第5話(新しい発見)


サンジを無理矢理、腕の中に閉じ込め、嫌がって大暴れしているのにも構うことなく、
強引に唇を重ねている。

(!!)
ゾロの額に蒼い筋が走る。
まさに、それをやろうとしていたところだったのだ。

(たたっ斬ってやる。)
腰に有るはずの刀がない。サンジを迎えに来ただけなので、船においてきてしまったのだ。

ゾロは殴りかかりたい衝動を押さえて、サンジの抵抗が徐々に治まっていく様子を黙ってみていた。

(何、感じてやがんだ、生意気に!!)
自分の愛撫以外の物に溶けていきそうなサンジが腹だたしい。


(・・・・こっちが本物なのか・・・?)
いつもと同じ、自分の敏感な部分を間違いなく、的確に愛撫するその「情熱の相手」に、
サンジは腰が砕けそうになりながら、少しだけ酔ってしまった。

「交代だ。」
憮然とした声でもう一人の「情熱の相手」がサンジを奪うように抱きしめている腕から
引き剥がした。

「・・・俺以外のやつで感じやがったな。許さねえ。」

「!?」
ゾロは低く、サンジの耳にそう甘く凄んだ。

それは、サンジがはじめて経験する接吻だった。
ゾロの舌がサンジを自らの口内へ誘いこむ。
その誘いに乗ってきたそれを、自分の口内から出る事を許さない。

「っ・・・・・・。っ・・。」
息苦しいのか、顎がどんどんのけぞっていくのを指で押さえる。

体ガ小さく震えてくる頃、ゾロはサンジを開放してやった。

「分かったか。どっちが本物か。」
「・・・・。ああ。よくわかった。」

ゾロはその言葉に薄く笑ってから、「情熱の相手」に向きなった。

「そう言う事だ。あきらめるんだな。」

「「「「「冗談じぇねえぞ」」」」」」」

気がつけば、乱闘後のボロボロの姿をした「情熱の相手」達が二人を取り囲んでいた。

ゾロは舌打ちする。

サンジは固まる。

「逃げるぞ。」

ゾロは固まってしまったサンジの手を掴んで、逃げ出した。
「「「「まて!!!」」」」」

走りながら、ゾロはどうやってこの事態を収拾するか、考えた。

サンジが、何かにつまずいた。
そのせいで二人とも転倒する。

「何やってんだ!!」思わず、声を荒げてサンジを助け起こす。
「わ、悪い・・・。」

サンジのポケットからナイフが零れ落ちてきた。

ゾロは地面に落ちたそれを拾い上げた。

「・・・いいもん持ってんじゃねえか。」
ゾロはそのナイフで適当な枝を切り払って、即席の木刀を作った。

「・・・貸しだぞ。」
「わかった。」

茂みがざわめく。

なかなか捕獲できないサンジに、よほど業を煮やしたのだろう。
「情熱の恋人」達の形相が切羽詰ってきている。

二人にいっせいに飛びかかってきた。


素手の相手に木刀を振るうのだから、その勝敗は明らかだ。
一人、一撃で確実に地面にたたきつけていく。


「一体、なんの目的でこいつを追いかけ回してんだ。」
全てが片付くのに時間はかからなかった。

自分の足元に転がって動かなくなった「情熱の相手」は、その形をどんどん崩していく。

自分の姿が腐って崩れていく様子を見るのは気味が悪い。
ゾロはサンジを急かして、その場から離れた。

「待テ、逃ガサン!!」二人の頭の中に声が響いた。

第6話(言い訳)

ゾロがうざったそうな声でその声に驚くことなく、答えた。
「なんだよ、何がしてえんだよ。」

「私ノ卵ヲ潰シテ只デ済ムト思ウナ!!」

「情熱の相手」達は、サンジの体に卵を産み付ける器官だったらしい。

それごと叩き潰したのだから、卵も無事ではないに決まっている。

「止めとけよ。」ゾロは冷静に受け答えを続ける。
「あんまりひつこいと俺も切れるぜ。」
ゾロがそう凄んだ。


威圧的な態度のまま、ゾロは喋りつづける。
「次の繁殖の時、頑張れよ。」
「オマエ、なかなか情熱的だしな。」

「ソ、ソウカ?」

「オマエだって、利口な子孫残す方がいいだろうが。」

「ソノ通リダ。」

「生まれてはじめて食うもんが、稀代の馬鹿じゃあ腹壊すのがオチだ。」
「こいつなんか、食ってみろ。馬鹿が伝染るぞ。」

「馬鹿ガ伝染ル?」
「ああ、そりゃもう、恐ろしいほどだ。」

「止めといて正解だぜ。」
「ソウカ。・・・・残念ダガ、仕方ナイ。優秀ナ子孫コソ必要ナノダ。馬鹿ヲ伝染サレルノハ、迷惑ダ。」

「おまえ、頭いいじゃねえか。」ゾロが思わず本音を漏らした。

「勿論ダ。」
「ま、オマエも馬鹿な人間か、利口な人間か見抜けるようになるんだな。」


この生物の口車に乗って、性行為をしようなどという人間が利口なはずはない。
馬鹿な人間がいなければ、この生物は繁殖していく事は出来ないのだ。

「迷惑かけたな。」
「私コソ、馬鹿ガ伝染ル事ヲ聞ケテ良カッタ。」


(何、仲良くなってやがんだ。)

