サンジの姿はもう 視界から消えている。

本能的にギンの体が戦闘体勢に入った。

「蹴り」の達人と戦う時は、足場を崩す。それがセオリーで、体に沁み込んだ条件反射だった。

サンジの足が上空から降って来る前に、己の船の甲板に鉄球を打ちこんで足場を奪う。

だが。

落下して来た凄まじい殺傷力を孕んだサンジの足は、
ギンの後頭部に振り下ろされ、思わず倒れこんだギンの頭を
さらに靴底を押し当てて追い討ちをかけつつ、再び そこを足場に
体を反らせて空転し、一旦 ギンの体から距離を取った。

その衝撃にギンが一瞬 揺らぐ視界の中、目の前のサンジを捉えたとき、
喉の根元に杭を突き立てられるような痛みを覚え、
体が傾いだと思ったら すぐさま 腹部を蹴り上げられ、足が中に浮いた。

その後、脇腹の肉から背骨まで食い込むほどのダメージを受け、
ギンは甲板の上を吹っ飛んでいき、その体でわき板を派手に破壊した。

「くう・・・・。」ギンは思わず、脇腹を押さえて呻いた。

確かに、違う。
あの時のサンジは パールによってかなりダメージを受けていたから
やすやすと組み敷く事が出来た。

だが、今 自分の体に打ちこまれているサンジの蹴りはあの時とは 格段に重さが違う。
そして、スピードも段違いに速い。

サンジは、本気でギンを仕留めようとしていた訳ではない。
ただ、自分の力量を誇示したかだけだった。

サンジは、ギンに負けっぱなしだったのが気に食わなかったのだ。
あの時は いいようにやられてしまったが、自分を見くびられたまま 
二度と会えないと思っていた相手と
偶然 出会って その誤解を払拭するために あえて ギンに挑んだ。


だが、これ以上ないほど 本気だった。
本気でなければ、また 負けてしまう。
同じ相手に2度も負けるくらいなら、土下座して 謝った方がはるかにましだ。

「立てよ。てめえが立てねえなら、この船のやつら全員、海軍に突き出すぜ?」

サンジは更にギンを煽る。
どうせなら、完膚なきまでに叩きのめしたい。

「一度 自分に挑んできた相手には 必ず とどめをさせ。」
「命を奪えないのなら、命に替わる物、二度とその武器を持てないまでにダメージを与えろ」

自分に そう言った緑頭の剣士の言葉がサンジの闘争本能を駆り立てていた。

ギンの胸にある想いをサンジは知らない。

この状況でサンジにギンが その武器を振り上げる事が出来ない事など
想像もしていなかった。

俯いたまま うずくまるギンにサンジは業を煮やした。
「なんのつもりでいつまでも ヘタりこんでやがる!」

怒鳴りつけながら、サンジはギンの横っ面を思い切り 蹴り飛ばす。
なぜか、舐められている気がした。
だが、ギンはまだ サンジにされるがまま、受身も取らず吹っ飛んでいく。

「ッ・・・・チッ・・・・・。」サンジは 舌打した。
無抵抗な相手を嬲るほど、サンジは残酷にはなり得ない。

ギンの前まで歩みより、抵抗しない訳を尋ねようと腰をかがめた時だった。


渇いた銃声が響いた。


「総隊長!」
ギンの腹心の部下が叫んだ。

サンジの体は、ギンの体の下に組み敷かれ、その瞳は空へ向けられている。

何が起こったのか、一瞬わからなかった。


サンジの神経がギンにだけ 向けられた瞬間、ギンの部下がサンジに照準を合わせ
 引き金を引いた。

その銃弾から ギンは自分の肩の肉を盾に サンジを庇ったのだった。

「ギン!!」

状況を把握したサンジの声が ギンの耳に届く。


「俺の船で あんまり 無茶をしないでくれ、サンジさん。」
ギンは自分を見上げるサンジに苦笑いを浮かべた。



「・・・すまねえ。」
ギンの船の一室に通され、サンジは素直に非を詫びた。

「いや、俺の部下が俺の指示を守らなかっただけだ。あんたが謝る事じゃない。」
ギンは サンジの真っ正面に腰を降ろした。

そして、「でも、どうしてそんなに金が要るんです?」とまた 聞いた。

「・・・バラティエが燃えちまってよ。再建するのに あと3000万ベリ―要る。」
「雇ってたコックどもの給料もいるし・・・。半年以内にめどを立てなきゃならねえ。」

サンジは、溜息混じりに煙草の煙を吐き出している。

例え 海賊になったとしても、やはり サンジにとってはバラティエは
何より 大切な場所であり、物である事をギンは再認識した。
それを守ろうと 必死で戦っていたあの頃と サンジは少しも変わっていない事が
ギンは 嬉しかった。


