「催眠術?」ウソップが、怪訝そうな声を上げながら
チョッパーの小さな手帳を覗きこむ。
覗いたところで、ウソップには理解できない文字や記号が並んでいるだけだ。

「教えてもらったっていうか、そういう薬の使い方もあるんだなあって。」
「ほら、前に薬をかがせて、人を自由に操ってた奴がいただろ。」
(海賊の生き方参照)
「あの時の薬の成分を分析しておいたんだ。合成すれば作れるよ。」と言う、チョッパーの言葉にナミが
目を輝かせる。

「それで、ワポルを自由に操れるようにすれば、簡単に事は進むわね!」
ところが、ナミの言葉に今度はルフィが不満を漏らす。
「なんだ、ぶっ飛ばすんじゃネエのか。」

「あんたがぶっ飛ばしても、また戻ってきちゃったら困るじゃないの」とナミは、諭すようにルフィに言い、
「今、ぶっ飛ばしに行ったとしても、捕まった女の人たちを
ちゃんと逃がしさないと 人質に取られちゃうのよ?面倒じゃないの。
向こうの懐には、ドクトリーヌとサンジ君がいるのよ。」
「あんた、あの二人を危ない目に遭わせたいの?」と一気に捲くし立てた。

ルフィの頭の中には、「ナミはワポルをぶっ飛ばしてはいけない、と言っているらしい」と
しか理解できなかった。

「つまんねえ。」と頬を膨らませる。

「全部済んだら、サンジ君にたくさん、お弁当を作って貰って、雪山登山でもしましょう。」とナミは口から適当な言葉を紡いで、ルフィをなだめる。

この会話は、ゾロがサンジが手に入れて来た薬を持って帰った時に交わされた物だ。

サンジと別れたゾロを背中に乗せ、チョッパーは風の様に雪原を走る。

「チョッパー、あの薬、用意できそうなのか。」
ゾロは白い息を吐きながら 思い出したようにチョッパーにたずねた。

「うん。イッシー20だった、医者に頼んできたから、すぐに出来る筈だよ。」と明快な答えが返って来る。

二人は追っ手をやり過ごすために 森の中に一度身を潜めた。

「何をしてきたのさ。」
騒ぎになれば、身動きしにくくなるのに どうして 大勢の追っ手が掛るような
事態を引き起こしたのか、チョッパーは真っ暗な森の中に
息を潜ませながら、半そでのシャツでブルブル震えているゾロに尋ねる。

「・・・ちょっと、馬鹿な奴の相手をしてた。」
歯の根が合わないのか、カチカチと歯を鳴らしながらゾロは応える。

「もう一回、中に行って来て欲しいんだけど。」


「プリンセスがさらわれかけた、だと!」
衛兵達の報告がすぐにワポルに知らされる。

「一体誰が?」
「今まで、見せた客か?」

それしか考えられない。
この、如何わしい建物の、最も奥に、とびきりの「商品」がある事は、
ドラム王国関係者か、高い値で売ろうとして、見せびらかした、好色な金持ちしかいない。

噂が飛び交っていたらしいが、それも 無理矢理さらってきた女たちが
囁く程度で、姿も、居場所も、特定の人間しか知らない筈なのだ。

「警備なんか、もう、信用できんわ!もう、俺の側に侍らせるぞ!」

「・・・と、ワポル様が仰ったそうだから、さっさと支度をするんだよ。」
「王様の御前に出るんだから、小奇麗にしないと。」

サンジの食事の世話をした、強欲そうな老女がサンジを急かす。

「その前に、お姉さんに合わせてくれ・・・ないかしら?」とサンジは老女に頼んでみる。
くれはに指示を仰ぎたいのだ。
この体では、ワポルの前に行ったとしても、なんのダメージも与えられない。

却って、どんな目に遭うか 予想できない。
臆しているわけではないが、自分の不手際でこの国の明暗が分かれるのなら、
慎重になって、なりすぎることはないと思ったのだ。

「もしも、ワポル王に気に入られたら、きっと、お礼はするから。」となんとか、うん、と言うように頼みこむ。

「仕方ない。ちょっとだけだよ。」と老女は渋々 承諾してくれた。

例の薬のメモとそれに関する情報をくれはに話したら、手を打つようにして 歓んだ。
サンジがその薬で 酷い目に遭ったことなど 知らないし、当然、サンジもみっともないので話さない。

