そんな事で興奮してる場合じゃない、だの、
さっさと食器を持って帰れだの、喚いていたようだが、一向に気にしなかった。

髪の色が違うだけで、服装がらしくないだけで、妙に緊張し、
ゾロはサンジを直視出来なかった。

「お前、よく辿りつけたなあ、」と呼びつけて置いて、そんな言い草をされ、
カチンとは来たが、それでもなんだか初々しいようなサンジを見て、

言い返す言葉がイチイチどもった。

「俺のメモを預けた男はどうした。」とか、細かい事を聞かれたが、
何も考えずに「とりあえず、とっ捕まえておいた」と
数々の質問に答えるのも面倒だった。

折角、ここには、狭く粗末ながらも風呂もあれば、寝床もある。

同意は後で取り付けるとして、ゾロはベッドに腰掛けて自分を見上げつつ
話しをしていたサンジの口から煙草を抜き取った。

「話しは済んだか。」と聞きながら、もつれ合うようにベッドにサンジを押し倒す。
「なにしやがる、ボケ!そんな事ヤってる場合じゃねえだろうが!」と
口付けする直前まで耳にガンガン響く程の大声で喚いたが、ゾロは構わず、

「俺をこんなとこへ呼んだお前エが悪イ。」と言うや、
唇を押しつけるようにして黙らせた。

いつものスラックスならベルトを外すのに手間がかかる。
だが、今日はラフな格好が幸いして、ズボンから直でいきなり下着の中へ
手を突っ込めた。

いきなり押し倒し、まだ、キスも途中なのだから、
ゾロの掌に握りこんだサンジのそこは油断しきって湿りもせずに柔らかい。

(この野郎、)とそれの柔らかさにゾロは少し腹が立った。
(こっちはてめえの面見ただけでやる気マンマンだったのに)、と
サンジの方が全く性的興奮をしていなかった事に何故か、
甘く、子供が拗ねたような敗北感を感じて腹が立ったのだ。

だが、ゾロが何度か握ったり、扱いたりするとすぐにそれは見る見るうちに
硬度と体積が増し、合わせたままの唇からは苦しげに喘ぐ息が漏れてくる。

(ざまあみやがれ、)と同じ立場に追い込んだ事に満足して、ゾロは唇を解放してやる。
途端に、「ハ・・ア、」と甘美な吐息をサンジは零した。

「別に最後までヤらねえ、赤い髪のお前がどんな面してイクか見たいだけだ。」と
心地良い柔らかさの耳を甘く、舌先で湿らせながらゾロは囁いた。
自分でもゾクゾクするほど、息が荒くなっていく。

「いつもと一緒だ、変態」とサンジは切れ切れに悪態をつく、
その癖、腕はしっかりとゾロの背中に回されていた。

「嘘吐きが。」ゾロが上着はそのままで、下の着衣を全部剥ぎ取った後、
サンジは少し汗ばんだ顔に笑みを滲ませてゾロを見上げる。

「俺を嘘吐きにしてえのはお前エじゃねえのか。」とゾロはサンジのシャツの上から、
胸の敏感な個所を弄くり、もう一方の手でサンジを追い上げながら、
言うと、サンジの手もゾロのズボンの中に突っ込まれて来た。

先端を軽く引っかかれ、まだ、ゾロに愛撫するだけの余裕がサンジにあると
判った途端、また、腹が立って来る。

「ヘタクソの癖に、手を出すんじゃねえ。」と言いつつも、本当はサンジの繊細で、
柔らかな愛撫に頭の天辺まで蕩けるような熱が走って力が抜ける。

「その割りに、」ガチンガチンでドクドクいってんじゃねえか。

ゾロのそこが信じられないほど熱く、固くなっていくのを
掌に感じて、自分の熱がゾロを興奮させる事に歓びながらサンジは
そんなゾロを甘えるように罵倒するつもりの悪口を言いかけたが、
言葉に出来なかった。

対抗する様にゾロの手の動きが乱暴に、強くサンジを扱き、
言葉を吐く筈の舌を絡めとってしまったからだ。

「・・・はっ。」赤黒い髪が白いシーツに広がり、強過ぎる愛撫を拒否する様に
サンジは激しく頭を振る。安い染料なのか、シーツに汗で溶け出す色が滲んで
まるで、血を拭き取ったような沁みが飛び散った。

「お前はやっぱりあの色が似合う。」
「あの色がいい。」

サンジの中に入って、激しく、深く抱き締めていたら、
心に涌き出た感情が自然に言葉がゾロの口から溢れてくる。

口付ける為に首を支えた自分の手に、赤黒い染料が流れ落ちる。
サンジの頭が血まみれになっているような錯覚を覚え、そこから眼を逸らすように
ゾロは眼を閉じた。


「余計な体力使わせるんじゃねえよ。」とサンジは服を身に纏いながら
ゾロに悪態をつく。

「心外だな。」とゾロも同じ様に服を羽織りつつ、
「充電してやったってのに。」とサンジをからかうような笑みを満面に浮かべた。

さっき、掌を流れた赤黒い色の雫の映像がゾロの心に翳を投げかける。
だから、自分でも違和感を感じるほど、ゾロはわざと明るく振舞っていた。

「言っとくが。」

サンジはゾロと一緒にいるところを決して誰にも見られてはならないから、
先に部屋を出る。ドアを開き、背中を一旦はゾロに向けたが、
急に振りかえり、煙草を摘んだ指先でゾロをしっかりと指差した。

