第3話(情熱の相手)
引き破った塊の中から出てきた、情熱的な相手を見てサンジは腰を抜かした。
「よお。」
それは、聞きなれた低い声でなれなれしく声をかけてきた。
「あ・・・・な・・なんで・・?」
見慣れた緑の髪。無骨な筋肉。皮肉な笑いを浮かべた顔。
「気ニイッタカ?」
「冗談じゃねえぞ!!!」
サンジは、これ以上出ないであろう、大音響で怒鳴った。
「俺が満足する相手が、選りに選ってなんでエロゴリラなんだよ!!」
「オマエノ頭ノ中ノ性行為ノ情報ハコレシカナカッタ。」
「ふざけんなあ!!!」
「やってられっか、詐欺じゃねえか!!」
この生物にしてみれば、ここでサンジを逃がせばタマゴが孵った時の
栄養分が手に入らず、子孫を残す事が出来なくなるのだ。
だから、この「情熱の相手」を介して、サンジの体に卵を産み付けなければならない。
逃がすわけには行かない。
当のサンジは、その生物が自分に恐ろしい目論見があることなど、露知らず、
怒りに任せて、もう もと来た道を荒い足取りで戻ろうとしている。
「待テ、逃ゲルナ!!」
地面から、次々と例の色っぽい塊が現われて、その中からやはり次々と
いつもサンジを組み敷いている「情熱の相手」が飛び出てきた。
「げげ!!」
サンジは、脱兎の如く逃げ出した。
自分の頭の中の情報が生み出した「情熱の相手」なら、その腕力も
自分が認識しているものの筈だ。
一人でも、到底敵わないのにこの人数を相手に出来る訳がない。
この森の中の地形など、サンジが知っているわけがない。
「情熱の相手」達は最短距離でサンジに迫ってくる。
ゾロ、ゾロ、ゾロ、あっちの枝にゾロ、こっちの木立の下にゾロ、後ろにもゾロ、
前にもゾロ、サンジは頭がくらくらした。
「おい。」「おい。」「おい。」「おい。」
それぞれのゾロが全く同じ言葉を吐きながら迫ってくる。
「ああ、もう気が狂いそうだ!!」
必死で逃げた。
これほど、真剣に走ったのははじめてじゃないか、と思うほどだが、
気持が先走っている割りに思ったようにスピードに乗らない。
掴まったら、きっと全部の相手をさせられる!!
冗談じゃねえぞ!!いくら俺でも、ぶっ壊れっちまうっつうんだよ!!
本当は、ぶっ壊れるどころか、その体を中から食われるのだから命がかかっている。
しかし、当のサンジはそんな事は露にも知らない。
「待てよ。」「待てよ。」「待てよ。」
その頃。
(昨夜はちょっと、やりすぎたか。)
甲板で昼寝をしながら、(情熱の相手)のオリジナルがそんな事をぼんやり考えていた。
確かにサンジには恥ずかしい格好だったけれど、自分はものすごく興奮した。
(また、やらせてくれねえかな、あれ。)
そんな事を考えていると、また押し倒したくなってきた。
だが、昨夜と同じ事をしようとしたら、かなり抵抗してくるだろう。
あまり無理を強いると、自分との関係に不満を持つかもしれない。
自分が感じる以上の快楽を与えてやっているつもりだし、
できるだけ刺激し過ぎないように、自分なりに気を使っているのも、
経験の少ない相手を労わっての事だ。
そうはいっても、たまにはやりたい放題したいときもある。
それが、昨夜の行為だった。
(そういえば、あいつ森に食いもん捕りにいったんだっけ。)
・・・・・迎えに行ってやったら、どんな顔するだろう。
自分が極度の方向音痴である事など、この際忘れた。
サンジの斜めになった機嫌を直すためでなく、迎えに来た自分に
向けられる表情を期待して、「情熱の相手」は立ちあがった。
第4話(思いこみの人格)
「情熱の相手」の集団は、サンジをどんどん追い詰めていく。
「やらせろ。」「やらせろ。」「やらせろ。」「やらせろ。」「やらせろ。」
「同じ事しか言えねーのか、てめーら!!」
サンジは、荒い息の中から毒づいた。
もう、かれこれ2時間は森の中をひたすら全力疾走している。
いくらサンジが人間離れしていても、さすがに足がもつれてきた。