「やったじゃないか。ワポルを追い詰める、すごい爆弾を手に入れたね。」
「女風呂にも入れた事だし、いい事ずくめだね、若造。」

その言葉にサンジは、黙って苦笑する。

さっきの騒ぎも、くれはは男の相手をしていたので知らないのだ。

余談だが、くれはは、「変態専用」の女、嬲って欲しい方の性癖の
男を相手にしていて、蹴ったり、殴ったり、口で罵倒したりして、男を満足させていた。
これはこれで、すばらしい才能である。

「で、ワポルの前に行くチャンスなんだけどよ。今の形じゃ、とても
あいつの相手にはなれねエ。なんか、いい知恵はネエか。」
「だてに140年も生きてネエだろ。」

そう尋ねた、サンジの頬をくれはの綺麗な指がひねり上げる。

「ひててて・・。」
「誰が140年も生きてるって・・・?あたしゃ、まだ、139歳だ。」


「そうだねえ・・・。」とくれはは腕を組む。
正直、こんなに唐突にチャンスが巡って来るとは予想していなかったから、
何も策を練っていなかった。

世界政府に捕縛してもらうにしても、大人しく捕まる男ではない。
だからこそ、こんなに(そこそこ楽しみながら)苦労している。

「ドクトリーヌ・・・・。」

サンジの部屋の通風孔から、囁くようなチョッパーの声が聞こえる。

「「チョッパー!」」二人は同時に声を上げ、その声の方へ顔を向けた。

チョッパーは、人獣型の可愛らしい姿のまま、蹄で器用に
格子を外して、二人の前にストン、と降りてくる。

さっき、ゾロが入って来たのも、この通気口だ。

「良く入れたな。」サンジは、声を潜めてチョッパーに歩み寄る。

チョッパーも気ぜわしげに回りの気配を伺う。
くれはは、ドアを背にして、覗き穴からチョッパーが死角に入るように仁王立ちになる。

「うん、警備が厳しくなってて、俺しか入れなかったんだ。通気口の入り口に
もう 見張りが立ってた。ゾロがそこを見張ってる。」

チョッパーは、サンジに 例の催眠効果のある、薬を渡した。

あれから、すぐにアジトに帰ったら、ちょうど その薬の合成がすみ、
依頼していた医者が届けてくれた所だった。
だから、警備が厳しくなる前に サンジの所へそれを届けるために戻ってきた、と言う。

「メガネは?」

自分まで その揮発性の強い 催眠薬に冒されてしまったらなんにもならない。
それを使え、と言うのなら当然、目を保護するものを持ってきていなければ
いけないのに、

「あ・・・忘れた。」とチョッパーは 呆然となった。

そう、何度も同じ所から侵入できない。
今だって、見張りを殴りつけ、失神させて無理矢理入って来たのだ。
この侵入経路はもう、使えないと思っていい。

「あたしのを使いな。」
くれはは、頭にアクセサリー代わりに付けている サングラスをサンジに手渡す。
それを受け取り、サンジはくれはに真顔で尋ねる
「・・・老眼鏡か?」また、サンジの口がひねり上げられた。

「あたしゃ、今、28歳の花盛りだよっ。老眼鏡な訳ないだろうっ。」

そして。くれはの計画は即座に実行に移される。

黒に限りなく近い、赤紫の分厚いベルベッド。
ふち飾りに、灰色の毛皮がついている。

「西の館」と言われているが、実質、王の居住している建物だから、
今のドラム王国の王城と言ってもいいのかもしれない。

サンジ・・・いや、「プリンセス」と呼ばれていた少女は
その豪奢な防寒着に身を包んで、毛カバの上に、
ワポルの側近中の側近、アフロヘアのマリモに守られるように
抱えられ、露骨にうんざりした顔でその建物へ向かっている。

その頃、くれはの部屋では、
「そんな、危ない事をカールさんにさせるなんて!」

サンジが、いや、カールがワポル王の前に引き出される、と言う話を聞いて、
コビーとヘルメッポが慌てふためき、くれはの所へやって来ていた。

「大丈夫さ。あいつは・・・いや、あの子は頭もいいが、胆も座ってる。」
「失敗なんか、しっこないさ。」とくれはは どっしりと構えているが、
コビー達にとったら、カールは 華奢で、腕力のない少女なのだ。
たった一人でそんな危険な事をさせて、心配するなと言われても無理がある。