「3000万ベリーですか。」鸚鵡返しに尋ねたギンの言葉に
サンジは黙って頷いた。
「それくらい、都合がつきます。」
サンジさんのためになるなら・・・・と言う言葉をギンは飲みこんだ。

悟られたくなかった。
自分がいつも どんな時も サンジに焦がれている事も、
今、その体を傷つける銃弾から 己の肉体を盾にすることで
守れた事に 頭が一瞬痺れるほどの 歓喜を覚えてしまった事も。

「あ?」
ギンの言葉を今度はサンジが短く聞き返して来た。
煙草を咥えたまま、顔を顰め 気難しそうは表情を向けられても、目の前のその姿がギンには 眩しい。

「3000万ベリー、使ってください。」
「・・・何言ってんだ、てめえ。」
ギンの言葉をぶっきらぼうに サンジはもう一度 聞き返した。

「だから、サンジさんの店を、いや、船を買うために使ってください。」

そんな話をサンジが簡単に承諾するはずがなった。
「てめえから金を貰う義理はねえよ。」と一蹴される。

だが、ギンは諦めない。
サンジの為に何か 出きるのなら 3000万ベリーだろうと、3億ベリーだろうと 惜しくはない。

「じゃあ、俺がサンジさんの時間を買います。」
「店のめどがつくまで、この港に停泊します。その間、俺の部下達を
食わせるコックとして サンジさんを雇います。それなら 構わないでしょう?」


サンジの姿はもう 視界から消えている。


本能的にギンの体が戦闘体勢に入った。

「蹴り」の達人と戦う時は、足場を崩す。
それがセオリーで、体に沁み込んだ条件反射だった。

サンジの足が上空から降って来る前に、
己の船の甲板に鉄球を打ちこんで足場を奪う。

だが。

落下して来た凄まじい殺傷力を孕んだサンジの足は、
ギンの後頭部に振り下ろされ、思わず倒れこんだギンの頭を
さらに靴底を押し当てて追い討ちをかけつつ、再び そこを足場に
体を反らせて空転し、一旦 ギンの体から距離を取った。

その衝撃にギンが一瞬 揺らぐ視界の中、目の前のサンジを捉えたとき、
喉の根元に杭を突き立てられるような痛みを覚え、
体が傾いだと思ったら すぐさま 腹部を蹴り上げられ、
足が中に浮いた。

その後、脇腹の肉から背骨まで食い込むほどのダメージを受け、
ギンは甲板の上を吹っ飛んでいき、その体でわき板を派手に破壊した。


「くう・・・・。」ギンは思わず、脇腹を押さえて呻いた。


確かに、違う。
あの時のサンジは パールによってかなりダメージを受けていたから
やすやすと組み敷く事が出来た。

だが、今 自分の体に打ちこまれているサンジの蹴りは 
あの時とは 格段に重さが違う。
そして、スピードも段違いに速い。


サンジは、本気でギンを仕留めようとしていた訳ではない。
ただ、自分の力量を誇示したかだけだった。

サンジは、ギンに負けっぱなしだったのが気に食わなかったのだ。
あの時は いいようにやられてしまったが、
自分を見くびられたまま 二度と会えないと思っていた相手と
偶然 出会って その誤解を払拭するために あえて ギンに挑んだ。


だが、これ以上ないほど 本気だった。
本気でなければ、また 負けてしまう。
同じ相手に2度も負けるくらいなら、土下座して 謝った方がはるかにましだ。

「立てよ。てめえが立てねえなら、この船のやつら全員、海軍に突き出すぜ?」

サンジは更にギンを煽る。
どうせなら、完膚なきまでに叩きのめしたい。

「一度 自分に挑んできた相手には 必ず とどめをさせ。」
「命を奪えないのなら、命に替わる物、二度とその武器を持てないまでに
ダメージを与えろ」


自分に そう言った緑頭の剣士の言葉がサンジの闘争本能を
駆り立てていた。

ギンの胸にある想いをサンジは知らない。

この状況でサンジにギンが その武器を振り上げる事が出来ない事など
想像もしていなかった。

俯いたまま うずくまるギンにサンジは業を煮やした。
「なんのつもりでいつまでも ヘタりこんでやがる!」

怒鳴りつけながら、サンジはギンの横っ面を思い切り 蹴り飛ばす。
なぜか、舐められている気がした。
だが、ギンはまだ サンジにされるがまま、受身も取らず
吹っ飛んでいく。

