時間が経てば経つほど、サンジの身体の中で暴れまわる熱の激しさが増す。

ただの痛みではなく、痺れと、それなのに身体の奥が焼け付く様に熱く、
サンジは呻き声を上げて身体を捩る。

「プリンセス」の部屋の見張りが運の悪いことに、コビーとは違う
男に替わっていた。

背中のドアごしに、ただならぬ気配を感じて、訝しく思い、
ドアに取り付けられている小さな覗き穴から中の様子を伺った。

ベッドの上で、プリンセスが艶めかしく身体をくねらせ、喘ぎ声のような、
呻き声を上げている。

(・・・どうしたんだ・・・?)
無理矢理働かされている女の様子にそっくりだった。
男が可愛がってやらないと、収まらないんだ、と誰かに聞いた事がある。

だが、プリンセスはワポル王が 愛妾にと望んでいる少女だ。
迂闊に手を出せば、どんな罰を受けるか、それを考えるととても
そんな事は出来ず、ただ、その様子を覗いているだけだった。
だが、やたらと口の中が渇く。男の中心に熱が集まり、脈を打ち始めた。


「おい、何をしている。」

その男に、ワポル王の衛兵が声をかけた。
「プリンセスの様子を見たい、と言うお客様をお連れしたんだ。退け。」

豪奢な服を身に付けている、初老の好色そうな男が伸び上がるようにして
「プリンセスの部屋」を覗く。


男は、衛兵と見張りにそれぞれ、20万ベリーほど渡した。

「味見をさせて貰うぞ、・・・ワポル王には言うな。」



「触んなっ。」
ドアを開けて入ってきた男に組み敷かれ、身につけている黒いセーターを
乱暴に破かれ、白い、はちきれそうな弾力を持った乳房が
露出した。

「口の悪いプリンセスだな・・・。薬を含ませていたとは、ワポルも人の悪いことを
するものだ。」

抗おうにも、身体に力が入らず、肌を這い回る男の手が乳房の先端を摘んだ途端、
甘い喘ぎが漏れ、男を煽った。

「っ・・・・や・・・・。」やめろ、離せ、エロオヤジ、ぶっ殺してやるッと
罵詈雑言が頭には浮かぶのに、唇が震えて、そこから漏れるのは
弱弱しい、懇願するような、声しか上げられない。

男の愛撫に頬を染め、目を閉じて震えながら、可憐に抗う様子に
男が目を細め、「プリンセス」の内太股に掌を這わせ、なんども
そこを擦る。

「・・・っん・・・・。」その愛撫から逃れるように腰を浮かせるが、
却って男の陰部に体が近づく。

男の渇いた唇が乳首を舐め上げ、首筋を伝って顎まで到達した時、

サンジの身体にかかっていた、男の体重の負荷が突然なくなった。
だが、身体の中に渦巻く、快楽と苦痛が消えることなく、
何が起こったのか 確認することさえできない。

壁に何かがぶつかる音。
そして、側に感じる、馴染んだ気配。

・ ・・不味い。


だが、ちょうどいい。
あんなうす汚い エロオヤジに陵辱されるくらいならゾロに

この熱を下げるために、身体を弄られる方がずっとましだ。

「・・・ゾ・・・ロ・・・。」
「この馬鹿。」

もう少し、来るのが遅かったら・・・と思うとホッとした。
騒ぎになるかもしれないが、黙って見ているわけにはいない。
前に来た時、通気口をヘルメッポに教えてもらったので、そこから
ゾロは地下に直接入って来れたのだ。

