「自信?」とR−1は腕の中にS−1を閉じ込めたままでまた、S−1の言葉の
意味を聞き返した。
「なんのだ。」
「なんのだろう。良く判らない」
「って言うか、上手く説明出来ねえ。」とS−1は力無くまた、笑った。
(そんな曖昧な。)とR−1は困惑した。
でも、さっき言い間違えた失言を帳消しにするのは、ただ、行動あるのみだ。
今夜、こんなに近くにいて、なんの障害もない今、誰よりも大事に想う存在だからこそ、
もう何が有っても我慢など出来ない。
「お前らしくもないな。」とひとまず答えて、R−1はなんとも心地よい薫りの
S−1の髪に口付けた。
「そんな歯切れの悪い言い方じゃ、納得出来ねえ。」
「お前は俺がイヤか?こんな事するの、俺とじゃイヤなのか。」
R−1は我ながら意地悪な質問だと思った。S−1の逃げ道を塞いで追い詰めている。
それを自覚しながらも、全く自責の念はなかった。
何故なら、本気で苛めているのではなく、むしろ、心の中は、戸惑いを可愛い屁理屈として必死で自分に訴えるS−1への愛しさで一杯だからだ。
「そ」
R−1は そうじゃない、と首を振って否定しようとするs−1の身体に覆い被さって、
唇を塞いで、言葉を吸い取った。
そのまま、S−1の肌を覆っているパジャマの上着のボタンを一つ、一つ、
指先の感覚を頼りに外して行く。
もう逃げられないように、R−1はもう片方の手でS−1の首筋を支えるように
持ちあげるとしっかりとした温もりと重さ、S−1の鼓動が掌から伝わってくる。
それを感じるとR−1の体に一旦は治まった昂ぶりが再燃する。
嫌がっていると判っていても、止めようがない。
こんなにも人間と言う生き物の理性と肉体がバラバラになるなんて、R−1にも
予想のつかない事だった。
シュミレーションではもっと余裕がある筈だった。
優しくしよう、
痛くないようにしよう、
決して怖がらせる事のないように。
快感を感じたい、とかそんな事はニの次で二人の体温が交じり合うような行為を
ずっと頭に描いて来たのに、現実は全く違っていた。
S−1の動揺が激しくて、自分と抱き合う事への喜びや戸惑いではなく、
何故、どうして、と言う困惑と今まで絶対に自分が嫌だと言えば、
何一つ、無理強いしなかったR−1がまるで、獣のように息を弾ませて
自分の唇を塞いでいる事への恐怖を露になった肌に触れると判るのに、
R−1は自分の体と欲望の暴走を止める事が出来ない。
言い訳の様に、S−1の名前を呼ぶ、その同じ言葉だけを切れ切れの呼吸の中から囁くのが精一杯だった。
心と体がバラバラなのは、S−1も同じだった。
何故、自分の言っている事を理解してくれないのか、
不安で、心細いと意地も張らずにありのままを口にしたのに、
それが全く伝わらないばかりか、こんなに乱暴に。
パジャマを全部、口付けしている最中にひん剥かれた。
いつもの優しい柔らかな口付けではなく、
この息が出来ないほど激しい口付けは明らかに自分のあげるだろう、批難の罵声を
防ぐ為だとしか思えない。
悲しいのと、腹が立つのと、心の中ではそれがゴチャゴチャになっているのに、
体は、特に心臓のあたりはドキドキと今まで感じた事ない程、強く脈打っている。
つま先にどうしようもなく、力が入る。
R−1の手が内太股を滑りあがってくる。
「バカ、触んな、そんなトコ!」と怒鳴りたいのに、もうR−1の唇は
S−1の唇を塞ぐのを止め、耳の柔らかいところを噛んだり、舐めたりしている。
時折、部分的に頭がボウっとなるような感覚を感じてその都度、体から力が抜けて、
声が出せない。
R−1の指が下着に引っかかった。
(嫌だ、)裸など、初めて見られる訳じゃないのにこんな風に無理矢理に
素っ裸にされて。
自分の意志とは全く違って、見たこともない変化を勝手にしている肉体を見られるのは
恥かしくてたまらない。
絶対にそんな浅ましい姿をR−1に見せたくなかった。
「なんで、こんな事するんだよ。」とようやく、まるで、全力疾走した後に
話すように喘ぎながらS−1は言葉を口に出す事が出来た。
「嫌か。」ところが、R−1からはさっき、
答えようとした問いかけと全く同じ言葉が返って来る。
「俺とこんな事するの、嫌か。」
そう聞かれたら、首を振るしか答えが出せない。
それでもなんとか都合の良い言葉を考えようとしていた最中に、R−1の人差し指に
引っ掛けられていた最後の布キレがスルスルと足を滑り降りて行った。
「大丈夫だ、ほら。」とR−1が知らず知らずのうちにシーツをがっしりと
握り込んでいたS−1の手首を掴んだ。
そのまま、自分の変化した場所にそっと触れさせる。
「固エだろ。」覗き込んだS−1はなんとも不思議な顔をしていた。
得体の知れないモノを初めて触って、驚いて、どう言えばいいのか
多分、判らないのだろう。
S−1の声を聞いて、R−1の理性が僅かに肉欲に勝った。
自分の体も雄として当然の変化をしている事をS−1に教え、
お互いが素肌を晒していて、何も怖がる事などないと伝えて、
この初めての行為を、やっと、自分が思い描いていた形へと近付けて行く。
「何もヘンな事、ねえんだ。」
「こうなるのが普通なんだ。」
そう言いながら、S−1が痛くない様にゆるゆるとS−1のそれを握った手を
動かし始める。
S−1が体の下で息を詰めた。肩先に、S−1のつま先に、ギュっと力が入ったのを
R−1は見下ろしている。