「俺ア、ルフィだけの為にやってんじゃねえぞ、こんな面倒な事。」

それだけ言うと、ゾロが何も答えないうちに乱暴にドアを後ろ手に閉めて
出て行った。

その頃、ナミ、ロビン、ウソップは、メディスンに捕えられ、
アデルのいる地下牢の、真下の地下牢に放りこまれていた。

「あの、シュライヤって男、」さすがに海賊処刑人って言われてた男だわ、と
ロビンが首に嵌められた輪を指先で擦りながら苦笑いする。

「私が能力者だと知ってて、それなりの装備を備えて来たんだもの。」
「きっと、標的にした賞金首の弱点を調べ上げてから、狩りをしていたのね。」

それを聞いて、ナミが金切り声を出す。
「感心してる場合じゃないわよ、もう、何日経ってるのよ!」
「なんで、助けに来てくれない訳?」

ウソップはナミのストレスの発散の相手にされるのにほとほと疲れている様で、
「俺に聞かれても判るわけねえだろ?」と力なく答える。

「航海士さん、」とロビンはナミを宥めるように、微笑んで、
「きっと下調べをしているのよ。私達が安全に、無傷でここから助け出せる様にね。」

それを聞いて、ナミは口をへの字に曲げた。
「判ってるわよ、それくらい。」
「でも、あいつの能力の事、なんとか教えなきゃ、」
「勘違いしたまま、あいつと戦ったら」ナミは自分の言いかけた言葉の不吉さに
思わずその言葉を飲みこんだ。

あいつと戦ったら、(絶対に命を落とす、)それがナミの飲みこんだ言葉だった。


(なんとか、汗を手に入れないと)サンジはその方法を考え、
そして、寝汗を採取しよう、と考えついた。

メディスンの寝ている部屋を探り出し、夜が更けるのを待つ。

体液が毒の男にどこまで通用するか判らなかったが、サンジは、
メディスンが口にする食事に、発刊作用のあるハーブを混ぜた。

食事の時間を狙って、メディスンの館の灯りを全て消すように細工する。
そうなると、簡単にその食事にハーブを混ぜ込む事が出来、
後は、メディスンがぐっすりと眠るまでじっと待っていれば良い、と言う算段を整えた。

(これがダメなら、別の方法を考えなきゃならねえな。)
発汗作用を引き起こす、と言うのも薬効と言えば薬効だ。
全身が毒だというのなら、薬など普通の人間と同じ様な効果が期待出来ると限らない。
サンジは次の策を思案しつつ、じっと、夜が更けるのを、
メディスンが熟睡するのを待つ。

自分を襲ってきた人間に、自分の体を傷つけられる事を怖れないメディスンは
案外、自分の身の回りの警戒が薄かった。

屋敷の中がシンと静まり返り、静寂過ぎる空間に闇の魔力が潜んでいるような
寒々とした暗闇の中、サンジは、物音を一つ立てずにメディスンの部屋に忍び込む。

足音を忍ばせ、気配を殺し、メディスンの寝台の側に近付きつつ、
その部屋の異様な風景に眉を寄せた。

金に飽かして買い漁ったのだろうか。
全く無秩序に高価な調度品が雑然と置かれている。

(部屋の中になんで、あんなモンがあるんだ?)とサンジは異様な家具を目にして
首を捻った。

同じ室内に豪華なバスタブがあり、そこには水が張られたままだった。
(起きたらすぐに風呂に入れるって事か?)と思ったが、
別にそう深い興味がある訳ではない。

とにかく、汗を採取して、その後はまだ、血を採取しなければならない。
怪しまれずにそっと汗だけを採取する為にサンジは寝台の上で鼾をかいている
メディスンに近付いた.

(よし)とその、長い顔の広い額にびっしりと玉のような汗をかいているのを見て、
思わず笑みが零れた。

これだけやかましい鼾をかいているなら、眠りは深い筈だ。
そう思って、息を殺し、綿を指先で摘んで、数滴、吸い取ろうとした。
その時。

「やっと、しっぽを出したな、ドブネズミ」

低く、威嚇するようなメディスンの声にサンジはギョっとなる。
閉じられていた瞳がカっと見開かれ、同時にサンジの髪を巨大な手で鷲掴みにし、
そのまま、髪を握りこんだまま、つるし上げた。

全く警戒していなかったメディスンの動きの早さと力の強さにサンジは冷静さを
根こそぎ奪われる。

金のバスタブの中へ、メディスンは赤黒い髪の男の頭を
大きな水音が上がるほどの勢いで突っ込んだ。

その水がみるみるうちにどす黒い赤に変わって行く。

頭を力任せに押えつけられ、サンジは足をばたつかせて抵抗するも、
うつ伏せに水中へ押し付けられては蹴り技が出せない.

バスタブが陶器なら蹴り割れるだろうが、金属では凹ませるだけが
精一杯だ。

(ゴボッ)
余りの苦しさに胸の中の空気が口から溢れた。

自分の頭を押え付けるやたらデカイ手の手首に必死で爪を突き立てた。
血が毒だ、などとその時は完全に忘れていた。

限界が近付き、意識が遠のきかけたら、いきなり髪を引っつかんで、
バスタブから引きずり出された.

収縮していた気管が一気に空気を吸い込み、サンジは咳き込む.
その咳が止まらない間に、胸倉を掴まれ、また、メディスンの鼻先まで
吊るし上げられた。

「貴様は。」とメディスンがビショヌレの男の顔をにらみつけ、
「コックのサンジだろう。」と尋問する。

赤黒かった髪は水で洗われ、ところどころに金髪が見え隠れし、
サングラスで隠されていた瞳は薄暗がりでも鮮やかな蒼だった。

「案外、姑息な手を使うじゃねえか、麦わらも.」とてっきり、
ルフィがサンジを使って暗殺を企てたと思ったメディスンは皮肉一杯の顔付きで
サンジの首元を締め上げる。


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