「ッ・・・・チッ・・・・・。」サンジは 舌打した。
無抵抗な相手を嬲るほど、サンジは残酷にはなり得ない。

ギンの前まで歩みより、抵抗しない訳を尋ねようと腰をかがめた時だった。


渇いた銃声が響いた。


「総隊長!」

ギンの腹心の部下が叫んだ。

サンジの体は、ギンの体の下に組み敷かれ、その瞳は空へ向けられている。

何が起こったのか、一瞬わからなかった。



サンジの神経がギンにだけ 向けられた瞬間、
ギンの部下がサンジに照準を合わせ 引き金を引いた。

その銃弾から ギンは自分の肩の肉を盾に サンジを庇ったのだった。

「ギン!!」

状況を把握したサンジの声が ギンの耳に届く。


「俺の船で あんまり 無茶をしないでくれ、サンジさん。」
ギンは自分を見上げるサンジに苦笑いを浮かべた。




「・・・すまねえ。」
ギンの船の一室に通され、サンジは素直に非を詫びた。

「いや、俺の部下が俺の指示を守らなかっただけだ。あんたが謝る事じゃない。」
ギンは サンジの真っ正面に腰を降ろした。

そして、「でも、どうしてそんなに金が要るんです?」とまた 聞いた。

「・・・バラティエが燃えちまってよ。再建するのに あと3000万ベリ―要る。」
「雇ってたコックどもの給料もいるし・・・。半年以内にめどを立てなきゃならねえ。」

サンジは、溜息混じりに煙草の煙を吐き出している。

例え 海賊になったとしても、やはり サンジにとってはバラティエは
何より 大切な場所であり、物である事をギンは再認識した。
それを守ろうと 必死で戦っていたあの頃と サンジは少しも変わっていない事が
ギンは 嬉しかった。


「3000万ベリーですか。」鸚鵡返しに尋ねたギンの言葉に
サンジは黙って頷いた。


「それくらい、都合がつきます。」
サンジさんのためになるなら・・・・と言う言葉をギンは飲みこんだ。

悟られたくなかった。
自分がいつも どんな時も サンジに焦がれている事も、
今、その体を傷つける銃弾から 己の肉体を盾にすることで
守れた事に 頭が一瞬痺れるほどの 歓喜を覚えてしまった事も。


「あ?」
ギンの言葉を今度はサンジが短く聞き返して来た。
煙草を咥えたまま、顔を顰め 気難しそうは表情を向けられても、
目の前のその姿がギンには 眩しい。


「3000万ベリー、使ってください。」

「・・・何言ってんだ、てめえ。」
ギンの言葉をぶっきらぼうに サンジはもう一度 聞き返した。

「だから、サンジさんの店を、いや、船を買うために使ってください。」



そんな話をサンジが簡単に承諾するはずがなった。

「てめえから金を貰う義理はねえよ。」と一蹴されるだが、ギンは諦めない。
サンジの為に何か 出きるのなら 3000万ベリーだろうと、3億ベリーだろうと 惜しくはない。

「じゃあ、俺がサンジさんの時間を買います。」
「店のめどがつくまで、この港に停泊します。その間、俺の部下達を
食わせるコックとして サンジさんを雇います。それなら 構わないでしょう?」

サンジは、しばらく考えて、「毎日って訳にはいかねえし、いくらなんでも
そんな大金で雇ってもらえても それにつりあう仕事ができねえ」と難色の色を示した。

だが、ギンは諦めない。

「じゃあ、週に4日。どうせ、ここで船のメンテナンスをしなきゃならねえし、
長逗留になる。サンジさんの家から 夕食だけ作りに来てくれれば。」

だが、サンジはそんな好条件にも首を縦に振らなかった。
「だから、そんな条件で3000万ベリーも貰えねえよ。」

どうして、素直に受けとってくれないのだろう、とギンも焦れてくるものの、
そういう筋の通った、人に甘えなど見せない様子も サンジらしいと思い、
辛抱強く 納得してくれるまで 掻き口説く。

「じゃあ、500万ベリーでいいです。後は、借金ってことで。」
「俺にお前から 金を借りろってか。冗談じゃねえ。」

「じゃあ、こうしましょう。バラティエのコックを一旦 俺が全員 雇います。
その給料が3000万ベリー。これは、俺がサンジさんに支払うんじゃない、
バラティエのコックに払う金だ。受け取る、受け取らないの権利はサンジさんにはねえ。」

「・・・へ理屈をこくな。」無茶苦茶な理屈をこね出したギンにサンジは苦笑した。

どうして、鬼人と呼ばれた男が ただのレストランの開店の為にここまで 
自分らしさをかなぐり捨てて 尽力してくれるのか、サンジには
判りかねた。

人に依存するのは嫌だし、借りを作るのはもっとご免だ。
あり難い話しだと思うが、なんの義理もない相手から そんな大金を
貰って 見返りを怖れないほど 馬鹿ではないつもりだった。

「てめえ、一体 どういうつもりで俺に構うんだよ。」
何気なく聞いた一言が、ギンの顔に血液を集中させる。

「それは・・・・。そう、部下達をこの港でゆっくり静養させてやりたいんですよ。」
「サンジさんみたいな狂暴な賞金稼ぎにうろつかれたんじゃ、枕を高くして
眠れませんや。」