馬鹿、馬鹿、と連発しているゾロの背中に何か言いたげなサンジの視線が突き刺さる。

(馬鹿って言う方が、馬鹿なんだぜ。)

サンジは心の中で、子供じみた言葉を投げかけた。




これで話は終わらない。



サンジには、まだ片付いていない問題があった。

サンジがつけたナイフの傷を辿って、二人は森を抜け出そうとしていた。

しばらく黙って歩いていたが、ゾロの方からサンジに声をかけてきた。
「オマエ、なんであーゆー事になったのか、教えろ。」

サンジは、来たな、と思って首をすくめた。

「ちょっと、目を離すと面倒な事を起こすな、おまえは。」
半ば、呆れたような表情でゾロはサンジにそう言った。

「話せば長くなんだよ。面倒くせー。」
そんな言葉で誤魔化せるはずはない。

「あれだけパニくってるところを助けてやったんだ。話を聞く権利がある。」
いつもどおりの、横柄な態度でサンジに詰問する。

「貸しってやつだ。」
そう言われたら、話さないわけには行かない。

ゾロに貸しなど作ったら、今夜何をされるかわからない。

立ち止まって、サンジは掻い摘んで事情を説明した。



「ふーん。」ゾロは立ち木に凭れ、腕を組んでサンジの話しを途中から眉間に皺を寄せて聞いていた。

「なるほど。」
「で、お前はあいつの口車に乗って、ウワキしようとしてたって訳だ。」

ソノ真面目な口ぶりにサンジは思わず、笑い出す。
「ウワキ?馬鹿か、ウワキってのは本命がいて、それで他に目が行く事を
ウワキって言うんだ、知らねえのか?」

ゾロは真剣な面持ちでサンジの茶化した言葉を受け止める。
「・・・そうだ。」

そんなゾロにサンジは自分が悪いことをしたような気にさせられた。
「・・・別に、他に目が行くとか、そう言うんじゃなくてだな。」

理屈をこねようとするサンジをゾロがからかうような口調で遮った。

「ふん。ただ、女とやりたかっただけか。」

小馬鹿にされたのは、癪に障る。が、サンジは堪えた。

「したことねーから、してみたかったんだよ。悪いか。」
それでも、ふてぶてしい口調になるのは仕方がない。

「お前が思ってるほどいいもんじゃねえぞ。」
「余計な気を使わなきゃならねえし。」

(おれには気を使ってないってか???!!!)
いちいちゾロの言葉がサンジの気持を逆なでするが、あのみっともなく取り乱した
姿を見られた後では、どうも分が悪い。

「ふ、ふーん。でも、してえもんはしてえんだ。」
ブチ切れたい気持を必死で押し殺して、それでも口から出る言葉は
ゾロを刺激してしまう。

「俺とする方が、絶対いいぜ。」
ゾロは胸を張って、そう言いきった。

「へ、大した自信だな。」さすがにサンジもゾロの言葉と態度を鼻で笑う。

しかし、ゾロはそんな事には構わず、あいからわず自信マンマンの口調で
「女相手だと、お前善がってる暇ねえんだぞ。」
とぬけぬけと言い放った。

これには、さすがに頭の中で「カッチーン」と硬い金属がぶつかるような音がした。

が、サンジはその音を必死で無視しようとした。
しかし、口の端には引きつった笑いが浮かび上がる。

「ハッ そうかい。そりゃア、いつも善がらせてもらって感謝しなきゃな。」
サンジ努めて穏やかな口調で、怒りを押し殺す。

「なんだ、今日は随分大人しいじゃねえか。気味悪いぞ。」
ゾロが怪訝な面持ちでサンジの顔を覗き込んだ。

「お前、本物だろうな?」

「何言ってんだ、馬鹿じゃねえの!?」
サンジは予想外のゾロの言葉に声を荒げた。

「ちょっと確認してみるか。」
ゾロはサンジをいきなり抱きすくめ、そのまま地面に押しつけた。

「止めろ、馬鹿!!変態!!えろハゲ!!」

うるさい口を難なくゾロは塞ぎ、そのままサンジをたやすく昂かめてやる。

「俺以外で感じたら、許さねえって言っただろ?謝るまで、許してやらねえぞ。」

もう、自由に声を出せない状態まで追いやっておいて、
ゾロはそう言った。

「そうか、謝らねえんなら。」


そして、昨夜嫌がった事をもう一度。


サンジが本当にイヤなのは、結局やりたい放題されて、


それでもなし崩しに赦してしまう、


自分の思い通りにならない、自分の体。

(おわり)

最後まで読んで頂いて、有難うございました。
これを書いたのは、もう随分前で、ロビンちゃんが仲間になるなんて、
想像も出来なかったくらいの頃でした。

これ、漫画が描けたら楽しいだろうなあ、と読み返して思いました。

戻る