「助けに行こう。これだけの証拠が揃ってるんだ。」とコビーは若者らしく、すぐにでも 飛出そうとした。

「待ちなっ。」
「あんた達は、海軍をすぐに呼ぶんだよ。」
「ワポルは、あの子のいいなりになる筈だから、すぐに身柄を拘束できる。」

なんとか、出きる限りワポルに接近して、この薬を吸収させなければならない。
それには、どうすればいいか、サンジは毛カバの背で揺られながら考えていた。

「あなた様のような人と出会えるなんて、夢にも思いませんでした。」

普段、女性相手にペラペラ回る口と思考回路を一時 歪めて
ワポルの前で その得意技をいかんなく、サンジは発揮した。

「どんなに酷い人かと思っていましたが、こんなに凛々しいお姿をされていらっしゃったなんて・・・。目が潰れそうなほど、眩しく見えますわ。」

美辞麗句が次々と口を突いて飛出す。
たくさんの女性達に捧げてきた言葉達には、もちろん、その時、その時の
裏表ない、正直な気持ちを込めてきたつもりだが、

今は、そんな気持ちは毛ほどもない。微塵もない。
口からでまかせ、心の中で、全く正反対の毒舌を吐き散らしながら、
サンジはワポルに称賛と愛の言葉を浴びせ続けた。

自分が見初めた、美少女に露骨なほどの言葉で愛を告げられ、
ワポルがノボセ上るのに大して 時間はかからなかった。

プリンセスは、にっこりとワポルに微笑み掛ける。

今まで見初めて、謁見した女達は、怯え、明らかにその表情にワポルに対する 嫌悪の情を
強く浮かべていた。

だが、この少女は違う、とワポルは本気で思った。
そう思わせるほど、サンジの演技は 抜群にうまかった。

何故なら、長年 女性の気をいかに引こうかと彼女達をこまやかに観察していたおかげで、
男が好ましいと思う仕草や言葉を女性以上に熟知しているからだ。

「結婚しよう。いや、しろ。」
愛妾に、なんてとんでもない。この少女なら、世界政府に属するこのドラム王国の
王妃として、なんの不足があるものか、と思った。

プリンセスと呼ばせていた少女は俯き、頬を染め、「私で良ければ。」と可愛らしく応える。
これで、ワポルは8割方、サンジの術中にはまった。

「ワポル様、私の手料理を食べてくださいますか?」
「ふたりきりで。」
巨大なワポルの膝の上で、甘えるようにサンジが吐く言葉を
だらしなく 弛んだ顔つきでワポルは「そなた、料理が得意なのか?」と
聞いてくる。

「ええ、きっと、満足して頂けますわ。」

だって、一流コックだからな。
臭い飯を一生食う前に、とびきり美味い料理を食わせてやるよ。

サンジは心の中の言葉を口に出す前に綺麗な言葉と可憐な笑顔に変換する。
「とびきり、美味しく作りますわ。あなたの為に。」

「この国は、寒い国だから温かい物ばかり、用意しました。」
どの料理も、湯気が立ち昇る、温かい物ばかりをサンジは用意した。

「・・・ん?どうした、そんなメガネをかけて。」

揮発性の薬。それを料理に混ぜた。
湯気に含まれた、催眠作用がワポルの目の粘膜から吸収されるのを狙ったのだ。

「雪道を来たので、少しの光りでも目が沁みます。ご無礼をお許し下さい。」
もう、「プリンセス」が何をしようと、何を喋ろうとなんでも  許せてしまう。
「いや、気にするな。」と言うが否や、凄まじい勢いでその食事を平らげて行く。

その目つきが徐々に空ろな物へと変化して行くのが サングラスごしだが、
サンジにははっきりとわかった。

(・・・試してみるか)

「食べるのを止めなさい。」
いつもの言葉遣いで言うと、もしも効果がなかった時、言い繕うことができない。
サンジは出来るだけ丁寧に ワポルに命じた。

ワポルの手が止まった。

そのまま、じっとして動かない。

「食べなさい。」

その指示に従う様に、再びワポルは口に食べ物を運び始める。
(よし。効いてる)

サンジは、今度は強い命令口調で
「こっちを見ろ。」と言い放つ。

ワポルの白痴のような目がサンジに、いや、「プリンセス・カール」に注がれた。

「お前は、もう、悪魔の実の能力者じゃない。」
「柔らかいものしか、食べられない老人だ。」
「顎の力も、歯の力も、赤ん坊並だ。」
「俺とドクターくれはの言うことだけを聞く、温厚な・・・平民だ。」