しどろもどろのギンの答えに、サンジは思わず 吹き出した。

ギンは、畳みかける。
「部下たちの身の安全を計るための金だと思えば、惜しくねえです、」
「3000万ベリーくらい。」

つまり、雇うかわりに部下達を狩らないでくれ、という理屈に辿りついた。

「わかったよ。じゃあ、そう言う理屈で手を打ってやる。」
ようやく、サンジは承諾してくれた。

1週間に4日、ギンの船 20隻分の食事をサンジが作る。
あとの3日は、バラティエ再建のための仕事をしなければならない。
そんな条件でギンはコックとしてサンジを雇う事に成功した。

「とりあえず、雇ってくれた礼をしなきゃな。俺の部屋に来いよ。」

雇い主だからと言って、サンジはギンにへりくだったりしない。

「このへんのレストランに入るより、美味いもん 食わせてやるからよ。」


そんな言葉をかけられて、ギンは胸がどうしようもなく高鳴った。

自分のためだけに、食事を作ってくれる?
しかも、サンジの部屋で二人きりで おそらく 向かい合って食べるのだ。

「いや・・・。」ギンは口篭もった。

猛烈に行きたいのだが。

もう 日は沈み始めている。
サンジの部屋で、食事を取れば 当然 夜になるだろう。

二人きりになって、理性を押さえられるか、全く自信がない。

暴走する自分の性格をギンは自覚している。
一度 そうなってしまえば、サンジの体をめちゃくちゃに扱ってしまいかねない。

「そうか。じゃあ、いい。」サンジは、立ち上がった。
断わられたからと言って、露骨に不快な態度をとってはいないが、
いい気分な訳はない。そんな様子が ギンの目に見て取れた。

ギンがいい澱んでいるわけも、サンジが察するはずもなく、ギンは困惑した。


(・・・怒らせた?)

サンジに不快な想いをさせて、怒らせてしまったようだ。
こんな事で怯える自分もどうかしているが、
その行動、言動、表情全てが 神経を惹き付けるのに 抗うことが出来ない。

「明日から来るから。」
あっさりそう言うと、サンジは ギンに背を向けた。

「サンジさん、あの・・・ここで、メシを作ってくれませんか・・・?」

「あ?」必死で搾り出したギンの声にサンジの足が止まり、振りかえった。
「使いなれない厨房で いきなり20隻分の食事を作るのは大変でしょう。」
「今日、今から 使ってみたらどうです。」


それから 3時間ほどたった。

20隻分の食事を もともと ギンの部下の中の厨房を扱っていた男達に
てきぱきと指示を飛ばして、100人分の食事をサンジは作り上げた。

いつも 食べている食材を使っているのに、海賊達にとっては 口にしたことのないほど
洗練された味わいの料理が供される。

ギンは 別室でサンジが運んできた料理を食べた。

「サンジさんはくわねえんですか?」
「・・・ここのコックは、一緒に食事するんだな。」

ギンが食事をしているのに、サンジはその前に座り、煙草に火をつけた。


「・・・コックは賄い料理を食ってりゃ、それでいいんだよ。」
ふーっと煙草の煙を吐き出す仕草にギンの目は釘付けになる。

「・・・俺の顔になんか 付いてるか。」
横を向いて煙草を吸っていたサンジだが、ギンの食事が一向に進まない気配を察して
その視線の理由を聞いてくる。

「いや、何も。」ギンは慌てて 食事を口に運ぶ。
「じゃあ、さっさと食え。」ぶっきらぼうにそう言って、また 煙草の煙を吐き出した。

ギンが食べ物を咀嚼する音と食器の擦れる音だけが響く。

「美味い・・・・。」誉めるつもりもなく、知らず知らずに声が出る。
サンジの口元がほころんだ。


ああ、花が咲いたようだな、とギンは思った。

本当にどうかしている。
サンジと会った事は 幸せな事なのか、そうでないのか
判らなくなりそうだった。


「腹、膨れたかよ。」
口元にも、目じりにも 柔らかな笑みを滲ませて 尋ねてくるサンジをギンは直視できなかった。

「はあ。」あらぬ方向を見たまま 返事をするギンの顔へ
「おい。」サンジの指が伸びた。


「みっともねえ食い方するんじゃねえよ。」

ギンの口元についていた 濃厚なソースをその指が擦り取る。
そのまま、サンジはそれをぺろリ、と舐めてしまった。

「うん、美味く出来てるな。」と満足そうに呟いて。

ギンはその夜、眠れなかった。

明日もサンジはやってきて。

あんな風に食事を摂るのだろうか。
そう思うとどうしようもなく 頬が緩んで仕方がなかった。


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