衛兵も、見張りの男も、サンジを組み敷いて来た男も一撃で殴りつけ、
気を失わせた。

ベッドに腰掛けると、サンジが縋り付いて来た。
「おいっ。」

ゾロの胸に顔を擦り付け、震える半裸の姿のサンジに抱きつかれ、
普段なら絶対にしないその仕草に 柄にもなく動揺する。

「な、やらせてやっからどうにかしろ。」

「どんな風になってんだよ。」
少しくらい、意地の悪い事をしても今なら何を言ってもいう事を聞くだろう、と
ほくそ笑む。

「・・・どうでもいいだろ。」とゾロの顔を両手で掴んで唇を合わせてくる。

これに応えると自分も収拾がつかなくなるので、ゾロはそれを
優しく引き剥がす。

「どんな風になってんのか、詳しく言わねえとどうすればいいのか
わかんネエからな。」

サンジは、ゾロが解毒剤を持っている事など、知る由もない。

「あちいんだよ。んで、痛い・・・。」
「へえ、どこがだ。」

「ここと、ここだ。」ゾロの問いにサンジは、馬鹿正直にその個所を指差す。
その素直な様子が可笑しく、さらに嬲ってやったら
どんな言葉、どんな態度をとるのか、知りたくなる。

「で、どうして欲しい。」
「そっと、触ってくれ。」真顔で言うくらいだし、潤んだ瞳を見ると
余ほど切羽詰まっているらしいが、なら、尚更言うことをなんでも聞かせたくなる。
こんなに従順なサンジを見られることはこの機を逃せば一生ないかもしれない。
我ながら意地が悪いと思うが、もう少しだけ、嬲ってやろうと

「そっとって、どんな風に」
「馬鹿野郎っいい加減にしろっ。なんでもいいから、ヤれっ。」

ゾロは、サンジの顎を掴んだ。
「っ!」それだけで、サンジは過敏に反応し、瞳を閉じる。

「偉そうに言うなら、一人で悶えてろ。」

弾む呼吸を押し隠すことも出来ず、サンジは悔しげにゾロを睨みつける。
が、もう、どうにかしてもらわないと、そこらにある棒ならなんでも
突っ込んでしまいかねないほど、身体の奥がめちゃくちゃになっている。
今の身体を傷つけたら、元の身体に戻った時どこにダメージが残るか
想像できないし、そんな事、死んでもしたくない。

「こ、こんな風にそっとだっ。」

サンジは、ゾロの局部を優しく、そっと震える掌で撫でた。
その瞬間、その鳩尾にゾロの拳が撃ちこまれ、気を失う。

「・・・やべえ・・・。」

サンジの掌で陰部を撫でられたりしたら、もう、理性を押さえられない。
女性化したサンジを絶対に抱かない、とゾロは心に決めている。

もう、辛い思いはさせたくない。
自分が気をつければいいのかもしれないが、そんな労わりを持っての
行為はサンジのプライドを傷つける。

だから、理性が吹っ飛びそうになった時、思わず、それ以上
サンジが自分の体を弄らないように、失神させてしまった。
あとで、どう罵倒されても構わない。


ゾロも、サンジに解毒剤の事を言わず、焦らして、嬲ったのに、
勝手といえば勝手なのだが。

(ま、いいか。もともと、こいつが馬鹿やったんだからな。)

と思いなおす。

ゾロは、解毒剤を口に含んで、サンジの口に流し込んだ。



側によると、サンジ自身の薄い匂いがする。
男だろうと、女だろうと、その匂いは変わらないらしい。


「解毒剤は、毒の中和剤だから効いて来るのに暫く時間がかかるよ。」と
チョッパーが言っていた。

「・・・やりやがったな・・・。」
うめきながら、解毒剤が効く前に、サンジは眼を醒ました。

「寝てろ。今、薬を飲ませてやったから、じきに楽になる。」
すぐに噛み付いてきたが、まだ 言の葉が明快でない様子なので、
ゾロはなだめる様に起きあがろうとしたサンジを軽く押さえつけた。