「そう、ドラムの王様はドルトンだ。お前はただの平民。」
サンジは、何度もワポルに暗示をかける様に耳元で囁く。

後は、海軍なり、世界政府の役人なりがここへ来て、
ワポルを拘束してくれればそれで万事オッケーだ。

ワポルさえ押さえてしまえば、女性たちの安全も確保したも同然。

場所を転じて、ここはドルトン派のアジト。
「海軍がここに到着するのは、早くてもあと3日はかかるだろう。」
「その間にワポルをとっ捕まえて、ドルトン派と国王派が争わないように衛兵達の武器を押えておきたい。」

チョッパーとゾロがアジトに戻って、サンジがワポルに催眠薬を嗅がせている頃、
最終目的を達成するための戦略を、ドルトン派の人々と、麦わらの一味が頭を付き合せて練っていた。

「衛兵達の方は任せとけ。」ゾロとルフィが最も危険だが、最も 彼ららしい役目を引きうける。

「武器がどれだけあろうが、どうってことねえだろ。」
二人が口を揃えて言うと、真実味が増す。

「チェスとマーリモも、油断できません。あの二人は、ワポルの一番近くにいるはず。」
「ドクトリーヌくれはとサンジさんが心配です。」とくれはの腹心の男がナミに意見する。

「自分の身くらい、自分で守れるでしょう。ドクトリーヌほど狂暴な女は世界中捜したっていやしないわ。」と
笑って、取り合わない。

「あとは、捕まってる女の人達をどう、逃がすか、よね。」

例の建物から逃げて帰ってきたのだから、ある程度その構造を理解してもいい筈なのだが、
ゾロにそれを期待してはいけない。

「なんだか、妙に複雑な作りになってた。」という事しかわからないのだ。
多分、その理由はトラブルを起こした客を逃がさないためと、
逃げようとする女性の足止めをするためだと思われる。

「逃げる」と言う事に対して、天才的な男がいたのをナミは思い出した。
建物の構造がどうなっていようと、この男なら
必ず、逃げ道を本能的な勘で探り出し、己の身の保身を確保出来る筈だ。

「ねえ、ウソップ。あんたの出番だわ。」
ウソップには、サンジのような愛想笑いで何もかもを納得させると言う
力技は使えない。そのかわり、

プライドをくすぐる、と言う方法が効果的なのは、
長い間、一緒に旅をして来た仲間としてよく、知っていた。

「あんたにしか出来ない事よ。勇気と、知力と、度胸がないとね。」
ナミの半分は本気、半分は煽て(おだて)の言葉は、計算どおりにウソップの無駄に高い
プライドをくすぐった。

そして、再びワポルの居室。
「わしは今日から平民になる。」

「何を仰っておいであそばされていらっしゃるのですか、ワポルさまっ」

ボケた声と表情で、サンジを・・・いや、カールを肩に乗せ、
マリモとチェスの前でそう、宣言したワポルに二人の腹心の部下は驚愕した。

「いかがあそばしたのです?この国は、ワポル様の国、だから王様は
ワポルさまでなければならないのですよ?」

一国の王足るべき義務も果たさず、ただ、暴政だけを布いて、
その権利を振りかざし、暴虐の限りを尽くしたワポルの豹変に、チェスもマリモも動揺した。

「もう、国はいらん。」
ワポルの頬がだらしなく緩む。

「カールさえいれば、何もいらん。」

ワポルが失権すれば、自分たちの身も危うい。
二人が今日までワポルの側に仕えていたのは、忠誠心からではなく、ワポルの側で権力を握り、
その主君同様、暴挙の限りをつくしても、誰も咎める事のない立場を約束されていたからだ。

もしも、ワポルが彼自身望むように、平民になりたい、と言うのなら、
今、ドルトンと言う国民たちから絶大な信用を得ている
新しい支配者がこの国の実権を握り、実際の支配者となることだろう。
そうなれば、今まで自分たちが犯してきた罪も当然、咎められるだろうし、今の立場、今の生活は破綻してしまうことは予想に難くない。
だから、ワポルにはどうしても、国王でいてもらわなければ困るのだ。

「お前らのどっちかが、国王になれ。」

ワポルがそう言う前に、肩に乗っていた少女がワポルに何か囁いたのをマーリモは見逃さなかった。

そうだ、あの女が来てからいきなり ワポル様はおかしくおなりあそばされた、と
気がつく。


サンジは、(潰しあいをやりやがれ、)と言うつもりでワポルにそう言わせたのだが、
思いの他、クロマリモの方は聡いらしい、その企みに気がついたのか、
サンジに向かって、訝しげな、そして敵意を持った眼差しを向けてきた。

