「R−1は、ハーフテールのオッサンやエースが嫌いなのか?」

食事を摂る為に入った、いかにも女性が好きそうな洒落た店で、
R−1がメニューを眺めていると、同じ様にメニューを見ていた
S−1が唐突にそう言い出した。

「は?」何を食べようか、と暢気に考えていただけなので、
R−1はすぐに答えられずにもう一度、S−1の言葉を聞き返した。

「だから、R−1は、オッサンとかエースは嫌いなのかって聞いたんだ。」
「俺は、お前以外の人間に興味が無いだけだ。」

R−1はこれ以上ない程明確に、かつ、簡素にS-1の質問に答える。

「興味が無いのと、好きか、キライかは違うと思う。」
「何を食うか、決めたのか。」

S−1がR−1の答えに不服そうに言うのを最後まで聞かずに、
R−1はその話しの腰を折ろうとした。

「決められない。」とS−1は渋々、もう一度メニューに目線を戻した。
「どれも食った事の無いモンばかりだから、」
「どんな味なのか知らねえし。どれも美味そうな名前だし。」

そう言うと、難解な哲学書を読むような顔付きで真剣にメニューに見いった。

「お決りですか?」と若い女性が二人に愛想良く声を掛けてくる。
「ええと。」とパッとS−1はその女性の方へ顔を向けた。

「どれも美味しそうで決められないんです。」とこちらも愛想良く笑って、
そう言うと、ウエイトレスの女性はにっこりとS−1に微笑み返した。

「お腹が空いてらっしゃいますか?」
「はい、とっても、空いてます。」

(決めてねえって言ってるんだから、さっさと別の客のところへ行け)と
R−1は、S−1と気安く会話しているウエイトレスに迷惑げに
一瞥する。

「適当に見繕って、2、3品持ってきてくれ。」とR−1は
ぶっきらぼうにS−1とウエイトレスの会話に割って入った。

「かしこまりました。」とウエイトレスは、一瞬、R−1のその態度に
驚いたようだが、すぐに何事もないようなあたりさわりの無い態度を装って、
二人のテーブルから離れた。

「なんだよ。せっかく話しをしてたのに。」とS−1はまた、不満げに眉を潜め、
R−1を批難する。

「あの女は仕事中だろ。邪魔してるお前が悪い。」とR−1は憮然と答えた。
「あ。」

S−1はR−1の理屈を納得したらしい。
「そっか。そりゃ、そうだ。」

「R−1は女の子を見ても、可愛いな、とか思わないのか。」とS−1は
席の周りを忙しく立ち働いているウエイトレスをチラチラと見ながら、
R−1に尋ねた。

「全然。」とR−1は面白く無さそうに答え、
「なんだか、皆同じ顔にしか見えねえな。」

「嘘だろ。」とS−1は呆れたように溜息をついた。
「興味の無い事は覚える気にもならないからな。」とR−1は涼しい顔で答える。

「ふーん。」とS−1はR−1をまじまじと見た。
「男なのに、変だ、それ。」

「別に変じゃねえ。」とR−1はコップに注がれた水を一口飲んでから、
「お前こそ、名前も知らない女の何にそんなに興味が引かれるんだ。」

「名前、知らない事ないぞ。さっきの女の子は、」とS−1はちゃっかり
そのウエイトレスの名札と見て、名前を覚えていて、その名前を口にした。

そして、雑談し、食事を済ませ、その店を出る。

「R−1は、オッサンにもエースにも興味がないって言ってたけど、」
「俺は、二人ともイイ人だと思うんだ。」

この島で、暫く落ちついて暮らす為に、小さな部屋を借りよう、と二人は
町の中をそう言った物件を探しながら歩く。
その道すがら、S−1はR−1にそう言った。

「エースはともかく、得体の知れないおっさんまで信用するのは、」
「俺は賛成出来ねえぞ。」とR−1は真面目な顔で答える。

「イイ人だ。絶対」とS−1は断言した。
「親切じゃないか。買い物に行ってくれたり、俺を心配してくれたり。」

「胡散臭エ。」とR−1は首を振った。
「どこが?」とS−1は即座に聞き返してくる。

「顔も、声も、目つきも、スカーフの巻き方も。」とR−1はどうでもいい事のように
いい加減に答える。

「俺も最初はそう思った。」
「でもさ、ピーの為にイモムシとかミミズとか獲って来てくれたんだぜ?」
「俺なら、R−1に頼まれたって、世界中の可愛い女の子から頼まれたって、」
「絶対できねエもん。」

(それはそうだろうが。)とR−1は答えに窮した。
そう言う尺度なら、確かにそうだろうが、あのハーフテールを
「イイ人」と判断する材料には絶対にならない。

「俺は苦手でもあのオッサンは虫を摂って、お前の気を引こうとしてるのかも
知れねえぞ。」
「なんの為に?」

R−1の言葉にS−1は首を傾げた。

長い髪が頭を動かす度にサラリと揺れる。
自分を不思議そうに見る、青紫の瞳は透明な輝きで、
見つめられているだけで、R−1の心臓の鼓動は早くなる。

思わず、S−1の言葉に何も答えず、黙ったまま、R−1は
数秒、肌色がほのかに桃色に染まって、顔色のいいS−1の顔に見惚れていた。

「おい。」とS−1は怪訝な顔をしてR−1に答えをせっついた。
「ああ、」
「なんの為かには興味ないからわかねえ。」とR−1は慌てて摂り繕うように
答える。

「興味ない、ばっかりだな。」とS−1は肩をそびやかし、口をヘの字に曲げた。
「だから、言ってるだろ、俺は、」
「お前が何を考えてるか、とか、何をしたら喜ぶのか、とか。」
「そんな事しか興味がないんだって。」とR−1はなんの躊躇いもなく、
当たり前のように言った。

そんな仲睦まじい会話をしながら歩いていると、人ごみの中で視線を感じ、
R−1とS−1はすぐにその視線の主を見つける。

「よお。」と二人と目を合わせて、近づいて来たのは、
「用がある」と出掛けていたエースだった。

「家、探してンだろ。」
「いいの見つけといてやったぜ」

(何を企んでるんだ、今度は。)とR−1は無言でエースに尋ねると、
エースはそのR−1の思惑を察して、不敵に、だた、笑った。

だが、エースとR−1のそんな感情のやり取りがS−1に判るわけがない。
「エース、そこまでしてくれなくても、俺達、ちゃんと暮らせるよ。」
と本当に申し訳なさそうに言うだけだ。

「気にすんな、俺は好きでやってんだから。」と
エースは気の良い笑顔をS−1に向けた。

「こっちだ。」とエースは二人を誘って歩き出す。

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