「・・・てめえ・・・薬なんか持ってたのか。汚エぞ。」

「・・・てめえ・・・薬なんか持ってたのか。汚エぞ。」と
悔しげに言うのをゾロは勝ち誇ったような気持ちと顔で、

「俺が言う前にお前が勝手にすがりついてきたんじゃねえか。」

そう言うと、顔を真っ赤に染め、すぐに背中を向けてしまう。

「礼くらい言え。」ゾロはさらにサンジをからかう。
「誰にだよ。」素気無く背中越しに声が返って来る。

その肩に手をかけ、無理矢理こちらに向かせた。
まだ、薬の作用が消えきっていなかったらしく、小さく 声を上げる。

「俺に決まってるだろう。あんなエロオヤジにヤられて喘ぎたかったか。」

弱みを握られた事には腹が立つが、ゾロが来なかったら、
一生忘れられない汚点になっていたところだ。
素直に礼が言えないのは、自分の性格ではなく、ゾロのやり方が不味かったせいだ、と
サンジは思う。

だから、礼は言わない。

「お前、逃げないとヤバイんじゃねえか。」

サンジは、側で伸びている男を目で指し示す。
「ああ、見張りともうひとり、殴り飛ばしてきたからな。これ。」

ゾロは、サンジにチョッパーが書いたメモを渡す。

「コビーか、ヘルメッポに渡せ。お前がのた打ち回ってた薬、麻薬じゃネエけど、
毒である事にはかわりねえ。」

サンジはそのメモを受け取り、目を通す。
「・・・伝染病みたいな毒なのか。」と呟いた。

「俺がお前とヤったら、俺も色気違いになって、なんどでもお前とヤらなきゃ
おかしくなっちまうんだ。」


その媚薬は、世界政府がダンスパウダーのように、使用禁止にしている薬だった。
もともと、人口の少ない国が人口を増大させるために開発し、
その国の既婚女性に服用を義務付けたものだ。

その結果、その国は人口がたった5年で 凄まじく増加した。
だが、それに従い、国民の勤労意欲も凄まじい勢いで低下し、働くよりも、
生殖行動に老若男女励むだけになってしまった。

その原因を調べてみると、
その薬は、服用した人間と性行為をしたら その人間もその薬の影響を受ける。
習慣性のあるその薬は、継続的に服用しなければ
すさまじい禁断症状を起こし、それをなだめるには 薬を服用するか、
その薬を服用する人間の体液を身体に取り込まなければならない。

性病のように、性交渉する事で拡大する中毒のせいで、国民は働きたくても
働けなくなってしまった、と言う訳で、

その薬を服用した女性と性交渉を一度でも持てば死ぬまで その薬か、
その中毒者と性交渉しつづけなければならない。

そんなわけで、その薬は歓楽街で密かに客を引きつけるために取引されていたが、
その特殊な効果は危険すぎるので、その使用が発見されたら
終身刑と言う厳罰に処せられる。