「お前、どこかで見たような気がするぞ・・・。」
「初対面ですわ♪」サンジは即座に愛想笑いをする。

「王様、あの人、私を睨みます。」と困ったように首を傾げて、「こわ〜〜い。」とワポルの首に縋りつく。

けれど、その目は明らかにクロマリモを嘲笑っている。

どこかで見た、どこかであった、どこだ、どこだ、とクロマリモは必死で頭の中の記憶を辿る。

「強い方が王様になった方がいいんじゃありませんか?」と小悪魔の様な笑みを浮かべて少女はワポルに囁いた。

チェスが弓を持つ手に力を篭める。
クロマリモはそれを見逃さなかった。

「ワポル様が王様でなくなるのでしたら、我々はもう、ワポル様の家来ではありません。」
「王様でなくなった、ワポル様などに用はありません。」
「いつ、気が替わって我々から王位を奪い返そうとなさるか、心配しながら生きて行くのはご免です。」

チェスは弓を引き絞り、ワポルに狙いを定めた。
まだ、悪魔の実の力を催眠で封じられている事は知らない。
無駄な攻撃だとわかっていても、チェスとクロマーリモは得意の技でワポルの暗殺を図った。

(そう来たかっ)

ワポルも催眠術に掛っているとは言え、腹心の部下に殺されるのは嫌だろう。
二人に抵抗して、勝手に潰し合いやがれ、とサンジはワポルの肩から飛び降りた。

巻き添えを食らうのはご免だ。
サンジは身を翻して、出口に向かって走り出した。

「カールッどこへ行くっ。」ワポルは慌てて サンジに追いすがってくる。

悪魔の実の能力を封じられてはいても、重厚な鎧で身を包み、
それで自由に動ける体力は維持したままだ。
チェスの弓も、マーリモの燃えるアフロも、ワポルの身体を傷つけるほどの
威力はない。

「お前ら、カールに当ったらどうするっ」とワポルは一気に逆上した。
その凄まじい形相に、クロマーリモとチェスが竦み上がった。

「さっさと、カールを捕まえろっ。お前らを怖がって逃げちゃったじゃないか!」と
伊達に長年王座に君臨してきたのではない、威厳を二人の部下に見せつける。

「は、い、今すぐに!」
つい、さっきクーデターモドキを起こそうとした逆臣になりそうだったのに、
ワポルの気迫に押されて、チェスもクロマーリモも平伏した。


「俺、やっぱり、西の館に行く。」
くれは・・・・いや、シルバにあれほど止められたのに、コビーは諦めなかった。

口を一文字に引き絞ったコビーのその表情を見て、彼の意志が固いことを、
ヘルメッポは悟るが、それでも、友達として、そんな危険な行動を戒めないわけには行かない。

「ダメだ。シルバさんが大丈夫だって言ってただろ。」
「お前が蜂の巣にされるだけだぞ。」

だが、そんな当たり前の言葉でコビーを止められる筈もなく、
「じっとしていられないよっ。こうしている間に何をされてるか、・・・。」

悪い想像が次々に浮かぶ。
あれだけの美少女だ。絶対にワポルはカールを気にいるに違いない。
だからこそ、・・・・どんな酷い仕打ちを受けているか、想像もしたくないけれど、

(もしも、・・・無理矢理・・・)などと具体的に考え始めたものだから、
とても居ても立ってもいられなくなった。

カールさんは、絶対に僕が守る。
ワポルなんかに指1本、触れさせたくない。
そのひたむきな想いを武器に、コビーは警備の厳しい西の館に向かった。

「俺、やっぱり、カールさんが心配だ。西の館に行く。」
海軍に援軍を要請する手筈を整えてから、コビーはヘルメッポにそう言った。

「あの子の事なら、心配ないっていッてるだろ。」と
くれははコビーの腕を掴んで止める。

中に入ってしまえばそう、警護も厳しくないだろうが、
外側の警備は厳重だろう、コビーが一人で行って、何が出来るわけもなく、
却って不審者として撃ち殺される危険の方が大きい。

「でもっ。」と必死の面持ちで言うコビーは、くれはの制止を振り切ろうと、その腕を振り解く。


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