タケ・・・って名前の海兵がいました。
腕自慢で、僕よりもまだ背が高くて、胸板も厚くて、たくましい男でした。

「体術なら、誰にも負けません」と言って、その訓練の間、どうも手を抜いてばかりに見え、他の部下達からも不平が聞こえてきたので、僕は彼の鼻っ柱を折ってやろうと思ったんです。

「素手なら、ミルクさんにだって勝てますよ」と横柄に言うので、僕は、
部下達30人の前で、タケに挑戦したんです。

「そうかもしれませんね。とりあえず、皆の前で僕を組み伏せられたら、」
「これから先、こういう訓練の時君は自由時間って事にしてあげましょう」

タケは、もともと孤児院あがりの青年でした。
両親、家族全てを海賊に殺されて、仕方なく孤児院に入ったそうです。
年は、僕よりも年下でしたが、腕力は相当なものでした。

でも、体術なんて腕力だけで勝負が決まるモノじゃないでしょう。
僕は、オヤジから・・・賞金稼ぎのミルキー・ビーの頭領だった、初代のミルクから、
体術は叩き込まれているし、それなりに自信がありました。

これでも、中佐ですから、体が大きいだけのタケになんか負ける訳ありません。
皆の前で、タケを投げ飛ばしてやりました。

熊みたいな体をしている癖に、僕の私室を掃除する時に見つけた本を・・・
子供と話をする時の話題になるかもしれない、と思って僕は部屋に何冊か絵本を置いているんですが、その中の一冊を読んで、その熊みたいなタケがポロポロ泣いたんです。

海賊に殺された、彼の母親がよく、彼に読み聞かせていた本だったそうです。

それから・・・。
ジャン、と言う名前の男がいました。
背格好や、髪の色がサンジさんに良く似た感じの男でした。

彼は、サーベルの名手でした。天才的な運動神経の持ち主でしたが、
いつも冷静で、僕と同じで滅多に笑わないし、無駄口も利かない、男でした。
彼の母親は・・・金持ちの愛人だったとか、娼婦だったとか色々噂が飛び交っていましたが、その母親ももうとうに亡くなっていて、彼もやっぱり天涯孤独でした。

僕らの部隊は、海軍の中でも、敵の懐深くまで潜入したりする任務が多いから、なるべく、身内の少ない、腕っ節の強い人が多かったんです。

彼は、いつも少しくすんだ銀色のブレスレットをしていました。
母親の形見だったそうです。それを戦場で無くして、取りに戻り、敵に囲まれてしまった事があったけど、その時は、タイミングよく僕は彼を助けることが出来ました。

本来なら、そんな勝手な行動は自分だけではなく、部隊そのものの生死に関わる事も
あるから、厳重に注意し、それなりの罰を負わせるべきで、上官として、
そうしなければんですが、僕には、彼の行動を責められませんでした。

・ ・・僕も、きっと、このイルカの首飾りを戦場で無くしたら、探しに行こうと
思うでしょうから。命よりも大事なものがある。そんな彼の気持ち、痛いくらい
僕には分かったんです。だから、罰を与えるなんて出来ませんでした。

それから、・・・漁師上がりの、トニオって男もいました。
銛を使うのが上手かったからかな、槍を使うのがとても巧みで、多分、
・ ・・いずれは、その槍で僕を負かす日が来るんじゃないかって思うくらいの
腕前でした。
彼もやっぱり、漁師だった頃に海賊に襲われて、一緒に乗っていた父親の命も、
家族が生きていく為に必要だった船も失ってしまった、と言ってました。
それでも、ただ、海賊に泣かされる人が少しでも減るならって思ってて、
少しも陰鬱な雰囲気がなく、むしろ、同じ様な髪の色をしていたのに、
中身は僕とは正反対でとても明るく、おおらかな男でした。

ただ、難点は、興奮して話し始めると訛りが酷くて殆ど何をしゃべってるのか
分からなくなるところでしたけど、
休みの日、退屈している僕をよく、釣に誘ってくれました。
色々と釣のウンチクを教えてくれましたっけ。
相槌を打っているだけの僕にも嫌な顔一つしないで、
自分が全く攣れなくても、僕が魚を釣り上げたら、その訛り丸出しで、
大騒ぎして喜んでました。

最年少の部下は、17歳のトレノです。
本名は本人が忘れてしまったんで、僕がそう名前をつけたんです。
彼は、戦火の中僕が助け出した少年でした。海賊に捕まっていて、・・・僕と同じ様な目に
あっていて、僕がサンジさんと出会わなければ死んでいたように、彼も僕が見つけなければ、きっと死んでいたでしょう。そんな訳で海軍に入隊して来て、僕の部下になるために、
厳しい訓練にも、危険な任務にも脱落する事のないように、必死に努力して、
やっと、僕の直属になれた子でした。

僕に金魚花火を作ってくれたのは、狙撃手になった、そのトレノです。

戻る    次へ