チョッパーが処方した中和剤は、サンジの身体の毒を完全に消し去ったわけだが、
この薬を作る時、ナミが目をむくほどの高価な薬剤を必要とした。

その中和剤を使える金持ちなら、件の薬を怖がる事もない。
安心して 抱いてくれと縋ってくる女を嬲る事が出来るのだ。


「・・・なるほど。」


それで、ゾロは我慢した。
もちろん、さっき述べた、サンジを傷つけたくない、と言う方が
優先順位的には上なのだが。

「じゃあ、ワポルは世界政府に裁かれたら、終身刑になるわけだ。」

ゾロはサンジの言葉に頷く。

初老の男が身じろきをした。
ゾロが力任せに壁にぶつけたから、顔中血だらけだが、生きているらしい。

「おい、てめえ、そろそろ逃げネエとやべえぞ。」
サンジはそれを目の端で捉え、部屋の外の気配を探るために立ち上がる。

「ああ。」ゾロも、その言葉に従い、一緒に立ち上がった。


「待て!」
部屋の扉が開き、5、6人の衛兵がゾロに銃声を向けている。

サンジがゾロに体を寄せて来た。
そして、その男達に向かって叫ぶ。
「た、助けて!・・・・くれ。」

ゾロは反射的にサンジの首に腕を回す。

お互いに聞こえるだけの小さな声で、
「おい、なんのつもりだよ。」とゾロは尋ねる。

「蜂の巣になりたくなかったら、俺を人質にして、途中まで逃げろ。」

今日に限って、ゾロは刀を一振りも持って来ていない。
サンジに薬と、メモを渡してすぐに帰るつもりだったし、
狭い通風孔を抜けるのに 刀は邪魔だったからだ。

サンジは、後ろ手にいつも使っている、携帯用の小さなナイフを
ゾロの腹部に押しつける。
どんなに小さくても、刃物さえあればゾロなら
雑魚衛兵が何人、その前に立ちふさがっても切り抜けられる筈だ。


「動くな!」

ゾロは、サンジから渡されたナイフをその細い首につき付ける。

「こいつの首、かっ切るぞ!」

せめて、相手の武器が銃でなければ、こんな猿芝居しなくて済んだのに、と
二人とも同じ事を考えている。

ジリ、ジリ、と男達が後退して行くので、ゾロは、ナイフをしまい、
サンジを抱き上げた。

「おいっ」一番、嫌な抱き上げ方をしたゾロに文句を言う前に、
ゾロは「しがみついて、黙ってろ。舌を噛むぞっ。」と小さく捲くし立てると
いきなり、走り出した。

「追えッ」銃を構えた男達がバタバタをに二人に追いすがる。

振り落とされでもしたら、その瞬間、男達の銃がゾロの背中に
一斉射撃をし掛けてくるだろう。
悔しくて、情けないが、ゾロを守るためにサンジはゾロにしがみ付くしかない。

ゾロは階段を駆け上がり、出口へ向かって走る。

だが、どっちが、どっちかわからない。

「こっちだ、ゾロ!」
ヘルメッポが騒ぎを聞き付け、ゾロの側に駆け寄ってきた。

「すぐ後ろから追い掛ける。待て、なら右、待ちやがれ、なら左に曲がれ!」
それだけ言うと、すぐにゾロの後ろへ回る。

そのまま暫くゾロは走りつづける。どうして、こんなに複雑な作りにしてあるのだろう。

「待て!」ヘルメッポの怒鳴り声が追い掛けてくる。
ゾロは右のほうへ曲がる。まだ、大人数の足音が聞こえる。

ヘルメッポの指示どおり、ゾロは間違えることなく、出口に辿りつき、
躊躇うことなく飛出して行く。

追い掛けてくる人数が増えたようだが、大分距離は稼いだ。
「いい天気だ。」ゾロは空を見上げて呟いた。
月も星もでない、激しく雪が降りしきる夜だった。
逃亡するにはおあつらえ向きだ。

ゾロは、サンジを降ろした。
破れたセーターをなんとか身に纏ってはいるが、短いズボンに
袖なしの姿が寒そうだった。

「気を付けろ。」

ゾロはそう言って、サンジが文句を言う前に自分のシャツを肩に羽織らせると
真っ黒な雪原の中を駈けて行く。

「雪の上を走ってったら アジトがばれるじゃねえか。」とサンジは
心配になる。
それでなくても、降り積んだ雪の上は走りにくく、
雪慣れしている追っ手から逃れられるのかと言う不安も同時にわいた。

だが、目を凝らすと、その闇の中に青く光る鼻のトナカイの背にゾロがまたがる姿を捉え、
安堵のため息を思わず漏らす。

雪の上を走るのに、人間よりもずっと向いている、チョッパーも、
ゾロと一緒に近くまで来ていたのだ。



証拠も揃った。
中和剤も用意することが出来た。

後は、女たちを無事に逃がし、ワポルを捕縛できれば
万事解決する。

女の姿でいるのも、もう暫くの辛抱だ、とサンジは思った。

トップページ   次のページ