が、速度を緩めるわけには行かない。
「うわ!!」
走る勢いに乗ったサンジの前に、いきなり「情熱の相手」の一人が飛び出してきた。
そのまま、体当たりをするように昏倒する。
そのまま抱きすくめられたと思ったら、
「俺がやる!!」
「俺がやる!!」
「俺がやる!!」
「俺がやる!!」
「俺がやる!!」
「俺がやる!!」
と次々とサンジにのしかかってきた。
「冗談じゃねえ!!放しやがれ!!」
必死で暴れたが、到底敵うものではない。
「ちょっと待て。」
「情熱の相手」の一人が妙に冷静な声で他のメンバーを止めた。
「穴は一つしかねえんだ。順番を決めようぜ。」
(・・・なんて、リアルなんだ。あいつなら言い兼ねねえ。)
昨夜の行為のせいで、サンジの頭の中の「情熱の相手」からコピーされた者達は、
もはや色情狂のごとく、それしか考えてない人格しか持たないようだった。
「じゃんけんなんて、生ぬるいんじゃねえか?」
「腕づくでケリつけようぜ。」
「上等だ。」
いちいち、言う言葉がいかにもそれらしい。
だからこそ、サンジはこの状況を打開する方法を閃かせた。
おし問答をする、「情熱の相手」達に微笑みかける。
「てめーらの中で、誰が一番強いんだよ?」
「一番強い奴から、咥えてやるよ。」
その言葉で「情熱の相手」達は大乱闘を始めた。
その隙を見て、サンジはまた全力疾走でそこから逃げ出した。
(馬鹿でよかったぜ、あいつら。)
サンジは自分も相当なものなのを棚に上げて、胸の中でせせら笑った。
そのまま、自分がつけてきたナイフの傷を頼りに一目散に森の外へ向かって
全力疾走する。
ふと、後ろが気になって一瞬だけサンジは後方に視線を走らせた。
「っ!!」
突然、サンジは分厚い筋肉の壁に激突した。
目の前にちかちかと星が飛んだが、すぐに体制を整えてぶつかった相手を
確認する。
緑の髪、緑の瞳、鋼鉄の筋肉。
「うぎゃああああ!!!」
「なんだ??!!!」
唐突に現われた上、完全に取り乱して絶叫するサンジにゾロも驚いた。
「なんだ、オマエ。何も獲ってねえじゃねえか。」
ゾロは腰を抜かしたサンジに向かって、暢気な声をかけた。
サンジの目が見開いて、ゾロの顔を凝視する。
「本物・・・・?」
「ああ?」
理解不能なサンジのつぶやきをゾロは聞き返した。
「こんなとこにいたのか。」いきなり、サンジの背後で声がした。
ゾロはその声のほうに視線を向けた。
そして、固まった。
しばらく、お互いの姿を眺め回して、同じように口を開く。
「「・・・なんの冗談だ。」」
(ハモッてんじゃねえよ。)
サンジの頭の中の、情報を整理するメモリーは既にパンク状態になっている。
「「おい、なんだ、これは。」」
鏡に映したように、表情も、声音も、何もかも、二人とも、ゾロだ。
冷静になって、かけられた言葉を分析すれば、どちらが本物のゾロか
分かるのだが、今のサンジその判断は出来なかった。
「訳わからねえ!!どっちが本物だ??どっちも偽物か??!!」
混乱する頭は、考えている事をそのまま言葉に変換させる。
「「そんな事もわからねえのか、オマエは。」」
「どっちも偽物だったら、どうすりゃいいんだよ!!」
サンジは必死で叫ぶように言った。
「「どっちかが、偽者に決まってるじゃねえか。」」
ゾロが言う言葉を、予測して喋っているのか、適当に作られたにしては
リアルな人格がそう言わせるのかわからないが、見事に自分の言いたい事を
言葉にするその偽者にゾロは少しだけ感心した。
が、今は取り乱しているサンジをどうにかしなければ。
(仕方ねえな。)
サンジが一番喜ぶ方法で、自分が本物だと知らせてやろうとゾロは考えた。
その考えが浮かんだ時、「情熱の相手」はすでにサンジを抱き寄せようとしていた。
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