるギリギリまで、甲板で、誰もいないことをいい事に。
結構、大胆な事をしていたので、振り向けば 顔が赤らんでいる事を
ナミに見られる。だから、振り向かないで、作業する手を休めることなく、

「いましたよ。」とだけ 答えた。

「サンジ君がゾロの味方をするなんて珍しいわね。」と言いながら
サンジがゾロを庇うなどということは絶対に考えられない。

「俺も見たぞ、変な色の腹巻してて、声をかけたら睨んだ。」と
ルフィも言う。

場所も時間も、ナミ達の話しと合わせてみれば全く つじつまが合わない。

「分身の術でも使ったか。剣士から忍者に転向しろ、てめえ。」と
サンジは料理が盛りつけられた皿をまずは
ナミの前から運びながら ゾロに悪態をつく。

「そんな事が出来るのか、ゾロ!」とルフィの目が輝く。
「出来るわけねえだろ!」と即座にゾロが言い返す。

「ルフィ、あんたの見たゾロ、何色の腹巻してた?」とナミは
料理を一口口に入れて飲み下してから ルフィに尋ねた。

「水色。」とウソップが口一杯に料理をほお張って答えられなくなった
ルフィに替わって答える。

「水色オ?また、随分シャープなハラマキだな、おい。」とサンジが
立ったまま、食事を口に運び、ウソップの言葉にチャチャを入れる。

「俺達が見たゾロは、黄色の腹巻だった。」

「黄色だア?」と聞いた途端、サンジは大笑いした。
「そりゃ、随分サイケなゾロだな。俺もお目にかかりてえもんだ。」

「本当なのよ、サンジ君。」
さすがにナミの言葉を笑い飛ばさなかったけれど、
「世の中には3人、そっくりな人がいるんですよ。それがたまたま、この島の
廃品業者の双子だったんじゃないですか?」と
なんの根拠もないあてずっぽうな事を言う。

その間、ゾロは黙々と食事をしていた。
頭の中で、以前サンジを落とし入れた能力者の事を思い出していた。
あのゼフに化けた男と同じ能力の男、
或いは 「ボンちゃん」かも知れねえ、と思った。

「ボンちゃんだよ、きっと。」とルフィは食事を終えてから
ようやく まともに喋り出した。

「そうだな。ボンちゃんなら水色も黄色も納得できるな。」とウソップも
その意見に同意する。

「ボンちゃんなら、お前らが声をかけたら「おひしさぶり〜〜〜ん」とか言って
駆寄ってくる筈だろ。」とサンジは腕組みをしたまま
煙草を吹かして、その意見の矛盾を指摘した。

「そうよね。ボンちゃんだとしても、二人いることになるし、つじつまが合わないわ。」

結局、その夜はカラフルな腹巻を締めたゾロの謎は解けなかった。


「一体、なんなんだろうな。」
その夜、キッチンでサンジはゾロに冷たく冷した酒を用意して
自分もそれを傾けながら 夕食の時の不可思議な話しをゾロに振った。

余計な事を言って悪戯に不安にさせることはない。
ゾロは
「わからねえ。」とだけ答えて、喉ごしの涼やかなその酒を口に流し込む。

「お前が3人か・・・。一号ゾロ、二号ゾロ、三号ゾロってとこか。」と
サンジは可笑しそうに言って頬杖をついた。

「気味悪イと思わねえのかよ。」とゾロは渋い顔をする。
酔っているのかもしれない、と少し 前のめりになって
サンジの顔を覗きこむ。

「別に。」とサンジは淡々とした口調で答えて、酒を口に含んだ。

「気になるなら、付合うぜ。明日は俺達がそのお洒落なロロノアを探すんだ。」と
面白そうに、そう言った表情はまるで
明日、どこか楽しい所へ連れて行って貰うことを楽しみにしている子供のような
眼差しだった。

その表情を見ていると、ゾロの心にかかっていた、桐のような
不安が薄れた。


けれど、完全に拭い去ることはなかった。

何度も死線をくぐって来た ゾロの常人のそれとは比較にならない
身の危険を感じる感覚が 近い未来に自分たちに振りかかる
災難の到来をゾロに小さな声で伝えていた。


次の日はサンジとゾロがその島の探索に出掛ける。
ルフィとナミも別方向から探索する事になり、
チョッパーとウソップが船に残る事になった。


「ロロノア・ゾロの集団に出くわしたら、ちょっと笑えるよな。」と
サンジは相変らず 暢気なことを言っている。

「それぞれが色んな色の腹巻をしてるんだ。ピンクとか、オレンジ色とかな。」
「俺の集団か。出会ったら、笑ってられねえぞ、お前。」

と、ゾロは横に並んで歩くサンジの顔を見て、意味深に笑う。

「全部、俺だぞ。」と言うと、サンジは
「ああ、全部お前だろ。けど、全員で俺を組みしくなんて」
「本当に、全部がお前なら出来ねえだろ。」と勝ち誇ったような顔で答えた。

ゾロは舌打する。

その通りだ。
それを判っているサンジが小憎らしい。

「どうだかな。」と悔し紛れに答えると、さも可笑しそうに
サンジは 珍しく声を上げて笑った。


いけども、いけども、歩きにくい鉄屑だらけだ。
2時間ほど歩いた頃だった。

少しづつ、勾配になっていた鉄屑の山を二人は登る。

「なんか、動物の声が聞こえるぜ。」とサンジがその山を登っている途中に
気が付き、二人はその声の方へと進んで行った。

武器らしきもの、いや 武器だったらしき鉄屑がやけに目立つ場所で、
カバが悶えている。
どうやら、足を瓦礫に挟まれ、身動きが取れなくなったらしく、
鋭利な刃物のようになっていた鉄屑が
動けば動くほど 柔らかい肉に食い込んで 痛さに悲鳴をあげている。

「帽子被ってるぞ、あのカバ。」とサンジは指差した。
野性のカバではない、と言いたいのだろう。

「とにかく、退かしてやろうぜ。飼い主のところにでも戻るかも知れねえ。」と
サンジはポケットに手を突っ込んだまま そのカバに近づいて行く。

見知らぬ人間の気配を感じて、カバは振りかえった。
歯をむき出して、サンジとゾロに向かって威嚇の声を上げる。

が、カバのような愚鈍な動物がいくら凄んだところで眉毛1本動かす二人ではない。

「ここは、お前の方が適任だろ。」
「ああ。」

サンジがカバの後ろ足を挟んでいるかなりの重さの鉄屑を
一蹴りで弾き飛ばし、カバを自由にしてやるのに2秒もかからなかった。


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