第2話
「有難うございました。」
「いや、事情も良くわからねえで、余計な事を・・・」
とサンジが恐縮すると、さっき男の足にすがりついていた少女が
どうやら父親らしき男になにかささやいた。
その男は頷き、サンジに笑顔を向けながら、
「あなたは何故、私達を助けてくれたのですか?」と尋ねてきた。
サンジはしばらく考えて、
「・・・向日葵畑があんまりみごとだったから・・・かな。」
と答えた。
「花の好きな人に悪い人はいません。」少女がサンジに声をかけた。
「あいつらは、なんでここを燃やそうとしたんだ?」
獣型のまま、チョッパーが唐突に口を開いた。
その場の空気が固まる。
「ああ、賢いトナカイだから、喋れるんだ。」
サンジが平然とそういうと、固まった空気が和やかに動き出した。
「・・・あいつらは海賊なんです。かれこれ、1年ほど前にこの先の海で
難破して、この島に上陸してきたんです。」
彼らは、口々にこの島を突然襲った不幸を語り出した。
・ ・・この島は小さくても火山であった。
・ 海の周りは水温が以上に高く、硫黄分も多いので、漁業には向かない。
土も、火山灰で決して肥沃な土地とは言いがたい。
そこで、この島特有の常夏の気候を生かして、向日葵を栽培し、
種から油を絞り、その葉で食用のカタツムリを養殖し、それを特産品として、
細々と産業を営んでいた。
貧しくても、極力外部の人間からの干渉を避け、ささやかな平和を維持していたと言う。
そこへ、1年前、海賊が流れついた。
彼らは、凶悪な海賊の例に漏れず、欲しいままに略奪を行い、
暴力を持って瞬く間にこの島を占領した。
誰もが、決して逆らえない様に、その家族で最も愛されている子供、若い娘、
美しい人妻などを人質にとっていると言う。
大きな木が手に入らず、船を購入する金もない海賊達は、
この島の美しい産業を見限り、もっと手早く金を稼げる、
麻薬を栽培する、と言い出した。
向日葵製品を一手に扱う商人を脅し、麻薬の苗と種を手に入れた彼らは、
向日葵畑を焼き払おうとしているのだ。
「・・・なるほどね。」
話を聞き終わったサンジが、チョッパーに視線を向けた。
「・・・お前はどうするよ、チョッパー?」
「この向日葵畑を守りたい。」
チョッパーは、思ったままを口にする。
自分の心の中で未だ生きているヒルルクにチョッパーは
もっと向日葵を見せたいと思ったからだ。
サンジが口の端を釣り上げて、笑った。
「・・・よし。じゃあいこうぜ。」
サンジとチョッパーは、さっき蹴り転がした海賊の部下を縄で数珠繋ぎにし、
引きずりながらその海賊の根城に向かった。
「雑魚共をおびき寄せてから、先ず、つかまってる奴らを助けるんだ。
囮はお前がやれ。」
一応、作戦らしきものをサンジは口にする。
「また、俺が囮?」
不満げにそう言うチョッパーの頭を帽子ごと掴んで、サンジは笑いながら、
「お前の方が派手に人目を引きつけるんだよ。
「5分で済ませる。お前なら、大丈夫だ。頼んだぜ。」
と、また言った。
引きずっている男達に道案内をさせて、二人は
石造りの高い塀をめぐらせた、見るからに陰気な建物の前に辿りついた。
「ここか.」サンジがそれを見上げる。
「サンジ、入口がな・・・」
「入口がない.」とチョッパーがそう言いかけた途端、
轟音がして、目の前の壁が吹き飛んだ。
サンジの片足がゆっくりと地面に降ろされる。
すぐに、数人の男が武器を手にし、飛び出してきた。
その一番後ろ、異様に太った、丸坊主の凶悪そうな面構えの男が
そびえたっている。
(アレが船長か・・・・)
サンジはそう予測した。
「おら。落し物を届けに来たぜ。」
数珠繋ぎにした男達をグルグルと一まとめにし、サンジはそれを
相手に向かって蹴り飛ばした。
「・・・チョッパー、頑張れよ.」
サンジはチョッパーの耳にそう囁くと、いきなり飛びあがった。
思わず、チョッパーはその姿を目で追い、見上げた。
こんなに高く飛べる、能力者でもない人間をチョッパーは他に知らない。
坊主頭の目の前の部下に、落下スピードを上乗せした踵落としを食らわせる。
その衝撃で、床板が砕けた。
その一瞬前、兪かを砕きつつ、その反動を生かしてサンジは再び
高く跳躍した。
空中で回転し、坊主頭の背中側に音もなく着地する。
すかさず、床に手をつき、足を低い位置で旋回させ、坊主頭の足場を崩して、
なぎ倒した。
ナミ直伝のすばやさで、腰に光る鍵を掏り取る。
そして、そのまま、館の中へ駈け込んでいった。
「待て!!」
慌てて、サンジに追いすがろうとした坊主頭を部下たちの悲鳴が引きとめた。
「化け物だア!!」
サンジが戻ってくるまで、5分と言った。
『ランブルボール』の効力は3分。
口に含むまでの2分間は人型のまま闘う。
ルフィが教えてくれた武術と、ゾロが実践しているトレーニングに付合うようになって、
チョッパーはドラムにいた頃よりも、数段強くなっていた。
しかし、いくら腕力が上がっていようと、性格はやはり臆病なトナカイだ。
喧嘩慣れしていないので、人を殴るのも、殴られるのも、怖い。
「お前なら大丈夫。頼んだぞ。」
けれど、そういった、サンジの信頼を裏切る事は出来ない。
チョッパーは、その一心で遮二無二腕を振りまわした。
(・・・・そろそろ、2分、いや、それ以上立ったかも.)