S−1の手が軽く、握ったままのR−1自身がその視界からの刺激でビクっと脈打った。
「俺も」
「動かして」
「イイか?」
すると、R−1の愛撫に息を弾ませたS−1の途切れ途切れな小さな声が聞こえた。
「ああ。」R−1にはその声さえも刺激になった。
短く、そう答えるのが精一杯で体中が内側から燃える様に熱くなる。
R−1の手と指の動きを倣うように、S−1の手と指が動く。
少し遅れて、S−1はR−1と同じ動きをするけれど、
自分で自分を愛撫するのとは全く違う感覚に、R−1は目が眩む。
指で擦り、掌でしごき、時に柔らかな袋上の個所を包み込み、
それはとても単純な動きなのに、体は脳みそから蕩けそうだ。
ただ、聞こえる荒い気遣いはどちらのものかさえわからなくなってきた。
徐々にそこへ湿った音が混じり始める。
口付けも深く、舌先は絶え間なくじゃれ合う。
「あ、R−1.」切羽詰まった声でS−1がR−1を呼んだ。
「ああ。」それが何を意味しているか、R−1は初めて肌を合わせたと言うのに、
すぐにわかった。S−1はもう、昇り詰めたくて苦しいのだ。
今、R−1も体中に快感の渦が爆発寸前になっていて、それが苦しくなっていた。
掌での愛撫を止めて、ピッタリと体を添わせた。
お互いの濡れそぼったモノが重なって、少し体を上下に揺するだけで
背中に電流のような甘い痺れが走る。
それが欲しくて、R−1はS−1を組み伏せたような格好のまま、激しくその動きを繰り返した。
「ッウ・・・ッウ。」
S−1は顔を逸らして、枕の端を骨がギシギシと軋むほどの強さで握りしめて、
歯を食いしばり、声を殺している。
けれども、堪え切れなくなったのか、胸が上下して小さな喘ぎ声が漏れ始める。
それは喉がなるような音にも聞こえるけれど、R−1は間違いなく、自分の体で
S−1が身を捩るほどの感覚を得ている事が嬉しくて、
抱き締め、動きを止めもしないで 無我夢中で何度も口付けをする。
「・・っあ・・あっ。」悲鳴のような喘ぎがS−1の口からあがって、
「・・・っく・・っう・・」苦痛を堪えるような吐息がR−1の口から盛れ、
S−1の背中がしなって、二人の身体は小刻みに瞬間、震えた。
途端、R−1とS−1の体に挟まれていた二人の男性自身から殆ど同時に
生暖かい体液が飛び出てくる。それが体から出て行く瞬間に頭が真っ白になって、
意識がぼやけるほどの快感を二人は初めて感じた。
そのまま、二人は呼吸が静まるまでずっと抱き合っていた。
何も言葉が出せなくても、聞けなくても、そうしてお互いの鼓動を聞いていると
なんの不安もなく、心地良い眠りに誘われる。
「S−1、どこにも行くなよ。」何故、そんな言葉が出てきたのか、朦朧としていた
R−1には判らない。
S−1は小さく頷いて、R−1の腕の中ですぐに寝息を立てはじめた。
どのくらい眠ったのか、気がついたら、R−1も何時の間にかぐっすりと
眠っていたらしい。朝の光りが瞼を直撃して、それは甘い眠りの中にいた
R−1を無理矢理叩き起こした。
「S−1、」とR−1は満足しきって、幸福に満ちた気持ちで、
昨夜の名残を見納めておこうと眠っているS−1の顔を息が掛るほど近くまで
寄って眺めようとにじり寄った。
そして、一目見て、愕然とする。
隣では生まれたままの姿でS−1がシーツに包まる様にして眠っていた。
固く閉じられている瞳の、その目尻からは朝露のような涙が
膨れ上がっていて、よく見れば、その頬には一晩泣き明かしたかと思うほど、
涙の跡が幾筋も残っている。
(なんでだ。)何故、眠ったまま、涙を零しているのか。
苦悶の表情を浮かべるでもなく、S−1は昏睡しているかのように深く眠っている。
R−1は、「サンジの突然変異」型のS−1の成長の変化が落ちつくまで、
研究日誌を書き残してきた。例えば、病気の抗体を作る為にどんなワクチンを
用いたか、筋肉の成育具合など、S−1の命が避ける事の出来る危険から
いかに守るかを考える為にそれはどうしても必要な事だったからだ。
その中で、自分が書き残した癖に自分でも理解出来ない個所があった。
「自分達ではどうにも出来ない障害。」
「何もかもを消去し、その障害に対処する事にした。」とだけ。
一体、なにがあって、何を消去したのか、全く判らない。
R−1は動揺して、
S−1の零す涙の理由がその意味不明な日誌の言う「障害」の所為なのか、と、
その時は考えも出来なかった。
揺り起こしてみても、耳元で呼んで見ても、S−1は目を醒まさない。
ただ、寝言の様にぼんやりと何度もR−1を呼んでいた。
いつまでも涙が止まらず、それを見ているとR−1はいても立ってもいられなくなって、1時間以上もずっと枕もとでS−1を呼び続けた。
泣きはらして腫れぼったくなってしまった瞼がピクリと動いて、
ゆっくりと開く。
「どうしたんだ。」
「ずっと、泣いてたみたいだった。」とR−1は自分の昨夜の強引な行為の所為なのか、と居た堪れなくなっていて、すぐに声を顰めてそう尋ねた。
「物凄く怖くて、嫌な夢を見てた。」
「逃げたくても逃げられなくて、ずっと怖いところに置き去りにされたみたいな。」
掠れた声でS−1はそう答えて、体を起こした。
「なんだか、頭が痛エ、もう少し寝てていいか。」
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