チョッパーは、ランブルボールを口に含んだ。
「ランブル!!」
固いそれを奥歯で噛み砕き、飲み込んだ。
「重量強化!!(ウエイトポイント)」
チョッパーの体がむくむくと固い筋肉の鎧に包まれ、膨れ上がる。
海賊達がどよめいた。
こうなると、打ちこむ拳の一発一発に重さが加わり、
殴る飛ばすだけで相手はもう立ちあがらなくなる。
あっという間に、部下たちは地面に転がったまま、動かなくなった。
残りは坊主頭だけだ。
「よくも、俺の部下を可愛がってくれたな。この化け物が・・・」
第3話
「よくも、俺の部下たちを可愛がってくれたな。」
その凄まじい形相に、チョッパーは震えあがった。
(・・・・サンジイ・・・.何やってんだよオ・・・)
チョッパーは泣きそうになった。
(5分で戻る。)
サンジはそう言った。
なら、後1分も立たずに戻ってくるはずだ。
チョッパーは腹を括った。
「刻蹄桜!!(コクテイロゼオ!!)」
坊主頭の顎に渾身の力をこめて、蹄を打ちこんだ。
・ ・・ぐにゃり。
「!!!」チョッパーの目が大きく見開かれる。
坊主頭が醜悪な顔を歪めて笑った。
「・・・俺は、ブヨブヨの実の能力者だ。どんな攻撃でも吸収する。」
チョッパーの顔から血の気がひく。
・ ・・時間は少しだけ遡る。
サンジは、鍵を手に入れたものの、捕らわれている人々の居場所が判らず、
鍵の付いている部屋を探して館の中を駆けずり回った。
ほどなく、鍵のある部屋を探し出し、その扉を開く。
薄暗い中に、15、5人の幼い子供と、10人ばかりの若い女性が
いるようだった。
いきなり乱暴に扉を開いたサンジに、皆一様に怯えたような視線を向ける。
サンジは、僅かに微笑んで、
「心配すんな。助けに来たんだ。ここは開けておくから、しばらくしたら逃げろ。」
口早にそう言うと、踵を返して、もと来た廊下を駈け戻っていった。
・ ・・・チョッパーも、相手の攻撃を無効にする
「毛皮強化(ガードポイント)」に変化し、応戦していたがこの変形では
この「ブヨブヨの実」の男に打撃を与える事は出来ない。
(さっき、サンジは確かにこの男をすっ転ばしていた・・・)
ふと、チョッパーはその事に気が付いた。
どんなに肉体がブヨブヨとして、攻撃を吸収しようとこの重い体を
支えるための足場は、強固でなければならない。
(そうか・・・?!)
弱点は・・・足だ。
打撃を避ける為に思わずとった「毛皮強化(ガードポイント)」
を「脚力強化(ジャンピングピイント)」に切り替え、瞬時に坊主頭の
懐に飛びこむ。
「ぬ!!」
チョッパーの変幻自在の攻撃に坊主頭から余裕の笑みが消え、
歯噛みをした。
懐に飛びこんだチョッパーは、すかさず最も重い攻撃を相手に与える
「重量強化(ウエイトポイント)」に再び変形し、足をなぎ払った。
凄まじい音を立てて、二人は床に倒れこむ。
馬乗りになったチョッパーは、坊主頭の喉もとに、蹄をずぶずぶとめり込ませた。
器官を圧迫するところまで、わざと力を加える。
「もう、この島の人たちに迷惑をかけないかっ?!」
きつい声で坊主頭に尋ねた。
「ぐるじい・・・がげねえ・・・だずげでぐで・・・・」
息も絶え絶えに、坊主頭が命乞いをする。
思わず、めり込ませた蹄を外しかけた時、男は唐突に起き上がった。
「っ!!」
チョッパーは突き飛ばされ、背中に激痛を感じて顔をしかめている間に
今度は逆に坊主頭に馬乗りにされた。
「死ね!!」
坊主頭は、なんの躊躇もなくチョッパーの首に手をかけ、力任せに締め上げた。
「ぐ・・・」
目の前が真っ暗になり、意識を失いそうになった。
その時。
大量に卵が割れるような音がした。
「ぎゃああああっっ」
坊主頭がチョッパーの体の上で足首を押さえ、悶絶した。
チョッパーはすかさず、坊主頭を跳ね除けた。
「甘えぜ、チョッパー。」
煙草を咥え、目を細めていかにも薄情そうな顔つきのサンジがそこに立っていた。
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